第41話

 翌日2人がギルドに顔を出すとそこにいた連中の視線が2人に注がれる。ノワール・ルージュという呼び方はここレーゲンスでは冒険者の間であっという間に広まっていた。


 当の2人は視線を無視してカウンターに顔を出すと地上の乱獲クエストを受けてそのまま外に出ていく。


 森の奥に入ってランクAを乱獲してクエストを消化し魔石を換金した2人は翌日はダンジョンにいた。17層に飛んだ2人は目の前のフロアを見ている。


「ランクSが4体か」


「杖を持っているのも見えるな。まぁ数が増えても一緒だろう。行くか」


 デイブの声に頷くと洞窟の中に突っ込んでいくダン。気がついたランクSの魔道士が杖を構えた時にはダンの背後にいたデイブの精霊魔法がその魔道士の顔に命中して詠唱が中断される。

 

 ダンはデイブを信じてスピードを緩めることなくそのまま集団に突っ込むと両手に持っている片手剣で魔道士ともう1体の腹をざっくりと切り裂く。そしてすぐに方向転換をして2本の剣を振って残りの2体の腹を切り裂く。


 その頃には後ろから来ていたデイブの剣が2体の魔獣の背中を切り裂き、4体を挟む感じにたった2人が途切れる事なく4本の剣を振ってあっという間に4体のランクSを倒した。


 その後も洞窟の広い通路を進んで時には精霊魔法を撃ち、剣を振りながら17層を攻略した2人は18層に降りる階段を見つける。


「18層と同じ洞窟のフロアか」


「固まってる数が5体になってるな。しかもオークじゃなくてでかい虎だ」


 階段に座って休憩をとりながら目の前のフロアを見ていた2人。ダンがおもむろに立ち上がるとデイブも続けて立つ。


「虎なら遠隔や魔法がない、数がいても一緒だ」


 ダンがそういうとデイブが横に来て2人で無造作にフロアに進み出た。視界に見えるランクS5体に魔道士や遠隔持ちがいないなら楽だと言い切れる程にダンもデイブも強くなっている。


 こちらを見つけて5体の虎が襲いかかってきた時に2体の顔に2人の精霊魔法がぶつかって2体がその場で動きを止める。魔法を撃って走り出した2人は向かってきた3体を片手剣で一閃してその首を刎ねるとそのまま魔法をぶつけた2体の首もはねとばした。


 2人の背後で消えて行く5体の虎を見ずにそのまま洞窟を進んでいき、次々と現れるランクSの虎を倒しては進んでいく。


 普通ならオークよりも素早い動きで襲いかかってくる虎の攻撃を交わすのは簡単ではないがこの2人は既に上のレベルにいたので苦もなく避けながら次々と倒しては奥に進んでいった。

 

 そうして19層に降りる階段を見つけてその階段を降りていき石板に記録する。


「ランクS以上だ」


 デイブが前を見て声を出す。

 

 19層は石の壁の通路になっていてその通路に1体の魔人が立っているがその魔人が出している雰囲気は18層にいた魔獣とは違っている。2人ともその雰囲気を感じ取っていた。


「こりゃいいぞ、スキル上げにちょうどいいじゃないの」


 ダンは強い相手を見つけて片手剣を抜きながら言う。


「その通りだ、ここでまたじっくりと鍛錬しようぜ」


 そうして通路の1体を釣っては2人でランクS以上の魔人と対峙する。ランクSよりさらに上のクラスの魔人の動きはそれまでの魔獣よりも早く鋭いがそれを避けながら剣と魔法で攻撃する2人。


「これはいい鍛錬になるな」


「ああ、こいつをさっくり倒せる様になるまでここで鍛錬だ」


 1体を倒すのに時間はかかるがそれでもほとんどダメージを受けずに魔人を数体倒したところで2人は地上に戻っていった。


 街に戻ってギルドの受付にカードを出して今日の討伐の記録と精算を頼むと、そのカードから読み取ったデータを見た受付嬢の表情が変わる。データを見てそれから2人に顔を上げると、


