第7話

 翌日も外で同じ様にクエストを受けて夕刻に街に戻って換金する。3勤1休のローテショーンを3週間程続けてそれなりの金額を貯めた二人は武器と防具を新調するために休みの日の今日市内を歩いていた。


「武器屋と防具屋で何処かあてはあるのかい?」


 屋台が出て賑やかな通りを歩きながらダンが聞く。市民や冒険者達も多く歩いていてこの街はいつも人通りが多い。


「もちろん。ちゃんと調べてあるさ」


 任せとけというデイブに付いていくと大きな通りから細い路地に入って50メートル程歩いていくと武器屋の看板が掛かっているのが目に入ってきた。


「あれだ」


 そう言ってデイブが店のドアを開けて中に入っていき、続いて中に入ると入り口こそ狭かったが中は奥行きが広くてさまざまな武器が壁や棚に陳列されている。


「こんな所に武器屋があったんだな」


「ここは余り知られてないが知る人ぞ知るという店らしいぞ」


 そんな話をして飾られている武器を見ていると


「何を探しているんだ?」


 店の奥から声がして店主と思われる男性が近づいてきた。背丈は二人よりやや高くがっしりとした体躯をしている。


「こんにちは、片手剣を探してるんだ」


 デイブが答えると店主はじっと二人を見てから


「暗黒剣士と赤魔道士か」


 頷く二人。


「いくら持ってる?」


 いきなり聞いてきた。


「二人で金貨20枚」


 デイブが答えるとちょっと待っとけと奥にいった店主は2本の片手剣を持って二人のもとに戻ってきた。そしてその剣を店のテーブルの上に並べて置くと、


「この剣がいいだろう」


 無愛想な親父だが持ってきた剣は一目見て優れものとわかる剣だった。手に持っていいかと聞いて店主がOKすると1本を手に持って軽く振るダン。


「これは振り易い。バランスもちょうどいい」


 同じ様にもう1本の剣を持ったデイブもこりゃいいと同じ様に軽く剣を振る。


「お前さん達は二人とも普段からしっかりと鍛錬してるんだろう。身体付きが他の奴らとは違う。この剣を十分に使いこなせるだろう」


「わかるんだ」


 ダンが声に出すと顔をダンに向けた店主。


「伊達に冒険者相手に商売してない。軟弱な奴らが多い中お前さん達はしっかりと基礎から鍛錬してきたのがわかる」


 聞くとこの店主はワッツという名前でこの街でもう5年以上武器屋をやっているらしい。そして店の奥には小さな工房もあり簡単な武器の修理もしているとのことだ。


「それでこれが1本金貨10枚なのかい?」


「鞘付きでな。どちらも1本金貨10枚だ」


 デイブはその言葉を聞いてダンを見て


「この剣、金貨10枚以上の価値があるぞ」


 自分もそう思っていたダンは頷いてそして二人で金貨20枚をワッツに支払った。

 金を受け取ったワッツは二人がランクCだと聞くと、


「ランクBに上がったらまた別の剣を勧めてやる。もっとも今持ってるその剣もそこらのランクBの連中が持っている剣よりは優れているけどな」


 その言葉が誇張でもないことは実際に剣を持った二人にはわかっていた。


「じゃあまたランクが上がったらその時にくるよ」


「剣を研いで欲しい時も来るといい、研ぎ代はタダだ。今の売値に入ってる」


 礼を言って店を出た二人。


「無愛想な店だが良い剣が手に入った」


 路地から大通り出て歩きながらダンが言うと


「あの店はこの街の高ランクのパーティの御用達の店でな。外れ品はまず置いてないらしい」


 聞くとこのヴェルスの街所属のAランクのパーティの何組かがあの武器屋を使ってるらしい。デイブはそのAランクの冒険者から教えて貰ったそうだ。


「デイブは顔が広いな」


「ランクDのソロの時からずっと人脈作りをしているんだよ」


 社交性が高いデイブだからこそだ。ダンはソロでやっていた時はどうせ一人だからとほとんど周囲とは関わりを持っていなかった。顔は知ってるし挨拶もする。でもその程度だ。デイブの様に相手の懐にまでは入っていっていなかった。


「ランクAの中でも上位にランクしている連中は結構気さくな奴らが多いんだよ。こちらが誠意を見せて聞くときちんと教えてくれる。彼らはギルドから低ランクの冒険者達の相談によってやってくれと言われているのもあるしな」


 デイブによるとタチが悪いのはBランクの連中に多いらしい。中途半端に強いせいか妙なプライドがあったり自分よりランクが下の連中に対しては横柄な態度で出てくることが多いそうだ。


