第23話
リックが同行する芸団は、村の南にある湖の近くでキャンプを張っていた。
ドーム型のしっかりしたテントが5つ、等間隔に並んでいた。
思っていたよりも大所帯のようだった。
テントから少し離れて簡易かまどが組まれており、少女達が朝の支度をしていた。
芸団の朝はゆっくりらしい。
演奏会などは夕方から夜にかけて開かれるため、朝は遅いのだろう。
かまどに火は入っているが、朝食はまだできておらず、朝の支度をする少女たちものんびりとしていた。
こんなところにキャンプを張らなくとも。
久々の再会だろうに、ヒロの宿に泊まれば良いのではないか。
バートはふとそんなことを考えた。
「ここだな」
ザックが誰にいうでもなく呟いた。
ザックはキャンプから少し離れたところで立ち止まり、様子を伺っていた。
見たところ、テントの外にいる者の中にリックはいなさそうだった。
かまどで朝食の準備をしていた少女のひとりがザック達に気づいた。
訝しむようにこちらを見ている。
すぐにほかの少女たちもこちらに気づき、不審な男2人を警戒し始めた。
「バート、ここで待っていてよ。君は身体が大きいし、顔が怖いから女の子達が怖がっているよ」
ザックが振り返って言った。
いつものにんまりとした顔でこちらを見ている。
バートは返事をしなかったが、その場に立ち止まり、黙ってザックを見た。
それを了解の意と取ったのか、ザックはそのまま女の子達に近づいていった。
先程までの歩様とは別人の、いつものふわふわとした重心に安定感のない歩き方だった。
ザックは右手を軽くあげて、少女達に近づく。
バートは、ザックが眼鏡を外してポケットに仕舞うのを見た。
なるほど。
年頃の女の子達に、自分の容姿が武器となることはわかっているようだ。
ザックはしばらく少女達と話をしていたが、やがて楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
少女のひとりがテントの奥を指さすような仕草をしたのが見えた。
ザックは少女が指し示した方を覗き込むような仕草をした後、少女達に手を振って歩き始めた。
どうやらリックの居場所を聞き出したようだった。
バートも静かに歩き始めた。
自分は、待つとは言っていない。
森側から回って、ザックを追う。
バートはザックを見失わないよう注視しながら、テントを迂回するように歩き始めた。
索敵が得意なのは、お前だけではないのだ。
テントの周りには、徐々に人が増え始めていたが、気配を消して移動を始めたバートに気づく者はいなかった。
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