恋愛レベル0の令嬢なのに、キスを求められて詰んでます
高見 雛/ビーズログ文庫
プロローグ
その日は雲ひとつない青空が広がり、土の
「セレストさま。おはなしってなあに?」
つややかな長い
「ええと……」
ドリスと向き合って
「へんなセレストさま。お顔がまっかよ」
王宮の大人たちがそばにいたなら、
けれど、セレストにとっては
ほかの貴族の子どもたちは計算しているのか
初めてドリスと対面した時の印象は、けっして
それはセレストの八歳の誕生日を祝うパーティーの時。父伯爵に連れられて、形式にのっとった
「おい、待てよ。ほかに言うことはないのか?」
思わず引きとめるセレストに、ドリスはきょとんと目を見開いた。
「ごあいさつはもう済んだでしょう? わたし、むこうのお庭を探検したいの」
ずいぶんと失礼な子どもだ。親の教育はどうなっているのか。セレストは自分も八歳の子どもでありながら、内心で
「お前一人じゃ迷子になるぞ。王宮の庭園はすごく広いんだ。クレシア王国じゅうの花や、異国から取り寄せためずらしい花もたくさんあるぞ。特別に、俺が案内してやるよ」
胸を張って
「王宮のお庭は王様のものだし、お花のおせわをするのは庭師さんでしょう? 自分でそだてたわけじゃないのに、どうしてあなたがいばるの? おかしいわ」
「な……っ」
年下の女の子に言い負かされて、セレストは次の言葉を失った。
父伯爵の
「かわいい……」
セレストが背後から
(変なやつ)
そして三か月後の今日、王宮の庭園の奥――大人たちには
後ろ手に
「ドリス。あのさ……」
セレストが意を決して花束を差し出そうとした、その時だった。
「見ーつーけーたー!」
女の人の声がした。
セレストは
「何者だ?」
幼いながらも
王宮の
「通りすがりの〈
エメラルド色の
「〈野良〉……?」
国が管理する
「あのひと、おさけくさい」
セレストの背後で、ドリスは
「新しい
「
「ああ、やはり私の期待通りだ。何年、何十年
「あんた、何を言って……?」
「二度と生意気な口が
ふわりと、
「セレストさま!」
黒髪の魔女がセレストの眼前に手をかざすのと、ドリスがセレストの
「ドリス!?」
地面に
「あー、目がチカチカする。まあ、開発
視界が
「我が名はリプリィ。
「呪い……!?」
「お前の魔力と心を
ふふっ、と笑う魔女の声がひどく不快で、セレストの背筋に
「せいぜい、無様な姿をさらして生きるがいいさ。ではな」
「待て!」
セレストの目に庭園の景色が戻った時には、魔女の姿は
あたりは何事もなかったかのように緑が風に揺れ、頭上では小鳥がさえずっている。
(俺は、呪われたのか……?)
セレストは、視線をめぐらせてドリスの姿を探した。
離れたところで、
「ドリス!
「だいじょうぶ。セレストさまは?」
「俺は平気だ」
無事を
「セレストさまのお花が……」
ドリスは目に
「わたしが、もとにもどしてあげるね」
花束にそっと声をかけ、ドリスは小さな両手で魔力を注ぎ込もうとした。
「……あれ?」
不思議そうに首をかしげながら、ドリスはふたたび花に魔力をこめようとした。
「ドリス?」
「セレストさま……わたし、どうしたのかな?」
藍色の瞳を不安げに揺らすドリスの姿に、セレストはさっと青ざめた。
リプリィと名乗った魔女は、セレストに呪いをかけたと言った。
しかし、実際に呪いをその身に受けたのはドリスだった。
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