十月三十五日:議論
十月三十五日が来た。
ロビーには七人の生徒がいた。
「『美術部』さんが……」
『保健委員』が震える声で床に残った血の跡を指す。
『先輩』が静かに首を振った。
「霊能者が噛まれたんだ。たぶんもう狩人は生きてないな……」
【第四回目 議論開始】
「霊能者が噛まれたから、『図書委員』が人狼だったかはわからない。後は残った占い師の処遇だが……」
『元バスケ部』が言った。『映研部』が前髪を掻き上げて息をついた。
「『美術部』の仇は討てるぜ。占いの結果だ。『風紀委員』は人狼だった」
『風紀委員』が椅子を蹴って立ち上がる。
「ふざけるな、お前は偽物だろう!」
『映研部』が片方の眉を吊り上げた。
「今日の処刑で人間が死んで、夜さらにひとり噛まれれば、明日は五人。人狼が二匹残っていれば票を合わせて人間を処刑して、人狼の勝ちが決まる。それが狙いだな」
「それは少し厳しいと思う」
『先輩』が首を振った。
「『映研部』が人狼なら、『図書委員』は狂人か妖狐だ。どちらにしろ霊能の結果では人間だと出るから自分の占いが当たっていたように見せられる」
『保健委員』が口を挟んだ。
「逆に『映研部』が狂人でしたら?」
「『図書委員』が人狼だと結果が出れば、占い師として破綻するから、人狼は『映研部』を処刑して一日生き延びられる。どちらにしろ今日霊能者が噛まれるのはおかしいんだ」
「そう思わせるために人狼の『映研部』が霊能者を噛んだんだ!」
『風紀委員』が声を上げる横で、『元バスケ部』が言った。
「『映研部』が妖狐って場合もあるけどな」
「でも、妖狐は『生物部』か『剣道部』じゃないのか」
『編入生』が問う。
「それは『映研部』が本物だったか、『図書委員』が人狼だった場合だろ。『生物部』が本物、『図書委員』が狂人、『映研部』が人狼だった場合は通らないぜ。お前はどう考えてる?」
「ええっと、二日目に狩人が守りそうなところを人狼が狙うと思えないから、妖狐だった『剣道部』を人狼の『図書委員』が噛んで、処刑させたんだと思う。だから、えーっと、『映研部』が本物で、あれ?」
「それは俺が昨日言ったやつだ……その場合、本物占い師は『生物部』な」
『先輩』が頭を抱えて言った。
「どっちにしろ、妖狐はもういないと思っていいんだよな!」
『編入生』が言った後、『保健委員』がおずおずと手をあげる。
「あの、『美術部』さんが偽物の霊能者かもってことはもう考えなくていいんですか?」
「誰か手伝ってくれ、ふたりは面倒見切れない……」
『先輩』が疲れ果てた声を出した。
『文芸部』が言う。
「他に霊能者がいるならさすがに出てきてるだろ。一応聞いとくけど『風紀委員』は霊能でも狩人でもないんだよな?」
『風紀委員』が沈鬱に首を横に振った。
「俺は『風紀委員』よりお前の方が人狼らしいと思うけどな」
『元バスケ部』が顎で『先輩』を指す。
「昨日は『生物部』が本物前提で話してたのに、今日は手のひら返しで『映研部』を庇ってる。『図書委員』が死んで味方が減ったから、偽物の占い師を残しておきたいように見えるぜ」
『先輩』が淡々と返す。
「今日霊能者が噛まれたなら、昨日の理屈だと合わないと思っただけだ。昨日から『映研部』を処刑したがってるそっちこそ、本物の占い師か妖狐の可能性がある奴を処理したい人狼に見えるぞ」
「とりあえず、今日処刑するのは『風紀委員』でいいのかよ?」
『編入生』が言うと、『文芸部』が腕を組んで唸った。
「妖狐が生きてる可能性もあるんだよなぁ。人狼も二匹いるなら今日処刑できなきゃ、人間に勝ち目ないぜ。で、一番勝ち目がありそうなのは妖狐だ……」
『文芸部』が全員を見回して手を叩いた。
「よーし、人狼二匹いるなら取引しようぜ」
「取引って?」
『編入生』が眉をひそめる。
「このままじゃ人狼が勝った時点で妖狐の勝ち逃げだ。そんなの嫌だろ? 今日が狼が名乗り出たらそいつの処刑にする」
「そんな条件で出てくる訳ねえだろ?」
「いや、そうすればまだ人間たちにも勝ち筋が見えて勝敗が決まらないでくる。妖狐を探すための余裕も出る。狼が妖狐を見つけてるなら出てくるついでに告発してくれれば信じるしな。現状一番いい案だろ」
誰も何も答えず、長い沈黙だけが続いた。
『文芸部』が再び手を叩く。
「駄目か、じゃあ各自好きなとこに投票だ。これで負けたら人狼を恨めよ」
そのとき、深いため息が響いた。
椅子を引く音が長く耳障りに響き、静かになるのを待ってから『映研部』が口を開いた。
「あー、はいはい……わかったよ。俺が人狼だ。妖狐はまだわかってない。今日は俺を処刑してくれ」
【投票開始】
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