第40話

「あいつら何者だ?」


 鍛錬場での2人を見ていたトムが呟くと、隣にいたノックスが


「トム、ハワード。あの2人の剣捌き、見えてたのか?」


「かろうじてデイブは見えた。目で追うのが必死だったがな、デイブはすれ違いで3回剣を振っている。それはギリギリ見えたがダンのは全く見えなかった。トムはどうだ?見えていたか?」

 

 ハワードの言葉に大きく首を左右に振るトム。


「いや、俺にも見えなかった。デイブのも見えただけだ。実際面と向かったら見えても対処できないだろう。それくらい早い。そしてダンだ。あいつの剣捌きは全く見えなかったよ。対峙したら訳が分からないままにぶちのめされる。あいつら半端ないぞ」


「デイブは3回、そしてダンは4回打ち込んでいる」


 突然後ろから割り込んでくる声。その声に振り返るとギルマスのカントレーがそこに立っていた。


「4回…」


 ギルマスの顔を見て思わずつぶやいたノックス。それに対して


「2人ともあれは本気モードじゃないな、デイブが7、8割ほど、ダンに至ってはせいぜい5、6割程しか力を出してないだろう。ジニーらも一応ランクAの冒険者だ。それを全力をださずともあっという間に倒している」


「なんて奴らだ、本気モードじゃなくてあれかよ」


 そうだ、それであのレベルだとカントレーは今の模擬戦を見ていた。自分も目で追うのがやっとだった。特にダンの動きは目を凝らしてじっとみてやっと見える程早くて鋭い。


 彼ら2人は結局ほとんど体を動かしていない。本当ならもっと身体能力が高いはずだ。軽くかわしてすれ違い様に剣を振っていた。どうみても本気モードには見えなかった。


 2人組であの若さでランクAになっているのは当然だ。受付嬢からの報告じゃ難易度の高いダンジョンの攻略記録を更新中で、今は15層だか16層にいるランクSを複数体相手に毎日スキル上げをしているという。実際に見てみると確かにランクS複数体を相手にしないとスキル上げにならない程のレベルにある2人だ。


「実力的には2人ともランクAじゃないな、既にその上のランクになってるぞ」


 他所から来ている2人組にレーゲンスのギルマスがベタ褒めだ。ギルマスは続けて周囲にいる冒険者達に顔を向けると


「今言った様にあの2人は実力的にはランクA以上、既にランクSレベルだ。他所からきてるからって変なちょっかいを出すと痛い目にあうぞ」


 

 ダンとデイブは鍛錬場での模擬戦が終わるとそのままギルドを出て宿に戻ってきていた。食堂で夕食をとりながら明日行こうの打ち合わせをしている。


「明日は休養日にしてフィールドで1日、そして次の日から17層に挑戦するか」


「そうしよう。この街でどんなのが売っているのかも見てみたいな」


「それにしてもあいつら弱かったな」


 打ち合わせが終わるとデイブが言った。


「ランクAとか言ってたけど本当か? それこそ護衛クエか何かでポイントを貯めてランクを上げてきたとしか思えない。歯応えが無さすぎだよ」


 ダンが言う。


「その通り、まぁでもこれでワッツとレミーが言ってた様に皆見てる前でランクAをぶちのめしたからもう大丈夫だろう」


 2人が宿の酒場で話をしている同じ頃、ギルドの酒場では鍛錬場から戻ってきた冒険者達が酒を飲みながらさっきのダンとデイブの模擬戦の話しで盛り上がっていた。


「暗黒剣士の剣さばきを見切れた奴はいるのかよ?」


「いないだろう。ギルマスも目で追うのがやっとだったって言ってたしな」


「しばらく攻略がされてなかった例のダンジョンが最近16層までクリアされている。攻略してるのはあの2人組らしいぞ。なんでもランクS複数体相手にスキル上げしながらフロアを攻略しているって話だ」


「ランクS複数体相手にスキル上げ?」


「いや、今日のあれを見たら納得だ。あいつらに取ってはランクS単体は雑魚に近い存在になってるんだろう」


 それまで周りの話を聞いていたトムが口を開くと隣に座っているノックスも


「あの2人ならそうなるだろう。俺たちが逆立ちしたって勝てやしないぞ」




 翌日朝の鍛錬を終えた2人はレーゲンスの街の中をぶらぶらと歩いていた。黒のローブのダンと赤のローブを来ているデイブ。2人が商業区を歩いていると昨日鍛錬場にいた冒険者が2人を見つけて


