属性で人を決めつけるな
三郎
本文
恋愛に性別もセクシャリティも関係無い。俺——
「別れよう。みさご」
「は? なんで急に……」
「……みさご、バイなんだろ? 女を好きになれるなら女を選んだ方がいいよ」
彼——
曰く、過去にバイセクシャルの既婚者の男性に騙されたことがトラウマで、バイセクシャルの人間は信用出来ないらしい。
「んだよそれ。てか俺、バイじゃなくて、パンセクシャルだし」
「一緒だろ」
「まぁ、そんな変わんないけどさ」
「……みさごもゲイだと思ってたのに」
「んだよ。俺がゲイじゃなかったことがそんやにショックなの? 別れたくなるくらい?」
「……いつか捨てられるくらいなら、早いうちに別れたい」
泣きながら、震える声で彼は言う。俺は思わずため息を吐いた。過去に付き合った男性に、同じことを言われた。彼もまた、ゲイだった。レズビアンの友人も言っていた。『みさごのことは好きだけど、バイセクシャルとかパンセクシャルに対してはどうしても良い印象を抱けない』と。LGBTQなんて一括りにされているけれど、同性愛者と両性愛者、全性愛者の合間には確執がある。女も恋愛対象だと打ち明けたら嫌な顔をされたことは少なくない。陽翼は違う。そう信じていたから、サラッと打ち明けられたのに。
「……アホか」
彼の頭を小突く。彼は泣きそうな顔で俺を見上げた。泣きたいのはこっちなのに。ムカつく。涙を堪えて、怒りを抑えて、彼を抱き寄せる。
「俺さ、お前のこと好きだって、散々伝えてるよな? 伝わってない?」
「……」
「パンセクシャルってだけで、今まで伝えた言葉が全部信用出来なくなるのかよ。お前にとって俺のセクシャリティってそんな重要なわけ? 確かに俺はゲイじゃないよ。お前の性別とかどうでも良いよ。女だったとしても、トランスジェンダーだったとしても好きになってたよ。陽翼が好き」
「俺は……みさごが女だったら好きにならなかった。男だったから、好きになった」
「知ってる」
「……その差が、辛い」
「別れたくなるほどに受け入れられないことか?」
「……怖いんだ。いつか、俺を捨てて女性を選ぶんじゃないかって」
「俺は結婚してないし、彼女も居ない。女性と付き合ってたことはあるけど、彼女のことも男性でも関係なく好きになってたと思う。性別なんてどうでも良いよ」
「なら、尚更女の方が——」
流石にめんどくさくなってきた。その先の言葉を聞くのも煩わしくて、彼の顔を上げさせ、唇を奪う。
「っ……ん……みさ……」
「っ……」
そのまま体重をかけて、床に押し倒す。
「好きだよ。陽翼。愛してる」
そう囁きながら服に手をかけると止められたが、静止を振り切り、両腕を頭の上でまとめて服のボタンを外す。
「み、みさご……やだ……やめて……」
彼がそう言うので、素直に手を止める。すると彼は目を丸くして俺を見つめた。
「んだよ。その顔。嫌なんだろ?」
「……なんで」
「お前が嫌だって言うから。……俺はお前が好きだよ。こういうこともしたい。けど、嫌がってるのに無理矢理するのはそんなんレイプと変わんないだろ」
「……無理矢理キスしたじゃん」
「ごちゃごちゃうるせぇからちょっと黙らせようと思って。悪かったよ」
「……んだよそれ」
「……なぁ、陽翼。何度も言うけどさ、俺はお前が好きだよ。セックスもしたいけど、それ以上に、お前を傷つけたくないんだ。だから、お前がしたくないならしない。身体目当てじゃないから」
「……分かってる」
「分かってんなら別れるとか言うなよ」
彼の頭を小突く。すると彼は泣きながら謝り、俺に抱きついてきた。
「んで? 本音は? 別れたいの? 別れたくないの?」
「別れたくない」
「ん。俺もだよ。こんなことで捨てられるとか、二度とごめんだわ」
「……二度と?」
「……昔付き合った男に同じ理由で一方的に別れを告げられたんだ。……陽翼なら、そんなこと言わないだろうって、俺が何者でも良いって言ってくれるって、信じてたんだよ? 俺」
堪えていた涙が溢れ出してきた。苛立ちを抑えるために彼をキツく抱きしめる。
「自分が被害者ですみたいな顔しやがってさ。俺はパンセクシャルだけど、お前を騙してた既婚者の男とはちげぇよバーカ。そんなクズと一緒にすんなよクソが。お前今まで俺の何を見てきたんだよ」
「……ごめんね」
「……罰として今日の飯はお前が作れ。俺は手伝わん」
「うん……みさごが好きなもの作るよ。何が良い?」
「……味噌汁。豆腐ハンバーグ。おからサラダ」
「……みさごって、ほんと大豆製品好きだよね」
「うるせぇ。はよ作れ」
「作るから離してくれない?」
「やだ」
「……離してくれないと作れないよ」
「……もう二度とあんなこと言わないで」
「うん。言わない。ごめんね。……俺が間違ってた」
「そうだよ。お前が間違ってた」
「うん……本当にごめん。……ありがとう。ちゃんと話をしてくれて」
「死ぬほどムカついたけど、あんなくだらん理由でお前と別れたくないから」
「……ありがとう。俺を好きになってくれて」
「……分かってくれてありがとう」
「……うん。……ねぇ、そろそろ離してくれない?」
「……もう少し」
「……分かった。もう少しね」
そう言って彼は俺を抱きしめた。そして何度も謝り続けた。
同性同士では結婚は出来ない、子供もできない、世間体が気になる——異性愛と比べるとさまざまな問題がある。けど、子供以外の社会的な問題はこの先変わっていく。俺はそう信じている。だから俺はこれからも彼に愛を伝え続けよう。もう二度と、俺がパンセクシャルであるというだけで彼が不安になってしまわないように。
属性で人を決めつけるな 三郎 @sabu_saburou
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