レーゲンス

第36話

 そうして2日後の朝、ギルドに顔を出してこれからレーゲンスに行ってくると伝えた2人はヴェルスを出て一路西を目指す。


 ヴェルスを出て2日目の朝、ヴェルス管轄になっている村を出た2人はここからは人が住んでいない街道をひたすら西に向かうことになる。


 土の街道を歩く2人。たまにすれ違う商人は皆冒険者を護衛につけて東のヴェルスを目指している様だ。


「ラウンロイドとの街道を歩いている商人よりも馬車は大きいな」


 今すれ違った商人と護衛のパーティを見ていたダンが言う。


「確かにな。一度に沢山商品を運んでいるんだろう。そして長旅になるから何があっても対処できる様に護衛の数を増やしている商人もいる」


 そう言ってまたすれ違った馬車は馬が2頭の大型馬車だ。そして護衛も10名程いて大きな馬車を囲む様にして歩いていく。


 しばらく歩いているとデイブが笑いながら


「冒険者だけで歩いているのって俺達だけじゃないか?」


 言われてダンもそういえばと同意して同じ様に笑い、


「他の奴らから見たらあいつら何だよ?って思っているだろうな」


「まぁ他の違うってのが俺達の売りでもあるしな」


「そう言うこと。気にせずに行こうぜ」


 ヴェルスを出てしばらくは出会わなかった魔獣だが5日目位からその姿を見る様になってきた。街から離れているせいかランクC以下はおらずランクBが主体だ。日に2、3度の戦闘となるがあっさりと倒しながら街道を進んでいく。


 野営の初日の夜、ミンの店で買った寝袋を使った2人はその素晴らしさに感動していた。暖かくて柔らかくぐっすり眠れるのだ。おかげで翌日にはすっきりとした気分で街道を歩くことができた。


 夜は街道沿いにテントを貼り交代で見張りをしなが寝て疲れをとりそしてまた進んで行くということを繰り返し、ヴェルスを出て1ヶ月が経った頃、2人はレーゲンスとヴェルスのほぼ中間辺りにまで来ていた。


 ラウンロイドと続いている街道もこんな感じではあったが今2人がいる場所はそれよりもさらに荒涼としていた。起伏はあるが木は生えておらず岩と砂だけの場所だ。


 赤茶けた大地というか荒野が広がっている。荒涼とした風景だ。この大陸はほとんどがこんな場所だ。川もなければ森もない。到底人が住める環境ではない。


 国というものがあったとしてもこんなところに住む人はいないしここを治めたところで何も生み出さない。


 だから人々は川や緑のある場所に自分たちで城壁を作り都市イコール国家として生きていく様にしたのだ。森があればそこには魔獣もいるがそれよりも自分たちが生きて行ける場所として森の近くの水のある場所にいくつも都市国家を作り長い間にその城壁は少しずつ外側に広がっていった。そして同じ様に歳の近くの森に住んでいる魔獣には冒険者と呼ばれる人たちがそれらを討伐して生計を立てている。


 そして今2人が歩いている荒野に伸びている街道の北側のずっと先には険しい山脈が連なっていた。このモスト大陸の中央部分に聳えている山脈だ。噂ではあの山々が聳えている場所の奥深いところに黄金の都があるとか桃源郷があるとか言われているが誰も行ったことはない。遠目に見ても険しい山が続き、そこにはランクS以上の魔獣の住処だと言われている。


 過去に挑戦した者もいたらしいが皆道半ばで屍となって荒野に放置されているという話だ。


 今でも高ランクの冒険者が挑戦しようと向かって行くが大半は帰って来ず、何とか帰ってきた者は満身創痍だった。その命辛々帰ってきた冒険者によるとあそこは岩山の麓で既にランクSが徘徊しており、山を登るとランクS以上がうじゃうじゃといてとてもじゃないが攻略できる様な場所ではないらしい。


 以前ヴェルスで聞いたそんな話を思い出していると、


「水を多めに持ってきておいて正解だ。これじゃあ何もない」


「そうだな。でもデイブ見てみろよ、こんな場所でも魔獣は生息しているぞ」


 そう言ってダンが荒野を指差すとその先の方に荒野を徘徊している4体の大きなオオカミの様な魔獣の姿が見える。


「あいつらはどこでも生きて行ける。わざわざ街の近くに住まなくてもいいのにな」


「でもそうなったら俺達の仕事がなくなるぜ」


「それもそうか」


 2人でそんな話をしているとこちらに気づいたのか4体の魔獣が唸り声を上げて2人に向かってきた。


 ダンもデイブも左手を突き出すとそこから魔法が撃ちだされ、4体の中の2体の首が吹っ飛ぶ。そうして今度は剣で残り2体の首を綺麗に跳ね飛ばした。


「ランクBか」


 剣を鞘に戻しながらダンが言う。


「手応えがなかったな」


 魔石だけ取り出した2人は倒した魔獣を街道の側に放置する。そうすれば地中にいるスライムやあるいは他の魔獣が死肉を処理してくれるのだ。


 そうして再び街道を進んで行く2人。途中でランクAにも遭遇したが全く問題なく倒して一路西を目指していき、ヴェルスを出て57日目にレーゲンスの管轄下にある小さな街に着いた。数日前から街道周辺に少しずつ緑が増えてきていたのでもうすぐだろうと感じていた2人。


「ようやくだな」


 そう言って街の中にある宿に部屋を取り、その宿の食堂で久しぶりにまともな食事をとる2人。


「あんた達ヴェルスからきたのかい?」


 食事をしていると2人のテーブルの近くに座っている5名の冒険者が声をかけてきた。顔を向けるとナイト、戦士、狩人、僧侶、精霊士というオーソドックスな構成だ。


「そうだ。今日着いたところだよ」


「2人組なのか?」


 デイブが頷くと珍しいなと言い、俺達はこれから護衛でヴェルス経由でラウンロイドに向かうんだよと言う。


 そうしてお互いに情報交換をする。ダンとデイブは道中についてそして彼らからはレーゲンスについて話をした。お互いに冒険者というだけでこう言う場所や街道でのすれ違いの際に普通に言葉を交わすのが冒険者の常だ。ほとんどの冒険者は気さくでお互いに情報を出し合ってくる。そうして情報交換が終わると、


「なるほど、それほど脅威になる魔獣はいないってことか、事前に聞いていたとはいえ最新の情報があると安心するからな」


 デイブの話を聞いていたパーティのリーダー格の戦士の男が言う。


「こっちも街の様子がわかって助かったよ」


「2人組は珍しいな」

 

 ナイトの男が聞いてきた。


「ヴェルスでも俺達以外は見てないよ。赤魔道士と暗黒剣士のペアだからな、普通のパーティには席がないのさ」


 デイブの言葉になるほどそういうことかと理解するメンバー。


「お互いに気をつけようぜ」


「ああ、そっちもな」


 部屋に戻った2人。


「さっきの話だとこのレーゲンスにも2人組で活動しているパーティはいなさそうな雰囲気だ」


 ダンがそう言うと、


「まぁ俺達はスキル上げと見聞を広めるのが目的だ。2人組だと思ってナメた真似をしてきたらレミーが言ってた様にガツンと言わせてやればいい話だ」


 デイブのその言葉に頷くダン。


 

 翌日街というか村を出て街道を歩いていくと夕刻になる少し前に目の前に大きな城壁が見えてきた。端が見えないほどの巨大な城壁だ。


「レーゲンスに着いたぞ」


「外から見てるだけでも相当にでかい街だ」


 そうして城門を潜って2人はレーゲンスの街に入っていった。

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