第25話 異世界勇者の慟哭

「異世界転生したい?寝言は寝て言えよ」…なんて思ってた時期が自分にもありました。





まさか自分が異世界に転移させられるなんて…思ってもみなかった。と、言うよりは異世界の存在を信じていなかった、という方が正しい表現だろう。



今まで自分は特に代わり映えのない平凡な人生を送ってきたつもりだ。

学校では友人と巫山戯つつもそれなりに勉強をする。

会社に勤めるようになってからは目立たない程度に、必要最低限自分のやるべきことを卒なくこなしてきた。


オタク趣味なんて低俗な事だなんて考えて生きてきた自分がいきなり異世界に飛ばされたところで何が出来ようか。


しかし目の前にいる爺は気にせずに魔王?とか言うやつを殺せと抜かしてきやがる。その魔王とやらを倒せば元に戻れると言うなら倒そうではないか、さりとて人を殺すなんてことは出来るはずもない。


普通に考えれば至極当然のことだ。


何?兵は出すから何とかしろ?戻るためには仕方ない、何かしら考えないといけない。


せいぜい自分にある戦いに使えそうな知識なんて部活でやってたアーチェリーと大学の友人が再現するためだけに手伝わされた攻城兵器ぐらいなものだ。


ん?少し待てよ?攻城兵器?いけるのではないか?


とりあえず王を名乗る爺に魔王とやらが何処にいるのか、そして軍勢はどれぐらいいるのかを聞いてみた。


自分はこのような身形であっても一応は社会人なので最低限のマナーはできているはずだ、と思いたい。



どうやら奴に関しては

・基本的に城にいる

・城は草原にある

・軍勢は多くて10万程度、しかしながら一兵卒でもこちらの兵10人以上の強さを誇る

・幹部クラスの12人は一騎で一個大隊に匹敵する

・こちらの軍勢は連合国総勢で1000万ぐらい



ということらしい、ただ自分は表に出て死にたくはない。


だから裏方として攻城兵器の図面を引いたり、アーチェリーのような感じで連合国の弓の改良を行うことにする。所謂コンパウンドボウのようなものにするわけだ。

こちらの世界ではコンポジットボウ(植物と獣の腱の複合弓)が主流のようなので性能の工場が見込めるはずだ。



本来ならば銃を作りたいところだが無煙火薬の作り方が分からないからおこうと思う。本音を言うと黒色火薬の作り方は知ってるので前装式の火縄銃ぐらいなら作れるだろうが元の世界で血で血を洗う戦争が起こったことを考えると辞めておいた方が吉というのもある。




こちらの世界では魔法が主流で遠距離武器や攻城兵器が発達してないらしくこちらの提案が新鮮らしい。


古代中国の攻城兵器である雲梯(うんてい)と井闌(せいらん)、そしてヨーロッパで活用されてきたカタパルト、この3種の兵器でとりあえず腕を慣らして攻めてもらいたい。


雲梯はこれまで飛行魔法が使えるもの以外軽々と超えることの出来ない城壁に登るのに使えると喜んでいた、井闌に関しても城壁の上から弓や魔法で攻撃されるのに反撃が出来なかったのができるようになる!と喜んでいた…と思う。

カタパルトに至ってはこちらの世界には質量攻撃の概念がなかったのか言葉すら出なかったようだ。



しかし考えると魔王の国にも国民はいるはずで虐殺に加担してるのでは無いか…といつの間にか悩むようになっていた。


王に確認をとってみたが曖昧な返事しか返ってこなかった、恐らく自分の考えは間違いでは無いのだろう。

しかし王から無幸の民に関しては虐殺、略奪を行わないように声をかける、とだけは言われた。


しかしどこまで効果があるかは分からない。





気づいたら既に3年がたっていた。遂に魔王の国の王都まで進むことが出来た。王が虐殺、略奪を禁じるまでに幾つかの街では既に行われていたようだが、そして今も目の届かないところで行われて処罰される者もいるが少しはマシになったとは思う。


そして今月中には魔王は討たれるだろう。


だが私のせいで家財を奪われたり、死んでしまったりした無幸の民や、その親類には忘れられるまで子の代孫の代恨まれ続けるだろう。


しかし仕方ないのだ、それが私の犯した罪なのだから。


そして私は後悔に泣き叫ぶだろう、しかしそれを誰にも見せる訳にはいかない、それは私が負うべき業なのだから。

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