第15話 後悔

人と魔族は、遥か昔から争い続けてきた。

だが100年前の大戦争を最後に、大きな争いは収束している。


勿論争い自体がなくなった訳ではなく、現在でも散発的な小競り合いの様な物は時々起こってはいた。

だから3か月前に起こった魔族側からの侵攻も、それと同じ様な物だと皆考えていたそうだ。


だが直ぐに終結すると思われた魔族との戦いは、予想に反し激化の一途を辿る。

魔族による激しい侵攻が続き、更には100年前の戦い以降姿を現さなかった魔王までもが戦場に現れてしまったのだ。


現れた魔王の強さは桁違いだったそうだ。

それこそ、並の戦士では近づく事さえも出来ない程に。


そんな化け物と、ソアラは勇者としてたった一人で対峙する事になる。

それは力のない他の人間が側にいたのでは、逆に彼女の足を引っ張りかねないためだった。


誰もが圧倒的な強さを持つ魔王相手に、ソアラが厳しい戦いを強いられると考えた。

だが驚くべき事に、結果はそれとは全く反対の物となる。


ソアラの強さが魔王に勝っていたのだ。

それも圧倒的に。


勇者と魔王の一騎打ちは、ソアラの優勢で戦いが進んで行く。


「ギガストイク!」


魔王を追い詰めたソアラが、勇者の持つ最強のスキルを放つ。


魔王は瀕死。

この一撃でソアラが勝利する。

遠くから戦いを見守る者達全てが、そう確信した。


――だが、そうはならなかった。


これまでソアラに押され防戦一方だったはずの魔王が、その一撃を――勇者の最強の攻撃を、片手で容易く受止めてしまったのだ。

そして次の瞬間、魔王のもう片方の手が彼女の胸元を貫いた。


「くぅっ……痛……いよ。アド……ル。たす……け……」


――ソアラは最期に俺に助けを求めた。


その後、魔王の足元から大量の魔物が生み出された事で軍は撤退を余儀なくされ。

ソアラの遺体は回収されていない。


……これが、その場にいた騎士さんから聞かされたソアラの最後だ。


俺は外に飛び出し、空に向かって吠える。


「はっ!何が力を貸してやるだよ!」


どうしようもなくなったら、力を貸してやる。

旅立つソアラに俺はそう約束した。

だが死んでしまっては、もうそれを果たす事は出来ない。


――そもそも、約束自体無意味な物だったのだ。


冷静に考えれば分かる事だ。

戦場に赴く彼女が本当に困る時――それは生きるか死ぬかの瞬間だ。

呑気に俺を尋ねる余裕などある訳がない。


……そう、俺がしたのは所詮中身のないただの口約束だ。


「付いて……行くべきだったんだ」


本当に約束を守る気が合ったなら、傍に居るべきだった。


「あいつは救いを求めたのに……俺は……なんて馬鹿なんだ」


ソアラは強いから。

彼女だったらきっと魔王だって倒せてしまう。

そんな言い訳で、俺はずっと一緒に育った幼馴染の女の子を見捨ててしまった。


スローライフなんか、魔王を倒してからでも良かったんだ。

全部終わってからで……


もちろん俺が付いて行ったからといって、結果が変わっていたとは限らない。

だが少なくとも、ソアラを一人で戦わせる事はなかった筈だ。


横に立って。

一緒に戦って。


例え自分が死ぬ事になっても、それでも、ソアラを1人で戦わせて死なせるより遥かにましだった。


「くそっ……」


苦しい。

もう2度とあの笑顔が見れないのかと思うと、今にも胸が張り裂けそうだ。


悲しくて。

苦しくて。


「ぐ……うぅぅ……」


俺には泣く権利なんてないのに、それなのに涙が止まらない。


……ソアラ、ごめん。


俺は地面に蹲り、唯々心の中で謝り続けた。

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