ヴェルス
第3話
暖が目を覚ますとそこは草原だった。立ち上がって身体を見ると冒険者の様な活動的なシャツとズボン、そして短剣が左の腰に刺さっている。
そうだ、俺は17歳のダンだ。立ち上がった瞬間に頭の中にこの世界での自分が生まれてから今までの出来事が流れこんできた。神が創造した架空のストーリーだ。それと同時に生前の記憶もちゃんと残しておいてもらえた様だ。
立ち上がったダンは自分の手の甲や平をもう一度今度はじっくりと見る。服装は長袖の茶色の服に同系統の濃い茶のズボン。左の腰に短剣を持っている。ズボンのポケットに手を入れると音がするので取り出してみれば袋が出てきた。中には金貨1枚、銀貨30枚、そして銅貨が30枚入っていた。
両手で自分の体のあちこちを叩いてみる。そしてその場で足をあげたり跳ねたりするダン。ずっとベッドに寝ていたダンにとっては体を動かせることは新鮮で暫くそうしてその場で体を動かして、そして四方を見ると遠くに城壁が見えた。
ゆっくりと草原を歩き出すダン。時折走ったりするのは身体を動かすのが楽しいからだ。そうして草原を歩き、時に走ったりしていると広い道にぶつかり、それからは街道を城壁の方に歩いていく。
街道には馬車を引いている商人風の男や、数人固まって歩いている男女などがいて彼らと同じ様に1人で歩いていると30分程で最初に見た城壁に着いた。
列に並んで順に城門をくぐって城壁の中に入っていく人々。ダンの番になると城門にいる剣を持っているいかつい顔をした衛兵が、
「ギルドカードなどの身分証を持っているか?」
「田舎から来たのでありません」
そう答えると
「銀貨1枚だ。中に入って仕事を見つけたら身分証をくれる。それがないと毎回城門を出入りする度に金を取られるぞ」
「わかりました。ありがとうございます」
「それとだ」
銀貨を払おうとポケットに手を突っ込んだダンに衛兵が、
「お前、冒険者希望だろう?なら覚えとけ。敬語は使うな、相手になめられるぞ。年上だろうが年下だろうがタメ口で話すんだ、いいな?」
「わかり、いや、わかった」
そう言うとそうだと頷く衛兵。いかつい格好をしているがいい奴みたいだ。
銀貨1枚を払ったダンが城門を潜るとそこはまさに彼が好きだったゲームの世界そのままだった。
高い城壁に囲まれている街の中には中世風の家が並び、商店や旅館の看板があちらこちらにある。人通りも多い。ダンは邪魔にならない様に通りの端によると街や行き交う人を暫く見ていた。
ゲームと違ってこれは本物だ。本当にこの世界に来たんだ。
暫く見てから再び通りを歩くとすぐに目指す建物が見えてきた。冒険者ギルドだ。
扉を開けて中に入ると真っ直ぐにカウンターを目指す。そこにいた受付嬢を見ると深呼吸してから近づいていき、
「冒険者になりたくて来た。ダンという」
「ダンさんですね。わかりました。ではこちらへ」
事務的な口調でカウンターの向こう側で座っていた受付嬢が立ち上がるとダンを連れて奥の部屋に案内する。部屋には鍵がかかっていたが受付嬢が持っている鍵で扉を開いて中に入るとそこには様々な水晶が並んでいた。
「冒険者希望の方はまずここで適性を見ます。この2つある水晶に手のひらをあててください。1つずつ順にお願いします」
言われるままに先ず手近にあった水晶を手のひらを水晶を包む様に当てると水晶が光りだした。
そして奥にある2つ目の水晶も同じ様にするとそれも光った。ただし光り方は最初の方が強かったかなと思っていると、
「体力が9、魔力が7 数値が高いですね。これなら問題ありません。それよりも2つとも平均以上で体力の方が高いというのは珍しいかも」
「ちょっと説明してくれるかな?」
ダンの言葉に受付嬢が説明をする。最初に触れた水晶は体力を測定する水晶で、2つ目の水晶は魔力を測定する水晶になっている。
「普通はどちらかの水晶の数値が高くてもう1つの水晶の数値は低いんですが2つとも平均以上の数値を出す人もたまにいますから」
平均は5らしい。そして体力が3以下だと魔力が高くても冒険者にはなれないそうだ。理由を聞くと冒険者は国中を歩いたりダンジョンに潜ったりして生計を立てている。基礎体力が低いと冒険者としての基本動作に問題があるとみなされるらしい。
「実際冒険者希望の方で体力が3以下の方ってほとんどいないんですけどね」
そう言ってから
「えっとダンさんですね。測定結果から見ると冒険者登録は問題ありません。それでジョブですがどうされますか?」
「お勧めはあるかい?」
慣れないタメ口で聞くと、テーブルの上にあった冊子を見ながら
「体力の高い方は戦士、ナイト、狩人などの前衛ジョブを選びます。魔力の高い方は精霊士、僧侶と言った後衛ジョブですね」
そこで一旦言葉を切ると、
「そしてダンさんの様に体力も魔力も平均以上の方は両方が使える暗黒剣士か赤魔道士が向いています。もっともさっきも言いましたが両方の数値が平均値より上と言ってもほとんどの人が魔力の方が高いので赤魔道士を選びますね。ダンさんの様に体力の方が高いケースは非常に稀ですよ」
「となると俺には暗黒剣士が向いているってことかな?」
「もちろん最終的には本人がジョブを選ぶのですが、お勧めと聞かれたらギルドとしたらこの測定結果を見ると暗黒剣士をお勧めします」
なるほど自分の様なケースは稀なのか。であればジョブとしてやっている人が少ない暗黒剣士も楽しそうだな。そう思ったダン。やってる人が少ないというのは魅力的だ。自分の好きにスタイルを作れるじゃないかと思い、
「では暗黒剣士でお願いしたい」
そう言うと受付嬢が奥に並んでいる水晶から1つを手に取るとダンの前に置いて
「これが暗黒剣士の水晶です。ジョブの名前を念じながら今度は両手でこの水晶を包む様に握ってください」
言われるままに両手で水晶を包むと何かがダンの体の中に流れ込んできた。
「体に何かが入ってきた感触はありますか?」
ダンが頷くと、もう手を話して大丈夫ですよと言う受付嬢。
「これで終わりです。カウンターで冒険者カード、通称ギルドカードを差し上げます」
そうしてダンは暗黒剣士として冒険者をやることになった。
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