第35話

 2人が鍛錬場にいくと数組の冒険者達が軽く体をうごかしたり鍛錬をしていた。彼らに挨拶をするデイブとダン。


 後から鍛錬場に着いたランスらは鍛錬場にあるベンチに腰掛ける。


「ダンもローブ姿なんだな。脱ぐ訳じゃないのか」


「ローブは脱がないが見ろ、ダンは強化装備を外しているぞ」


 鍛錬場に降りるとデイブは強化装備をつけたままだが、ダンはバンダナや指輪、腕輪を外していく。


「あれくらいのハンデがないと鍛錬にならないってことか」


「その通りだ。2人ともまともに装備をしていたらダンが一方的に勝つからな」


 その声に振り返るとギルマスのプリンストンが職員らと背後に立っていた。2人が鍛錬場に向かったのを見た職員がギルマスに声をかけた様だ。


「お前さん達も見にきたのか?あの2人の鍛錬を」


「ああ。さっきギルドの酒場でこっちのランクAから彼らは2人でランクSを5体倒してるって聞いたでね」


「その通りだ。最近難易度が高くて長い間誰もクリアできなかったダンジョンを2人でクリアしてる」


「聞いている。2人組で相当強そうだ。もちろんレーゲンスにはそんな奴はいない」


 ここのギルマスを向いて話をしていたランスは鍛錬場に顔を向けるとダンとデイブがそれぞれ片手剣の模擬刀を両手に持って素振りをしたり体を動かしていた。


 2人が壁際から中央に出てくると周囲で見ている者達が前のめりになる。


「いよいよだ」


 誰かが呟いたその言葉と同時に鍛錬場でダンとデイブの鍛錬が始まった。


 お互いに軽く剣を合わせて少し引いたかと思えばデイブが両手に持った剣でダンに切りつけてくる。それを同じ様に両手で持った剣で受け、時に受け流し、交わしていくダン。


「デイブのあの剣の動き、相当だぞ」


「ああ。目で追うのが必死だ」


「ダンは軽く流してる様に見えるな」


 冒険者達が話をしているのを聞きながらギルマスのプリンストンはじっと鍛錬場を見ている。確かにダンはまだ流してるな。デイブだってあれは本気じゃない。そろそろギアを上げてくるか。


 そうして見ているとデイブの剣の動きがさらに早くなっていく。それを全て受け止めては交わしていくダン。今のところはデイブが一方的に攻撃をしてダンはそれを受けているだけだ。それでもデイブの剣のギアが上がると


「早くて鋭い」


 という声があちこちから上がる。ランスはじっと2人の模擬戦を見ていた。


「見えないぞ」


「凄いな、そしてダンって奴はそれを全部受け止めている」


 デイブは両手に持った片手剣を上から横からダンに切りつけてくるが全てを自分の両手に持っている剣で受け止めるか軽く身を引いて剣先をかわしていく。


 赤魔道士ということだから剣は得意じゃないと思っていたが、あの剣さばきは本物だ。見事に二刀流をモノにしている。プリンストンはデイブの剣さばきをじっと見ていた。


 デイブがさらにギアを上げた。模擬刀同士がぶつかり合う音が鍛錬場に響く。


「また早くなってる」


 誰かがそう言ってしばらく見ているとダンの左手に持っている片手剣が弾き飛ばされた。


「デイブの剣はランクAの剣じゃないぞ、動きがめちゃくちゃ早い」


 戦士のボブが前を向いたまま言うとそうだなと頷く他のメンバー。


 ダンが飛ばされた剣を拾い上げると今度は攻守が逆になった。

 始まった瞬間に声をあげる冒険者。


「デイブもすごかったがダンはさらに凄い。こりゃ別格だ」


「軽く流している様に見えるが、それでもさっきのデイブの2段階目くらいの速さと鋭さだ」


 ダンは軽く流している様に見えるがその動きと鋭さはデイブよりも優れている。デイブは両手に持っている剣で受け止めるのに必死だ。ダンの左右の両手に持っている片手剣の動きは全く予想がつかないほどに早くそして鋭い。


 結局ダンがギアを上げる前にデイブの片手剣2本が同時に弾き飛ばされる。


「装備を全部外してあの剣さばき。あれならランクSが何体いようと関係ないだろう。しかも2人とも魔法無しであれだ。俺達が本気でかかっても勝てるかどうか」


 スコットが言うと


「勝てないな。10回やって1回勝てるか勝てないか。そしてあの様子じゃダンはまだ本気モードじゃなかった。流してたぞ。となると奴らが本気モードになった時に100回やって1回勝てるかどうかだ。俺達が100回負ける確率の方がずっと高い」


「ランスの言う通りだ。悔しいが俺達じゃ全く歯が立たないだろう。それほどにあの2人は強い」


 ボブが言う。


 プリンストンは目の前の2人の模擬戦を見て、あいつらはランクAじゃないな。目の前のレーゲンスから来た奴ら言ってる様に2人とも魔法なしであの戦闘力だ。これに魔法を加えたら倒せない魔獣はいないんじゃないかと思っていた。


 ダンとデイブが模擬戦を終えて歩いてくるとランスが声を掛ける。


「見させてもらってた。2人でランクSを複数体同時に倒してたってのがよくわかったよ。2人とも半端ないな」


 ダンがタオルで汗を拭いているとデイブが


「剣だとダンに勝てる奴はいないんじゃないかな。今日もまだ全力じゃない、しかも装備系は全て外してたし。こいつが前にいるから俺は楽さ」


「そう言うデイブも相当じゃない。剣の動きが最後は見えなかったわよ」


 ジョアンナの言葉にありがとうと言う。汗を拭き終わったダン、


「デイブが後ろにいてくれるってだけで安心感が違う。メインの剣は俺、メインの魔法はデイブこれでうまく回ってるよ」


「なるほど、いいコンビだな」


「そう言うことになるね」


 そうして鍛錬を終えた2人は再び酒場に戻ると同じ様に鍛錬場から戻ってきたランスらと話をする。


「明後日出発か、向こうではどれくらいいる予定なんだい?」


「決めてないんだよ。街の周辺やダンジョンに行ってみようかと思っているくらいでね、具体的な目的とかスケジュールはない。まぁ行き当たりばったりだ」


 デイブがそう言ってからレーゲンスの街でおすすめの宿を聞くとメンバーから2、3名前が出てそれをダンと2人で頭に入れる。


「今言った宿ならどこに泊まっても問題ない。飯もうまいし部屋は綺麗で静かだ。ギルドにも外に出る城門からもそう遠くない場所にある」


「そりゃ助かるな」


 そうしてもうしばらく話をしてから2人は席を立つとギルドを出ていった。

 2人が出ていったギルドの扉を見ていたランスは顔を戻すと


「俺たちもここヴェルスでしっかり鍛錬しようぜ。あいつらじゃないがランクS複数体、とりあえず2体からだ、問題なく倒せる様にしよう」


 たった今自分たちよりも強い冒険者を見た彼らは鍛錬に対するモチベーションが以前よりもグッと上がっていた。

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