第42話

 19層でしっかりと鍛錬をした2人はランクSSクラスを相手にしても問題のない程の成長を見せていた。そうして19層の攻略を開始したダンとデイブ。時間をかけてSSに慣れたことと個人のスキルが上達したこともあり19層を問題なく攻略していく。


 このフロアは通路の左右に所々に小部屋があり通路以外にその部屋にも魔人がいる。2人は19層をしらみ潰しに移動しながら攻略していた。


「通路の先を曲がったところに気配があるな」


「ああ。どうする?ダンから仕掛けるか?俺が魔法を打とうか?」


「俺がやる」


 ダンはそういうとわざと足で地面を叩いて大きな音を出した。すぐに角から魔人が1体現れたがその時ダンは既にその角に近づいていて、曲がって姿を現した魔人の腹を片手剣で数度切り裂くと魔人は攻撃する間もなくその場に倒れ込んで消えていく。


 また一段と剣先が鋭くなってるな。背後からダンを見ていたデイブ。先に角を曲がったダンが声を上げた。


「小部屋に宝箱がある」


 続いて角を曲がったデイブ。曲がったところは行き止まりになっていてその右手に扉のない小部屋があり中央に宝箱が1つ置かれていた。


「魔物の気配はない。開けるぞ」


 万が一を想定して戦闘態勢になっているデイブの前でダンが宝箱に近づいて蓋を開けると中には金貨が詰まっていた。


「結構あるな」


「100枚はくだらないぞ」


 2人で数えながら魔法袋に収納した金貨は合計で150枚。金貨を全て取り出して空っぽになった箱は放置し再びフロアを攻略していき、そうして20層に降りる階段を見つける。


「予想通りここがボス部屋か」


 部屋の前で座り込んで水分を補給する。


「それにしても金貨150枚は助かるな」


「ああ。これでまたワッツとレミーの店でいい装備を買えそうだ」


 ボスを前にしても負けることを一切考えていない2人はしっかりと休息をとって立ち上がるともう何も言わなくてもデイブがレバーの近くに立つ。


「いつでもOKだ」


 ダンのその声でデイブがレバーを下ろすと大きな扉が左右に開いて中が見えてきた。


「なるほど、19層を見て予想はしていたが魔人のボスか」


 広い部屋の中央に槍を持っている魔人が1体立っている。背丈は19層の魔人よりも高くそして醸しでている雰囲気もランクSSよりも上だ。背後から


「いつものパターンで」


 わかったと右手に持っている片手剣を上に上げたダンはじっと魔人を見ながら広場に出たと思ったらいきなり魔人が槍を投げてきた。槍を持っている右手の動きで投げてくることを予想していたダン、身体をひねってその槍を交わす。すると背後の壁に突き刺さった槍がいつの間にか魔人の手に戻っている。


「いやらしいじゃないの」


 ダンが魔人と対峙している間にデイブも広場に出て魔人の背中側に立つ。再び槍を投げてきた魔人、今度はダンは左手に持っている片手剣でその槍を弾き飛ばす。魔人が槍をなげると同時に背中側にいたデイブが精霊魔法をその魔人の首の後ろにぶつけた。


 弾き飛ばされた槍が魔人に戻ると今度はデイブに槍を投げる。するとダンが精霊魔法を同じ様に首の後ろにぶつける。


 交互にタゲを取りながら遠隔で魔人に攻撃していく2人。そうしながらダンは少しずつ魔人に近づいていき、魔人がデイブに槍を投げた時に背後から片手剣で背中を斬りつけた。大きな声を出して投げた槍を受け取ったその時、再びダンの片手剣が今度は槍を持っている右手首に片手剣を切りつけると槍を持っている手首から先が飛び散って床の上に落ちていく。


 槍は今度は魔人の左手に戻ってきているがその時はまたデイブの精霊魔法が魔人の切り取られた右手に当たって再び大きな声をあげる。


 右の手首から上がなくなりバランスが少し悪くなったところを見逃さずにダンが目にも止まらない速さで両手に持っている片手剣を振ると今度は左手の手首が切られて床に落ちた。左手首に握っていた槍もそのまま手首と一緒に落ちた。


