第18話

朝市で賑わう大広場を抜け、村の外れまで来たところでザックとヒロを見つけた。

ザックはなぜか眼鏡をかけておらず、俯いたまま歩くヒロに付かず離れずの距離を保って歩いていた。


「ザック」


「今までどこにいた?」


バートは2人のもとに駆け寄り、低い声でザックに尋ねた。

ザックはにんまりと笑っただけで答えなかった。


「朝の散歩に行こうって、わたしが誘ったんです」


突然、ヒロが口を開いた。


「わたしがコスモスを見に行こうって」


「リックのことで、ちょっと相談したいことがあって」


にっこりと笑って、ヒロがバートを見ていた。

慌てている様子もないし、嘘をついているようにも見えない。


「そうだよ、ヒロに誘われたんだ」


ザックがヒロに続いた。


こちらは、わざとらしく聞こえて仕方がない。

バートはザックを睨みつけた。

ザックは、やれやれという顔をして、肩をすくめる仕草をした。


そこに、ヒロが割り込むようにして前に出てきた。


「心配かけてしまって、ごめんなさい」


「昨日、リックと些細なことでけんかしてしまって、誰かに話を聞いてほしくて」


ヒロが困ったような顔をしてバートを見上げてきた。

バートは小さくため息をついた。


「ヒロがそう言うのなら、俺はこれ以上何も言えない」


「ただ、朝早くから行き先も伝えずに出かけてしまうのは感心しないな」


「リュカが心配するし、リックだって早朝に男と2人で出かけていることを知ったら、良い気分はしないだろう」


バートは慎重に言葉を選んだ。

ザックなら兎も角、ヒロにきつい言い方は出来なかった。

言いたいことや聞きたいことは山ほどあるが、それはヒロに対してではない。


「とりあえず、宿に戻ろう。リュカが心配している」


ヒロの後ろで何食わぬ顔をしているザックを睨みながら、バートは再びため息をついた。



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