十月三十一日:ルール説明・配役決定
「これで全員ですか……」
学園長は集まった十二人の学生たちを見回した。
「後から来たのは二年生の『生物部』、三年生の『文芸部』と『図書委員』ですね」
「本繋がりでキャラ被ってんだよなぁ」
『図書委員』の肩越しに『文芸部』が呟く。
「気にしてる場合か」
「みんな、落ち着いて聞いてくださ。この寮は封鎖されて今、誰も出入りができません。恐らく警察も来ない」
「そんな……」
学園長の声に『保健委員』と『風紀委員』が頷いた。
「だったら、ボクに彼の検死をさせてくれないかな。解剖得意なんだ。道具もここにある」
『生物部』がシーツの下の死体を指す。
「まぁ、放置するよりいいんじゃないか」
『美術部』が答えるより早く、『生物部』は『剣道部』の手を借りて、死体を運び出していた。
「なんか、変わった奴だな……」
『編入生』が呟き、『先輩』が肩をすくめる。
「この学園の生徒なんてそんなもんだろ」
長い沈黙が続き、シャツを血で濡らした『生物部』が現れた。
「終わったよ。死因は出血によるショック死なんだけど……外傷が変だ。刃物じゃなく、野生生物による噛み傷みたいなんだ。しかも、人間大の大きさの」
「やはり……これは人狼の仕業です」
学園長が呟いた。
「人狼?」
『編入生』の問いに学園長が向き直る。
「みんな、学園の歴史は知っていますね。ここは大昔この土地にいた伝説の魔物・人狼を倒したとされる聖人を讃えて造られた学園です」
「そんな話あったっけ……」
『風紀委員』が眉をひそめた。
「建学の歴史の授業で習っただろう! 寝ていたのか」
「こいつは編入生してきたから習ってないんだ」
『先輩』が割って入ったとき、『映研部』が独り言のように言った。
「あっ、人狼の呪いか」
学園長が首肯を返す。『図書委員』が会話を引き継いだ。
「聖人に倒された二体の人狼は、百年に一度ハロウィンの日に復讐の機会を狙って蘇り、生徒たちをひとりずつ殺していく。幼稚な怪談だと思っていたが……」
「それが本当ならどうすればいいんだよ!」
『吹奏楽部』が叫んだ。
「伝承では、人狼は昼間は人間に紛れ込み、夜は毎晩ひとりの人間を襲う。彼らを倒すためには、昼の間議論して疑わしい人物を処刑するしかない、だったか……」
『元バスケ部』が言った。
「処刑ってそんな……」
保健委員が泣きそうな声を出す。
学園長が小さな箱を取り出した。
「これは学園に伝わる聖人の遺物です。中にはカードが入っている。今からひとりずつ、懺悔室に入ってカードを引いてほしい。特別なカードを引き当てた生徒には、議論の際に役立つ力が与えられます」
「待ってください、人狼たちがその力を持つ危険もあるのではないですか」
『風紀委員』が問い、学園長が首を振る。
「聖なるカードには邪悪な者は触れることができません。安心してください」
「じゃあ、カードを引けなかった奴を殺せば済むな?」
『文芸部』が言った。
「人間は処刑以外で人狼を殺す術がないんです。悔しいけれど、彼らのゲームのルールに則るしかない。私も誰がカードを引かなかったか口外できません……」
学園長は沈痛な表情で俯いた。
「人狼以外にも敵はいます。みんな、どうか力を合わせてこのゲームを乗り切ってほしい」
遺言を告げるような口調だった。
「他の敵って?」
『編入生』が聞くと、学園長は口を噤んだ。
「それは後で話しましょう。とりあえず、全員順番でカードを引きに来てくれますか」
十二人の生徒たちは、日曜にミサを行う教会の前に並んだ。
「『編入生』、お前の番だ」
教会から出てきた『先輩』に肩を叩かれ、顔を上げる。
『編入生』は重たげなドアを押した。
***
「時間の感覚が狂いそうだが、もう夜なんだな……」
『先輩』が部屋の荷物をまとめながら言った。
「誰が人狼かわからないうちは、全員別々の部屋で寝るべきだそうだ。俺が出るけど、掃除はちゃんとしろよ」
『編入生』はその背中を見つめながら呟いた。
「『先輩』、俺ここに編入してくるまでずっと入院してたんだ。十歳で心臓に病気が見つかって、手術の繰り返しで、友だちなんてひとりもいなかった」
『先輩』は無言で『編入生』を見た。
「ここに来て初めて、学校でハロウィンとか、学生らしいことできると思ったのにな……」
『先輩』は目を伏せた。
「早く人狼を見つけて、ここから出よう……明日、寝坊するなよ」
ドアの閉まる音を聞きながら、『編入生』は暗いままの空を見つめた。
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