第64話 検問

「優勝おめでとうございます」


「ありがとうございます」


俺達は獣人達と始めてあった場所で合流する。

彼らにはガルムス山脈越えの護衛として雇われており、大会後に出発する予定となっていた。


「強い方だとは思っていましたが、アドルさんを含めたそのお仲間方がこれ程腕の立つ方達だったとは。正にうれしい誤算ですよ」


「魔人を倒すなんて豪語しただけはあるぜ」


隼タイプの獣人フロムと、狼タイプの獣人であるガロスが俺達を絶賛する。

特にガロスは大会でエンデとタロイモの二人と戦っているので、その強さを実感出来ている事だろう。


「アドルさん……ひょっとして、大会の決勝戦で見た時より強くなっていませんか?」


ネサラが真っすぐに俺を見つめ、強くなったのかと突然聞いて来る。

例の剣と一体となった事で手に入れた力を、どうやら彼女は本能的に察した様だ。

勘の鋭い女性である。


「そうなんですよ!アドル師匠、また強くなったんですよ!」


ベニイモがその問いに、はしゃぐ様に嬉々として答えた。

今にも余計な事をばらしてしまいそうなテンションだ。


……話を無理やり遮るのもあれだし。取り敢えず脛を蹴り飛ばす準備をしとこう。


剣心一体の事は仲間達に話しているので、当然俺が剣を取り込んだ事をベニイモは知っている。

体に剣を取り込むなんて奇行、知られていい事なんて絶対ない。

ので、万一彼女が口を滑らしそうになったら脛を蹴って止めさせて貰う。


「ほう……この短期間で更に強くなったと言うのか?」


「稀に、強敵との戦いで新たな境地へと至る事があると聞きますから。ゾーン・バルター殿との戦いで何かを掴んだという所でしょうか」


「ええ、まあそんな所です」


フロムが良い感じの理由を口にしてくれたので、ここぞとばかりにそれに乗っかっておいた。

漫画の主人公っぽい理由は俺にはあんまり似合わない気もするが、まあ剣と融合したとかよりよっぽど現実的でいいだろう。


「それじゃあ出発しようと思いますが、準備なんかは大丈夫ですか?」


「問題ありません」


旅に必要となるであろう荷物は、事前に買って例のマジックバッグに全て入れてある。

2週間程度の仕事なので、他に何かを準備する必要ははない。


「では、馬車を用意してますのでそちらに向かいましょう」


途中までは馬車で向かう予定だ。

険しいガルムス山脈を馬車で抜けるのは流石に無理があるので、麓からは徒歩になる。


「ん?随分と混雑してるな?」


馬車に乗って王都の東門へと向かうと、門の前に長蛇の列が出来ていた。


「どうも昨晩、王城に賊が侵入したみたいなんです。それで入出の管理が徹底されて、時間がかかっているんだと」


事情を知っているエンデが説明してくれる。


「賊が出た?」


賊と聞いて、レアン王女の事を思い出す。

以前王城に侵入した際に、俺は彼女を暗殺者達から救っている。


まさかまた今回も?

思わずそんな考えが頭に浮かぶ。


俺が以前侵入した事があるとはいえ、王城の防備は超が付く程厳重である。

普通に考えれば、外部からの侵入など不可能。

そんな場所に賊が出たという事は、以前の様に内部の手引きがあったと考えるのが自然だ。


「師匠……」


ベニイモとタロイモが俺を見る。

レアン王女の一件は彼らも知る所だ。

きっと俺と同じ答えに達したのだろう。


「被害の方はどうなんだ?」


「そこまでは私も聞いてなくて」


「そうか……」


レアン王女の事は少し気になるが、まあ俺が知ったからと言って何かできる訳でも無し。

彼女の無事を願うばかりだ。


「まあ予定は少し狂ってしまいましたが、気長に待つとしましょう」


その後、3時間ほどしてやっと順番が回って来る。


「どうぞお通り下さい」


俺達も長々と検閲されるのかと思ったのだが、ほぼ素通り状態で門を潜る事が出来た。

理由は至って単純。

ネサラ達三人がベルウス連合のVIP――王族だからだ。


まあエンデがバルター家の人間ってのも影響してるか。

検問の衛兵は、エンデを見て思いっきり敬礼してたし。


ゾーン・バルターは、騎士や兵士の中で知らない者はいない程の存在だ。

当然その娘も、かなり有名だったりする。


「さて……短い期間ではありますが、改めて宜しくお願いします。皆さん」


「全力を尽くします」


王都を出て、俺達はガルムス山脈へと向かう。

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