おもてなし

@mia

第1話

 私がお手伝いとして働いている家の奥様は、お客様をもてなすのが好きだった。

 秋になると金木犀のお茶と紅葉のお饅頭がよく出された。

 紅葉のお饅頭といっても、あの有名な饅頭ではない。普通のお饅頭の上に食用紅葉が乗っているものだ。

 奥様にそれとなく「栗やサツマイモの方がおいしいのでは」と言ったが、「珍しくないでしょ」と却下された。

 作るのは奥様だが、準備は私なので栗の皮むきをしなくて済むのは楽でいいけど。


 珍しいといえば、彼岸花のお饅頭。見た目は紅葉のお饅頭の紅葉が乗っていないだけ。味はよく分からない。食べさせてもらったが、あんこが美味しいと思っただけだった。

 ほとんどのお客様が、彼岸花のお饅頭を一口二口しか食べない。

 彼岸花には毒があるから食べたくない気持ちは分かるが、よく考えてほしい。大事なお客様に毒入り饅頭を出すか。出さない。

 ちゃんと毒抜きをしている。

 彼岸花の球根をすりつぶし水でさらしたり煮込んだり、何日もかけて作っているのに残されるのは悲しい。


 ある日、翌日に来るお客様のためのお饅頭作りを手伝うように命じられた。

 紅葉はともかく、彼岸花は無理だと焦る私を奥様は微笑みながら見ている。奥様の様子を見た私は察した。

 明日のお客様は、招かれざる客なんだと。


 

 

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