第14話 訃報

「ふぅ……」


日課の鍛錬を終え、タオルで体を拭く。


ソアラが旅立ってからも、俺はこうして約束通り訓練を続けていた。

だがどうしても、その能率は低いと言わざる得ない。

勿論真面目に取り組んではいるのだが、全力で打ち合える相手がいるかいないかの差はかなり大きかった。


「やれやれ。これじゃ、ソアラが助けを求めに来ても何にもしてやれないな」


思わず自嘲気味に苦笑いした。

ソアラが村から出て行って、早1年。

彼女からは毎月の様に手紙が送られてくる。


手紙の中のソアラは狩りに訓練にと大忙しで、毎日が充実している様だ。

しかも最新の手紙には、最強の騎士ゾーン・バルターに勝ったと書かれていた。


つまり、ソアラは13歳にして王国最強に上り詰めた訳だ。


「全く……ほんと恐ろしい奴だよ」


レベルは既に70を超えているらしく、訓練での伸び悩みがまるで嘘の様だ。


「こっちは1年で2つしか上がってないってのに」


相当差を付けられてしまった。

やはりレベルを上げるには、強い魔物と戦う必要がある様だ。


それから更に半年が経ち――


『アドル!スキル全取得まであと一歩だよ!』


という書き出しの手紙が来た。

レベルは既に80を超えているらしく、残りは完全耐性と経験値ボーナスLv2――全てのスキルを取らないと習得できない――を取れば、勇者スキル全コンプだそうだ。


……ま、ソアラは知らないだろうが、実はレベル条件の隠しスキルがあるんだよな。


勇者には、レベル90になってから取れる様になっているスキルが隠されていた。

限界突破と言うスキルだ。

本来レベルは100で上限なのだが、そのスキルさえ取れば、その限界を150にまで拡張する事が出来た。


レベルが50も上がれば、基礎ステータスは200も上がる事になる。

勇者のマスタリーも考慮すると700だ。

それに効率が悪いとはいえ一般マスタリーによる底上げもあるので、レベルが100と150では結構な能力差になる事だろう。


まあ勿論、150まで上げようとすると相当の労力が必要になるだろうが。

だがそれでもソアラなら、きっとその内上げきってしまうだろう。


何処までも強くなっていく幼馴染。

その報告を楽しみにしていた俺だが、その手紙を最後に彼女からの便りが来なくなってしまう。

此方から送った手紙に対する返事も帰ってこない状態だ。


ソアラに何かあったのか?


そう考えもしたが、それなら彼女の両親の元にそれが伝えられるはず。

それに彼女の強さは桁違いだ。

きっと何か長期に渡る仕事でも任されたのだろう。

勇者な訳だしな。


――そんな呑気な事を考えて、3か月の時が過ぎた。


「いい天気だなぁ」


その日、俺は母親に頼まれてソアラの家に届け物をしに向かう。

空を見上げると一面青空で、もうじき冬だというのにとても陽気な日差しだった。


こんな日は良い事がありそうだ。

そんな事を考えながら、ソアラの家の扉の前にある呼び鈴を鳴らす。


「あれ?」


だが誰も出て来ない。

留守かとも思ったが、耳を澄ますと家の中から微かに音が漏れ出ているのが分かる。

間違いなく、おばさん達は家にいる筈だ。


何か不測の事態があったのかもしれない。

そう思って俺は、一度外から大きく声をかけてからソアラの家の中に入った。


するとそこには――


「うっ……うぅ……」


――二人の騎士が立っていた。


それは見覚えのある。

ソアラの護衛として、長年ついてくれていた騎士さん達だ。


そしてその前でアデリンおばさんがうずくまって呻き声をあげ、その肩を抱くゴリアテさんの姿があった。

おじさんは歯を食い縛り、涙を流していた。


それを見た瞬間、俺の背筋が寒くなる。


「アドル君」


騎士さん達が俺の方を振り返る。

此方を見る彼らの表情は、とても沈痛な面持ちで。

それが俺の嫌な予感を加速させる。


……嘘だろ?


……ソアラだぞ?


……レベルだって80を超えて、国じゃ敵なしだったんだ。


「非常に言いにくい事なんだが――」


……そんな訳がない。


……便りが無いのは忙しいからに決まってる。


「ソアラちゃんは――」


だがそんな俺の考えを否定するかの様に、騎士は残酷な言葉を口にする。


「魔王と戦って戦死した」

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