第2話/転生1年目、4の月(光の裏月)上旬/泣く子も笑う山賊団

シーン1-1/チュートリアル

「大目標の確認もできたし、次は具体的な行動指針になる小目標を決めようと思う」

「わかったわ。でもその前にやるべき事があると思うの。TRPGと言えば――」

「……そうだな。TRPGと言えば――」


 山道の脇にあった手頃な大きさの岩に腰を下ろし、今後について話し合う俺とディーチェ。おそらく考えている事は一緒だろう。

 顔を見合わせ、同じタイミングで次の句を発する。


「「キャラクターシートキャラシの確認!」」


 TRPGにおいて、キャラクターがどのような性能を持っているかが記入された用紙はキャラクターシート、略してキャラシと呼ばれる。つまりキャラシの確認は、自身や仲間の得手不得手を把握して冒険をスムーズに進める上で必要不可欠だ。


「とはいえ、キャラシ的なアイテムは荷物に入ってない……お? おお?」


 キャラクターシートに強く意識を向けた俺の脳裏に、ゼノの性能キャラシがイメージとして浮かび上がる。驚いて思わず間抜けな声が出てしまったが、少なくとも自分についてはちゃんと性能を把握できるようになっているらしい。

 魔剣聖ゼノのキャラシ……未来において世界に厄災をもたらすほどの悪役のデータともなれば、きっと凄まじい性能を有しているに違いない。自分が悪役に転生した件を完全に割り切ったわけではないが、TRPGユーザーとして、強キャラのデータには大いに興味を刺激される。

 これからこの肉体で生きていくのだ。自分の強さがどれくらいの高みにあるのかを把握する事は大前提になってくる。

 さあ、一体どれだけ完成度の高い壊れデータを俺に見せてくれるのか――。


「――へ?」

「どしたの、連続で間抜けな声なんか出して」

「間抜け言うな。念じたら自分のキャラシを確認できたんだが……え、何これ」

「あら、何か問題でもあったの?」

「問題っていうか……」


 改めて意識を集中させ、自身のキャラシを閲覧する。どこをどう見返しても、俺の結論は変わらなかった。


「このキャラシ、初期レベルに毛が生えた程度の強さしかないんだけど???」

「そりゃそうでしょ。だってゼノがまだ若い頃――つまり大きく成長する前の段階を再現したキャラシの筈だもの」

「…………」


 絶句する。

 期待していた凄まじい完成度のキャラシを見られなかった。確かに残念だ。

 だが、それ以上に。


「……なあ、ディーチェ」

「何かしら?」

「俺がゼノに転生したメリット……ある?」


 悪役としての破滅が待ち受けるNPCであれ、強キャラに転生した以上は当然、その強力な性能を上手く使って未来を変えていく事を考えていた。

 しかし実際はどうだ。破滅の未来は変わらないまま、キャラ性能も――それなりに戦えるデータだとしても――同レベル帯の平均を大きく上回るものではない。

 これは――。


「さ、さーて。私も自分のキャラシを再チェックしようかしらー」

「ないんだな」

「…………」

「ないんだな、メリット」

「……てへぺろ?」

「せいっ!」


 おどけた仕草で誤魔化そうとするディーチェに、渾身の粛清デコピンを叩き込む。


「いぎゃあああ!?」

「少しは反省しろ、諸悪の根源ファンブラーめ」


 額を押さえて転げ回るディーチェを冷ややかに見下ろし、俺は内心で大きく溜め息を吐いたのだった。

 このファンブル転生、どう考えても一筋縄では済まなそうだ――。

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