第19話 袋
「つぅぅ……」
「ちょ!お兄ちゃん!?」
俺の顔を見て起き上って来たタロイモに、急にぶん殴られてしまった。
まあ理由は分かる。
ソアラの事だろう。
「なんで……なんで師匠は……」
俺がいたら、ひょっとしたら助かっていたかもしれない。
そう考えたら、こいつが怒るのも無理ない事だ。
「言い訳はしない」
「くっ……」
気が済むまで殴られるつもりだったが、タロイモはその一発で拳を収めた。
まあそれで俺を許した訳ではないだろうが。
「えーっと……私達、師匠を探してたんです」
「騎士にはならなかったんだな」
騎士になっていたら、こんな場所に二人はいないはずだ。
1年目からドラゴンの居る雪山に放り込まれる程スパルタな訓練があるなら話は別だが、まあないだろう。
「はい。それよりも私達は、ソアラ師匠の仇を……」
「……」
タロイモ達が近くに居ると気付いた時点で、何となくそんな気はしていたが……
二人はやはり、俺と合流し、魔王と戦うつもりの様だ。
その気持ちは有難いのだが……
「まあこんな雪山で立ち話もなんだ。山を下りようか……っと、その前に」
俺は死んだアイスドラゴンの太い牙を切り落とし、首元にある逆鱗と呼ばれる特殊な鱗を剥がす。
「この素材、貰っていいか?」
ここへはレベル上げと、アイスドラゴンから回収できる素材を手に入れるためにやって来ていた。
こいつは俺が倒した獲物ではないので、ベニイモ達にちゃんと断りを入れる。
二人が俺の弟子だからって、勝手に取るのはあれだからな。
「え、ええ。構いませんけど……」
オーケーを貰ったので、俺は腰につけた袋にそれらの素材を突っ込んだ。
サイズは子袋程度しかないが、特殊なマジックアイテムなので人の腕より大きなサイズの牙4本と、人の胴体程ある逆鱗を問題なく収納できる。
「それ……すごい容量ですね」
その様子を見て、ベニイモが目を丸めた。
内容量が増すマジックアイテムに分類される鞄や袋は、そこまで珍しい物ではない。
ただしその容量はだいたい見た目の倍程度だと言われている。
高級な物でも、恐らく3倍程度がいい所だろう。
だが俺の所有しているこの袋は、1万倍近い許容量を誇っていた。
お陰で物を入れ放題だ。
しかも通常は入れた分だけ重量が増すが、これは重量すら無視する。
その上高い耐久力も兼ね備えているので、余程の事が無い限り破損の心配も無かった。
「ああ、自慢の一品さ」
偶々手に入れた逸品を自慢する訳じゃない。
これは俺が作った物だから、こうやって胸を張って誇っているのだ。
「ま、つもる話はあるけど。それはこの山を下りてからにしよう」
俺はタロイモ達と山を下り、麓の村へと向かう。
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