ハロウィン人狼オーバータイム
木古おうみ
十月三十一日:プロローグ
十月三十一日の空は、日暮れとも夜明けともつかない色彩に沈んでいた。
【初日】
『編入生』は寮の自室のベッドに横たわったまま、暗く淀む窓の外を眺めていた。
夏休み明けにこの全寮制私立男子校に編入して、既に二ヶ月経つが、ベッドの固さにだけは未だに慣れなかった。
「『編入生』、起きろ!」
同じ部屋を使う、一つ上の『先輩』が息を切らして飛び込んできた。
「『先輩』、今日は日曜日で休みだろ……」
「そんなことじゃない、大変なんだ!早く来い!」
『編入生』は『先輩』に引き摺られ、寝間着のまま廊下に飛び出した。空は暗いままだが、壁の時計は午前九時を示していた。
「大変って、何があったんだよ、『先輩』!」
「寮の守衛が殺された!」
階段を駆け下りると、ロビーには既にまばらなひと影があった。
辺りには切断されたばかりの鉄のような匂いが立ち込めている。
白い床を這うように広がる赤い染みに気づいて、『編入生』は思わず呻きを漏らした。
「うわ、何だよコレ!」
階段を降りてきたばかりの二年生の『吹奏楽部』が叫び声を上げる。
背後で同じく二年生の映画研究部員––『映研部』が引きつった笑みを浮かべた。
「すっげえスプラッタ……ハロウィンの仮装じゃないんだよな?」
「馬鹿、いくらなんでもここまで悪趣味なことするか」
『映研部』のクラスメイトである『美術部』が彼の脇腹を小突いた。
ロビーにいた三年生の『剣道部』が沈鬱な面持ちで首を振って言った。
「信じたくはないが、仮装でも悪ふざけでもない、本当の殺人だ」
『剣道部』が持ってきたのか、ロビーの床に血を吸って赤く染まったシーツが広がっている。
その下にひとひとり分の歪な膨らみがあり、裾から黒い靴の先が覗いていた。
「マジかよ……」
呟いた『編入生』の横を、くたびれた表情で三年生の制服を着た学生がすり抜けていった。
「どこに行くんだ、バスケ部」
『剣道部』の問いに学生が足を止める。
「『元バスケ部』だけどな。部屋に帰って寝るんだよ。殺人なら俺たちじゃなく警察の仕事だろ」
「恐らく、それはできません」
静かな声にその場にいた全員が注意を向けると、階段の上に学園長が立っていた。
誰かがその言葉の意味を問う前に、エントランスの方から悲鳴が響いた。
「何で、何で、ドアが開かないんですか」
「ドアだけじゃない。窓も全部開かないぞ」
「『編入生』、あいつらお前と同じクラスじゃないか」
『先輩』の声に顔を上げると、ふたりの学生が真っ青な顔で駆けてくる。
「あぁ、確か『保健委員』と『風紀委員』だ」
「やはりそうか……みんな、この寮に残っている学生を全員集めてくれますか。たぶん休日だからそれほどいないはずです」
「一体どうなってるんですか」
『先輩』の問いに学園長は俯いてかぶりを振った。
「信じたくないことですが……“人狼のゲーム”が始まりました」
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