「要は弱いものいじめさ。関わらないのが一番いい」


 その辺りの人の見極めもデイブはできるんだろう。本当に大した奴だと隣を歩いているダンは思っていた。


「防具屋も調べてあるんだろ?」


「もちろんさ、この細い路地を入っていくんだ」


 大通りを歩いていた二人は別の路地に入っていく。20メートル程歩くと防具屋の看板が見えてきた


「ここも上位のランクAから聞いたのかい?」


 そうだと返事をしながら店のドアを開ける。


「いらっしゃい」


 さっきの武器屋のいかつい声とは正反対の女性の声がした。デイブが


「こんにちは。防具を見させてもらおうと思って」


「二人のランクは?」


 店の奥から出てきた女性は歳の頃は30代の半ばくらいか。すらっとした美人だ。


「Cです」


 デイブが返事をすると女主人は二人を見て


「ほんと? Cには見えないわね。身体付きもしっかりしてるし持っている剣も悪くないし」


「この剣はさっきワッツの武器屋で勧められて買ったばかりなんだよ」


 ワッツの店と聞いて女性が目を大きくして


「ワッツが勧めてくれたの?へぇ〜」


 意外だという表情になる店主。ダンは思わず


「へぇってどう言うことなんだ?」


 女店主はダンを見ると


「ワッツは元冒険者なの。実は私もなんだけどね」


 なるほど。言われて納得した。武器屋のワッツもこの女店主も鍛えられた身体をしている。今でも雰囲気が冒険者のそれだ。店主は続けて、


「彼は見ての通り無愛想でしょ?でも腕はいいのよ。そして冒険者を見る目がある。彼が剣を勧めるなんて滅多にないの。その彼が自分から剣を勧めたって聞いてびっくりしたの。挨拶が遅れたけど私はレミー、元狩人よ。ワッツは元戦士なの。彼が勧めたってことはお二人は将来性があるって彼が認めたってことね。じゃあ私もそれなりの防具を用意しないとね」


 そう言って女店主のレミーは奥に行くといくつか防具を持ってきた。


「見た感じだと二人のジョブは赤魔道士と暗黒剣士ね。予算はいくらなの?」


 ダンとデイブは顔を見合わせてから


「二人で金貨10枚」


 デイブが答える。


「わかった」


 そう言ってレミーが袋から取り出したのはローブだ。それを見たデイブ


「ローブって後衛用の防具じゃないの?」


「二人とも中衛でしょ?今着ているその皮の戦闘服だと魔法の効果が出ないわよ。それとこのローブを広げてごらんなさい」


 言われるままに二人がローブを広げるとそれは首の下に大きなボタンが2つ付いていてローブの下部分にはボタンがなく大きく左右にはだける様になっていた。


「これだと裾が大きく開いているから剣も抜き易い、そして魔力が上がる効果が入ってる。色を見てわかる様に赤と黒。これはジョブ専用のローブよ」


「ジョブ専用のローブなんてあるんだ」


 黒のローブを手に取ってダンが言う。隣でデイブはでも格好いいぜ、これと言いながら赤いローブを手に取って表や裏の生地を見ていた。


「ジョブ専用といったけど本当はそのローブには魔法の威力がアップする効果と体力がアップする効果の両方があるの。だから性能はどちらも同じ。生地が赤いか黒いかだけね」


「なんだそう言うことか」


「でも中衛用としては優れものじゃないの」


 レミーの言葉でダンとデイブが話をしている。そしてデイブが


「でもこのローブ、高そうなんだけど?」


「安くないわよ。でもワッツが久しぶりに認めた冒険者だからね。サービスしてあげるわ。二人で金貨10枚でOKよ」


「いいのかい?」


 デイブの言葉に頷くレミー。


「ズボンはまたお金が貯まったら来て頂戴。二人で金貨8枚、一人金貨4枚でいいのがあるわよ。そのローブと同じ効果が出るズボンなの」


「それは欲しいな」


「金策だな」


 やりとりを聞いているレミーは目の前の二人の若い冒険者を観察していた。ワッツが認めるだけあって二人とも鍛えている身体付きなのがわかる。ランクCということだが以前からしっかりと鍛錬を続けているのだろう。


 今まで数多くの冒険者を見てきた元ランクAの冒険者のレミーにはわかる。目の前にいる二人は性格も悪くない。この二人はすぐにランクが上がっていくだろう。


 二人は今着ている何の効果も付いていない戦闘服の上にローブを羽織る。そうしてお互いに似合ってるなと言ってから


「ところでワッツさんって有名なのかい?」


「有名って?」


 デイブの言葉に首を傾けるレミー。


「いや、俺がこの街のランクAの冒険者から教えてもらった店でさ。彼ら曰くあそこは知る人ぞ知るって武器屋で普通の冒険者はまず知らないって言ってたからさ。大抵は大通りの武器屋で買うって話だし」


「だってワッツは私の旦那だもの」


 レミーの言葉に夫婦なのかとびっくりする二人。二人のその表情を見てレミーは笑い、


「二人とも同じパーティだったのよ、ワッツが戦士で私が狩人。それで結婚して冒険者をやめた頃と同じ頃にワッツが今やっている武器屋の前の店主が身体を壊しちゃってね、それでワッツにやらないかって言ってきたのよ。最初は二人で武器屋をしていたの。冒険者時代から馴染みのお店だったしね。そしたら今度はこの防具屋の店主が田舎に帰るって話を聞いてね、それでこのお店を買い取ったのよ」


 ダンとデイブはレミーの話を聞いてびっくりしていた。


「夫婦で武器屋と防具屋をやってるってことか」


 デイブが言うとそうなの、四六時中一緒だと喧嘩とかもするでしょ?これくらいがちょうどいいのよと笑いながら言うレミー。


「それにしても武器屋もそうだったけどこの防具屋にもいいものがあるな」


 ダンが店の中を見回して言う。デイブも


「さっきの武器屋にしてもここにしても品揃えがいいな」


「ありがと。仕入れ先は秘密なんだけどここも武器屋の方もいいルートから仕入れているから物に間違いはないわよ」


 その言葉に頷き、


「どちらの店も元冒険者がやってるのなら冒険者目線で品物を見てくれるし、安心だな」


 ダンがそう言い二人レミーにお礼を言って二人で店を出た。

 

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