 こうなるともうあとは2人で前後から剣と魔法で攻撃手段を持たない魔人を攻め続ける。大柄なせいか相当体力はありそうだがそれでも少し立つと身体中を切られ、魔法をぶつけられた魔人は床に倒れ込んで消えていった。


「でかいだけだったな」


「槍が持てなくなったら体力が多いだけの雑魚になった」


 そんな話をしていると魔人が消えた場所に宝箱が現れる、デイブが開けると中には片手剣が2本、そして大きな魔石が入っていた。


「片手剣の種類が違うな」


 箱を見ているデイブがいうとダンも同じ様に宝箱の中を覗き込む。そして


「本当だ。全然違うがどちらも優れものに見える」


 とりあえず持っとくぞとデイブが片手剣2本と魔石を魔法袋にしまうとボスを倒してから現れた転送版に乗って地上に戻ってきた。


 2人が攻略してそう時間が立たずにレーゲンスのギルドでは攻略されていた難易度が高いと言われているダンジョンがクリアされたと掲示板に表示される。それを見た冒険者達は一様に、


「ノワール・ルージュの奴らだ」


「あのダンジョンをクリアしたのか、下層ではランクS以上がいるって話だったのに2人で最後まで行っちまったのかよ」


 などと掲示板の前に集まっては思い思いに話をしているところにギルドの扉が開いてダンとデイブの2人がギルドに入ってきた。中にいた冒険者達の視線が一斉に2人に注がれ、


「あのダンジョン、クリアしたのか?」


「ああ。さっきクリアして戻ってきたところだよ」


 デイブが答えるとギルドの中でウォーと歓声があがる。集まってきた冒険者達から肩や背中を叩かれながらカウンターに着いた2人。


「ダンジョンのボスを倒してきたよ」


「わかりました。こちらにどうぞ」


 受付嬢について2人は奥の部屋に案内させられる。ソファに座っていると直ぐにギルマスのカントレーが受付嬢と一緒に部屋に入ってきた。


「クリアしたらしいな」


「してきた。これが戦利品だ」


 そう言ってデイブが魔法袋から魔石と片手剣2本を取り出す。その魔石を見たギルマスが顔を上げて2人を見て


「黒の魔石か、珍しい。ボスは何だったんだ?」


「大型の魔人が1体だった」


 デイブの言葉を聞いてびっくりするギルマス。


「魔人か。確か19層の魔人相手に鍛錬しているって言ってなかったか?」


 その言葉に頷く2人。デイブがそうだよと言って


「19層の魔人はランクSSクラスだった。俺とダンはそこでじっくりと鍛錬してから19層を攻略して20層のボス層に降りたんだが、そこにいた魔人は19層の魔人よりもでかく、そして雰囲気は19層の魔人以上だったよ」


「そいつを2人で倒したのか?」


「敵は1体だけだったし。槍を持って投げてきたけどいつも通りデイブと俺でボスを挟む様に立って交互に攻撃して倒したんだよ。身体がでかくて体力だけある奴だった。特殊な攻撃もしてこなかったし倒すのは時間はかかったけどやばいという局面はなかったな」

 

 ダンの説明を聞いているカントレー。ランクSS以上の敵を相手にやばい局面がなかった、でかいだけだったと言える冒険者は普通はいない。19層でランクSS相手にスキル上げというか鍛錬をしていると聞いた時点でもう普通の冒険者のレベルじゃないとは思っていたがその上のクラスのボスをあっさり倒してくるとはな。ちょっとこいつらより強い冒険者はいないだろう。そう思いながらダンの話を聞き終えると、


「わかった。とにかくクリアおめでとう。魔石はギルドで片手剣はお前さん達が使うってことでいいのかい?」


「それで頼む」


 そう言って受付嬢は魔石を鑑定するために席を立って部屋を出ていった。片手剣は再びデイブが魔法袋にしまう。


 そう時間がかからずに受付嬢が魔石が魔人であったのが確認できたということで2人はギルドカードを受付嬢に渡し、ソファから立ち上がる。


「まだレーゲンスで鍛錬を続ける予定かい?」


「どうするかこれからダンと相談するよ」


「わかった。もしヴェルスに戻るんなら街を出る前に顔を出してくれ」

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