「ランクSを相当倒している上にランクSSまで倒してるんですか?それもお2人で」


「ランクSSなのか。どうりで硬くて素早いはずだよ。相手が強いからいい鍛錬になってるよ」


 珍しくダンが答えると隣に立っているデイブが


「そうそう、しばらく19層に籠ろうかって話をしているんだ。地上じゃこのレベルの敵はいないからね」


 2人と受付嬢のやりとりを近くで聞いていたこの街の冒険者はやりとりの内容を聞いて驚愕している。2人がギルドを出て行くとその男は酒場に行きそこにいた仲間に、


「難易度の高いあのダンジョンを18層までクリアして、19層ではランクSS相手にスキル上げするってよ」


 その言葉に酒場にいた連中が皆びっくりする。


「桁違いの強さじゃないかよ、ノワール・ルージュ」


「近いうちにあのダンジョン、2人でクリアしそうだな」


 そんな話をしている酒場にはトムのパーティメンバーもいた。トムは顔を向けてそいつらの話を聞いた後に自分のテーブルに顔を向けると座っている同じパーティメンバーに


「鍛錬場で見てたけど俺達より数段レベルが上だ。ランクSのリンクは当たり前の様に倒してる様だしな。ランクSS相手に鍛錬するってのも頷ける話だぞ」


「あいつらをランクAと思わない事だな。あそこまで強いと悔しいって気にもならないぜ」


 ノックスが言う。


「それほどなの?」


 鍛錬場での模擬戦を見ていなかった精霊士のリーが聞いてくる。前衛3人は同時に頷き、


「それほどだ。特にダンという暗黒剣士。あいつは半端ない。奴の剣捌きは俺は見えなかった。ギルマスですら目で追うのが精一杯と言っていた。デイブの剣も俺達よりずっと上だしな。その剣の能力に加えて2人とも魔法が撃てる。2人組と言いながら実質4人のパーティ、いやそれ以上になっていると考えていいだろう」


 トムの言葉にあの時鍛錬場にいたノックスとハワードもその通りだと言う。


「世間は広いな。とんでもないのがいるぜ」



 2人は翌日を休日にしてしっかりと休んで疲れを取ると再びダンジョンの19層に飛んでそこで階段の近くに湧くランクSSの魔人を相手に鍛錬をする。


 身長は2メートル以上、真っ黒い体にツノの生えている頭。時には剣を持った魔人、そして時には斧を持っている魔人、そして杖を持っている魔人。湧くたびにいろんなジョブの魔人が現れるがそれを相手に片手剣の二刀流と魔法を使って2人で次々と湧いてくる魔人をひたすらに倒しまくっていく。


 この日は朝から夕刻まで同じ場所で魔人相手に鍛錬をし、そうして街に戻ってギルドに顔を出した。


「19層でランクSS相手に鍛錬してるんだってな」


 声をかけてきたトムに誘われて酒場に移動すると2人の周りに冒険者達が集まってきた。


「ああ。19層に降りたところでじっとして、近くに湧く魔人を相手に鍛錬してるよ」


 頼んだジュースを口に運びながらデイブが答える。ダンは隣に座って同じ様にジュースを飲みながらやりとりを聞いていた。


「ランクSSだろ?よく2人で相手できるよな」


「ランクSの複数体より鍛錬になるよ。2人で魔人を挟み込んで魔法と剣でダメージを与えて倒す。まだ1体倒すのに時間かかってるけどいい鍛錬になるよ」


 赤いローブを着て淡々というデイブ。気負いもなければ自慢もない。2人が今していることを普通に話しているだけだ。それでもトムや同じパーティメンバーにはそこに座っている2人から出る強者のオーラが見える。


「ここのギルマスがお前さん達はランクAじゃなくてもっと上のクラスの実力があるって言っていたが本当だな。普通ならランクS複数体を相手にするのも厳しいのにそのフロアを攻略して今やランクSSが鍛錬の相手になっているんだからな」


「一つ間違うと大怪我か最悪死んでしまう。ギリギリのところで戦闘訓練、鍛錬をしないと強くなれないって俺達は信じてる。そりゃきついよ。でもそれを続けていると自分が強く、上手くなっていくのが実感できる。まだ19層を攻略できるレベルじゃないがそれでもやる度に強くなってきているってのを体感できるってのは鍛錬のモチベになるね」


 隣で黙っていたダンが口を開いた。周囲にいた冒険者は顔をダンに向ける。デイブと違ってどちらかと言えば無口だがその戦闘能力、特に剣の技術については模擬戦を見た連中は皆知っている。決して大きくない身体で両手に持っている片手剣が見えない程の速さで動いていた様子を思い出しながらダンの言葉を聞いていた。


 2人はその後も3勤のうち2勤は19層で魔人相手に鍛錬を続けていた。2人がレーゲンスに来てから3ヶ月が過ぎていた。


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