十月三十六日:議論
十月三十六日が来た。
ロビーには六人の生徒がいた。
「あれ、全員いる?」
『編入生』が辺りを見回すと、『文芸部』がかぶりを振った。
「いやぁ、おれ絶対死んでると思ったんだけどなぁ」
「狩人が生きてるってことですか……?」
『保健委員』の言葉に『先輩』が答える。
「流石にそれはないと思うが……」
「人狼の野郎、妖狐を探したな」と、『元バスケ部』が言った。
「人狼が誰が妖狐か把握したなら、今日の議論で動きを見せるはずだ。始めるぞ」
【第五回目 議論開始】
「人間か人狼が勝った時点で生きてたら、妖狐のひとり勝ちになるって聞いたけど、具体的にはどうなるんだ?」
『編入生』の問いに『先輩』が言う。
「詳しいことはわからないが、全員妖狐の操り人形にされるらしい」
「人狼に食われたら普通に死ぬけど、妖狐に負けると精神が死ぬって感じだな」と、『文芸部』が頬杖をついて言った。
「今日人間が処刑されたら妖狐と人狼を抜いて人間は残りは三人、夜人狼に襲われてふたり。そうなったら明日人狼を処刑しても生きてる妖狐の勝ち、妖狐を処刑しても夜が明けたら人間と人狼が同じ数になって食われて終わり。どうやっても人間に勝ち目はないってことだ」
「今日人狼を処刑したら人間の勝ちだが、その時点で妖狐が勝ちが決まる。今日は必ず妖狐を処刑するぞ」
『元バスケ部』が言った。
「妖狐っぽい奴と人狼っぽい奴って違うのか?」と、『編入生』が尋ねる。
「人間らしくない挙動をするのは同じだが、人狼と違って味方が誰もいないし、占われても駄目。極力目立たないようにするだろうな……」と、『先輩』が返した。
「ちなみに『生物部』に占われてちゃんと生きてるおれは除外な。あと『風紀委員』も違いそうだ。『映研部』があいつを妖狐だとわかって処刑しようとしてたなら、昨日そう言うだろうし」
『文芸部』が肩をすくめると、『保健委員』が遠慮がちに言った。
「ええと、霊能者が偽物の可能性もあるって聞いたんですが、占い師も全員偽物ってことないですよね」
「それはねえよ」と『元バスケ部』が首を振り、
「俺はこいつらのどっちかを人狼だと思ってる」
と、『先輩』と『風紀委員』を指した。
「だから、今日は処刑したくねえ。妖狐なら『保健委員』か『編入生』のどっちかだ」
「え、俺?」
「僕ですか?」
ふたりが同時に声を挙げた。
「お前らは議論にほぼ情報を落とさない。わかってないなら仕方ねえが、目立たないようにわからない振りしてんなら悪質だ」
「待ってくれよ。役に立ててない自覚はある。でも、わざとそんな振りしてたら処刑されるだろ」
慌てて叫んだ『編入生』を『元バスケ部』が睨む。
「現に生きてるだろ。役に立たない奴は占い師が占わない。ほっといても死ぬ奴を占ってもしょうがないからな。それが狙いじゃねえのか」
『先輩』が考え込むようにして言った。
「それはリスクが高すぎないか。二回目の議論で人狼判定とそれ以降の占い師の処刑がなければ、初回で『吹奏楽部』が言った通りいつ矛先が向かったかわからない。味方のいる人狼陣営ならともかく妖狐がそう動くとは思えないな」
「俺も『編入生』は怪しいと思う」と、『風紀委員』が一拍置いて言った。
「お前は『剣道部』さんが妖狐かもって説をすぐ受け入れたり、本当はわかってるんじゃないかって思えるところがあるんだ」
「なら、『保健委員』の方が怪しいと思うなぁ。何もわかってない奴が霊能が偽物とか、占い師全員偽物なんてレアな選択肢まで追うか?」
『文芸部』が言う。
「もし、昨日『図書委員』の霊能結果が狼で『映研部』の占いと違っても、『美術部』が偽物って言って、本物の占い師が妖狐は殺したからもういないって思わせたかったんじゃねえのかななんて」
「だ、だって『編入生』さんもそうかもって言うから……」
『先輩』が『編入生』を見つめた。
「そろそろしっかり自分の考えを話してみろ。ちゃんと待つから」
「俺は……『元バスケ部』が妖狐じゃないかと思う」
『編入生』は言った。
「最初から占い師を全員処刑しようって言ってたのに、急に昨日は『映研部』より『先輩』が怪しいって言ってたのが、もう本物がいなくて自分が占われないってわかったからかなって……」
「ふーん、ここでそっち疑うのは逆に怪しくなくなってきた」
『文芸部』がかすかに笑った。
「人間も人狼も今日は妖狐見つけなきゃ負けるけど、妖狐は自分以外誰が死んでもいいんだからさ。お前が妖狐なら同じくらい疑われてる『保健委員』って言うと思うんだよな」
『元バスケ部』が言った。
「昨日『映研部』を放置したのは、人狼二匹生きてるなら片方が妖狐を告発すると思ったからだ」
『編入生』が考え込んでから言った。
「それに、『剣道部』と仲良さそうで、人狼だって言われたときは怒ったのに、妖狐かもって話ししたときは否定しなかったのが気になったんだよ….…」
「僕は妖狐じゃありません。僕は……」
『保健委員』が震える声で言った。
議論終了の時間が近づいていた。『文芸部』が立ち上がる。
「今日は自由投票だ。ちゃんと考えて入れろよぉ」
【投票開始】
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