第10話
「ここが来宮(きのみや)の家だっ!」
「バンッ!」
「(―――――、)」
「ザッ」
善波が勢いよく車の扉を閉め、
助手席から降りてきた征四郎に目を向ける
「・・・屋敷が見えないみたいだが....」
車から降りて門の先を見渡すが、
建物らしい影は見当たらない
「ああ! この来宮の家は土地が広いからなっ!
屋敷はこの門を抜けて
少し先に歩いた場所だっ!」
「じゃあ、車で行く事はできないんじゃ――――」
「まあ、行けなくはないが、何しろ、この山道だっ
俺の車じゃ少し難しいかもなっ!?」
「だったら、ここから歩くって事か....」
「そうだなっ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
広い、来宮家の敷地を歩く事十分程。
「いやーっ よく分からんなっ!?」
「・・・・」
前を歩く善波の後をついて
山道を登って来た征四郎だったが、
相変わらず、建物がある気配がない
「.....ここに建物があるって?」
征四郎が、疑わしい目つきで
前を歩いている善波を見る
「....分からんっ!」
後ろを歩いている征四郎に目線を向けず
辺りを見回しながら、善波は大声を上げる
「俺も、この来宮の家に来たのは
もう、大分昔の事だからなっ!?
――――こっちで合ってたと思うんだがっ!?」
「(――――、)」
「ザシャッ」
「こっちかっ!?」
「ザシャッ ザシャッ ザシャッ ザシャッ」
「(――――、)」
「そっちかも知れんなっ」
「ザシャッ」
「(――――、)」
前を歩く善波の後ろ姿を見ながら
征四郎は、一つ、考えていた――――
「("征"の字――――)」
「おっ 別れ道だぞっ!? 征四郎くんっ!?」
「―――――、」
「ザシャッ ザシャッ ザシャッ ザシャッ」
自分の言葉を聞く事も無く、
左の道の方へ進んで行く様子を見ながら、
征四郎の頭にある一つの考えが
浮かんでいた――――
"次の御代は、征佐様でございます"
「("征佐"―――)」
遺言書の中に書かれていた
"征佐"と言う言葉が過る
「(・・・"征佐"と、あの紙には書かれていたが
そもそも、"征"と言う字は....)」
自分の家、"鴇与家"
「(そもそも、征佐の"征"と言う字は
叶生野家の人間が使う事は殆ど無く
鴇与家の男子の名前が
よく使う言葉だ――――)」
征四郎の兄 征一、そしてその弟で
征四郎の兄である征由(まさよし)。
「(その他にも、俺の親戚、
そして親父である征顕(まさあき)、
その親父―――――)」
"征の字は代々鴇与家の男子が使う字"
「(だが、そうは言っても、
鴇与家の中にも"征佐"と名乗る人間は
見当たらない.....)」
「ガサッ!」
「おっ あった あった!」
「・・・・!」
「どうやらこっちの道であってたみたいだなっ!?
征四郎くんっ!?」
「――――、」
少し先の方を見ると、目の前の蔦(つた)や
大きな木の枝の葉に隠れる様に
暗い色をした建物が目に入ってくる
「確か、この家の当主の名は――――」
「"雅彦"....!」
「――――何だ、知ってるのか?」
「―――ええ。
そう言えば、確か子供の頃に一度――――」
蔦や、葉に覆われた建物を見て
征四郎の頭に子供時代の
映像が浮かび上がってくる
「何だっ 来たことがあったのかっ!?」
「ええ、一度だけ――――」
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