第32話 まよなかの読書

まよなかの読書は最高だ、だって本の中により深く沈むことができるから。


コーヒーの用意もできたし、深夜零時もとうに過ぎた。

辺り一帯は寝静まって聞こえるのはたまに通る車の音だけ。この時間帯に読書をするのは普通に考えれば意味の無い行動だ。だが、僕はこの無為とも言える行動の虜になっている。


半分徹夜のような状態で現実と空想の境界が曖昧なままカフェインで脳を無理やり覚醒させる。うつろな脳は、小説の文字という情報に呑まれて本の中を現実と勘違いしてしまう。


本を読んでいるのにまるでアニメを見ているかのような憧憬が頭に浮かぶ。そしてその世界の主人公に自らを重ねて、主人公と苦楽を共にする。


普通だったらまずできない経験だ。だけれどまともに頭が働いていないから、だからこそ空想の世界に飛び込むことが出来る。


ある時は異世界に転生した勇者、ある時は生まれ変わったお嬢様、ある時は夢見がちな少年。




本の数だけ沈むことのできる世界がある。




僕はそう信じてる。



だから今日も沈み込む。

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