コドモノ集マリ
豆炭
前半
子供のなりをして
しわがれた声が飛び交う
此処は小学校──子どもの集う場所
座るものは皆
手は幾度の皺を刻み、目は糸のように細く
背丈は僕と変らない
壮齢七八十の者たち。
さて、その中に
一人だけ、そう独りだけ
僕と同じ姿をした少女が前を向いて座っていた
失(シツ)というその子は
老人会のような教室で、ひとり先生の話をきいていた
緩慢な動作、ゆったりとした語り口で生き深いことを言う
熟達した経験の知恵を
五六人で集って喋り合う
僕は何もいわず、人の言うことに耳を傾ける
失が彼等の集いにいると
皆が子供のように見えてくる
爺婆と一緒に居る失は、とびきり稚くみえる
抑揚のない声の話を聞いている
彼女が、一瞬ぼくを見て
目を伏せたような気がした
休み時間が終わる鐘の音で
喋るよりもゆっくりとした速さで席についている彼らを僕は見ていた
スーツを小綺麗に身につけた先生の
僅かについた服のシワ
生徒よりも少し若く見える二十九の先生は
もう校長の任についてもおかしくない年頃だ
失から遊びに誘ってきたのは初めてだった
放課後にサッカーボールを持ち出して
僕と老幾人を誘った
本気でもない、だらりとした空間であったが
ボールが僕に渡ってくる回数は多かった
失も同様だった
二人で対峙するたび
ちょっとの期待が持ち上がり、周囲の熱気を感じた
最後は勝ったが、そんなのはどうでも良かった
彼女と一度、話をしてみたかった。
鬼ごっこをしながら帰ろう、と
僕は話を持ち出した
二人で道を走る姿は、さながら子供のようだったろう
暫くそうやっていたが、失が公園にはいった途端
はたとその遊びは終わった
「君は何才?」彼女がのんびり水を飲みながら訊いた
妙に硬い遊具の背の腹を撫でる、僕は材質を考えながら答えた
「十二、ぼくも君もそうだよ」
プラスチックのような安い質感でも、コンクリートのような冷え切った質感でもないテントウ虫のような遊具
程よい底湧きの涼しさが肌によく沁みて気持ちがいい
「そうだったね」
それだけ言って、歩きだす。足先が外を向いている
顔だけは此方を向いて、手は落ち着かなく体の横を這っていた
収まり所が見つからないのだろう、彼女は妙に落ち着きがなかった
「帰ろう、僕が鬼だよ」
失はおずおずと動き出す
僕は彼女が捕まる気でいるでいるのを悟った
かく言う僕も、捕まえる気はなかった
お互いが追いつかずただただ走る
うさぎとかめ?
今はキョリを空けて歩いている
黙って歩いていた、疲れてしまって
話したいと思った事も大儀でしかなかった
僕の家に着いたととき、暗いからはやく帰るよう伝えた
「うん、気を付けてね」
失は頷いて一言だけ残した
彼女の背中が遠くなる
それを見つめていた間も含め
ひどく寂しい夜だった
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