「ノワール・ルージュだ」


「外見からはあの腕前は想像つかないが、桁違いに強かったな」


 そんな言葉を交わしながら2人を見る。当の2人は周囲の視線をよそに武器屋や防具屋を覗いたりしていた。


「どこの街でも売ってるものはだいたい同じだな」


「となると俺達はやっぱりワッツとレミーの見せで買うのが一番いいってことだ」


 そうして商業区を歩いていると大通りから入った細い路地の奥に雑貨屋を見つける


「ミンの雑貨屋みたいなのかな?」


「ダン、入ってみようぜ」


 2人が扉を開けて店の中に入るとそこには指輪や腕輪などの装備品が陳列ケースの中に綺麗に並べられている。


「いらっしゃい」


 店の奥から声がして年配の女性が奥から出てきた。年配というか初老の様に見える。


「探し物かい?」


「というかどんなのがあるのかなって」


 デイブが言うとその女店主が2人の装備を見て


「2人ともいい装備を身につけてるじゃない。腕力に魔力、そして素早さがアップする装備かい」


「わかるんだ?」


 ズバリ当てられてびっくりするダン。女店主はふんっと言ってから


「こんな商売してるってことは鑑定スキルがあるのさ。でないと偽物を摑まされるだろう?」


「なるほど」


「見ない顔だけどこの街所属の冒険者じゃないよね?」


「ああ、ヴェルスから武者修行でやってきたんだ。俺はデイブ、こっちがダン。赤魔導士と暗黒剣士の2人組さ」


 デイブが自己紹介すると


「ヴェルスからかい。あたしゃウィーナだよ。それにしても赤魔道士も少ないが暗黒剣士はほとんどいない。レアなジョブの2人が組んでるってことかい?」


 頷くダンとデイブ。ウィーナが椅子を勧めてきてそこに2人が座るとデイブが2人組で活動している理由をウィーナに話する。なるほどねと相槌をうったウィーナ。


「見ての通りここはアイテム屋という看板は出てるが売ってるのはほとんどが冒険者用の装備品だよ。2人が今装備している以外となると体力が上がる腕輪くらいかね」


 腕力の腕輪は瞬間的なパワーをアップさせるものに対して体力の腕輪とは持久力を上げるものだ。格上やボス戦で戦闘が長期化した時に効果を発揮すると言われている。


「ダンといったかい?あんたは暗黒剣士だからスキルがあるからいらないだろう。いるとしたらデイブの方だね」


「ほう。暗黒剣士のジョブスキルを知ってるんだ」


 ウィーナの言葉を聞いてびっくりするダン。


「商売だからね。ジョブの特性は理解してないと勧められないだろ?」


 そうしてデイブを見て


「ところであんたの魔力の自動回復はどんな感じだい?」


「ようやく当てにできるくらいにまでなってきたよ」


「となると相当強いってことだね」


 2人のやりとりを聞いてびっくりするダン。デイブから今までそんな話は聞いたことがなかったからだ。


「赤魔道士は魔力が自動回復するジョブスキルがあるのか?」


 ダンの言葉にはデイブではなくウィーナが答える。


「そうだよ。ただ赤魔道士ってのは最初はそのスキルが発動できないんだよ。ある程度強くなってスキルが上がって初めて顕在化してくる。それでも最初は本当に少しだけ回復するだけさ」


 ここで一旦言葉を聞いてデイブを見たウィーナそして顔を再びダンに向けると、


「そんな中、今デイブがようやく当てにできるくらいになったって言っただろう?裏を返して言えばデイブが相当強くなっているということになるんだよ。普通のランクAクラスじゃ赤魔導士のスキルの恩恵を体感できないね」


 言ってなかったんだけどと前置きしてデイブがダンに説明をするには、赤魔道士はスキルが上がると自動で魔力を少しずつ回復させるというのがジョブスキルになっている。回復する量はスキル依存で強くなればなるほど時間あたりの魔力の回復量が増えていくらしい。


「それにしてもそれって凄いじゃない」


「ダンの体力ほどじゃないけどな、それでも戦闘中は随分楽になってるんだよ」


 今まで黙ってて悪かったとデイブが言う。


「それにしてもウィーナは物知りだ」

 

「歳だけは食ってるからね」

 

 暗黒剣士はなり手がほとんどいないレアジョブだがその特異なジョブ特性だけは知れ渡っていた。一方赤魔道士は暗黒剣士ほどレアではないがやはりなり手が少ない上に赤魔道士やってる奴はほとんどがソロでやっている。ランクBをうろうろしているのが多いのもあるだろう。赤魔道士のジョブ特性については知っている奴は少ないらしい。体感できるまで強くなるのがいないからだろうねとウィーナは言う。


「となると今までの俺達のやり方は間違っていないって事だよな」


「そうなる」


 ウィーナへのお礼もこめてデイブは店で体力の腕輪を1つ買っていった。

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