MKll a.k.a 邈襲

第1話 声

 毎朝朝靄に目を掠めてふと振り返る。「代わり映えしなく何も無い此の景色はいつ見ても退屈だ。」そうやって今日もまた一言呟いて、いつも通りの生活を繰り返していく。

 私は田舎に住むなんの変哲もない唯の高校生だ、今日もまた朝遅くギリギリに目を覚まして日課のように駆け足でリビングに向かい、朝ごはんもろくに食べずに、しかしながら身支度はしっかりと行う。とはいえ軽いメイクアップぐらいだが、私にはなんせ時間がないから仕方がない。その後もいつも通り「行ってきます」と大きな声で駆け出していく。しかし、そこからは「いつも通り」ではなかったようだった。はっきりとは覚えていないが、簡単にいえば正に「天地逆転」だと思う。それもその筈駆け出したと同時に飛び出した私は通りすがりの乗用車に轢かれたそうで、近所のおばさんがすぐ通報してくれたからいいものの頭からの出血で意識が朦朧としてその後一分もしないうちに気を失ったらしい。その後事故の二日後の深夜に目を覚ました時、病院のベッドで横たわる私の側には母が寝ていた。「お、かぁさん?」と声をかけてもピクリともしない、薄暗い中周辺を目を凝らして見渡すと私を心配してずっと付きっきりで身辺のことをやってくれていたのだろうと容易に想像できるくらい周りは整って、だけど色々なものがあった。そこに丁度残業から帰ってきた父が病室の扉を開けて入ってくるや否や私が起きたのを見て少しその場に立ち尽くした後、すぐさまナースさんを呼んできて「娘が目覚めました!」と父が珍しく慌てていた、その声に気づいて母も目を覚まし、まず私を精一杯抱きしめた。「よかった..よかった..よかった...」と何度も何度も私の耳元で呟いていた。

 次の日再び目を覚ますと、少し経ってから医者の元へ母に押され、車椅子で向かった。診察室に入ると主治医から「頭をそこそこ強く打っていますが今後に影響は出ることはないでしょう」と初めに聞かされて安堵した。だが次に「しかし喉を電柱に運悪く強打し、喉が潰されて...申し上げにくいですが、どうやら失声してしまったようです。」と主治医が続けて言ったが、一瞬私の脳がバグったように現実を受け入れがたくなった。私は声を荒げて泣いた。だが部屋の中は静寂に等しかった、そして昨日母親に話しかけたのにも関わらず起きなかったのは疲れていたのも勿論あるだろうが、声が届いていなかったからだと改めて自信で理解して余計に悲しくなった。泣きじゃくった後の私の顔は酷く荒れていて喉は刺されたような痛みが走った。その後母が主治医の話を聞く間一旦、私は病室に戻り唯絶望に苛まれていた。そして気がつけば立つのも儘ならないそのボロボロの体で階段を駆け上がり屋上に半分身を投げ出して自分の今のこの現状に嫌気がさしていた。もう自分のこの先のことなどこれっぽっちも頭になかった。そして現実逃避をするかの如く静かに目を閉じて追い風に身を委ねていった。目を閉じる前に最後に見た景色はいつも通りの朝靄だった。

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