第15話 月日は流れ
次の休みの日。俺はひなと玲を連れて家を出た。
「優斗さん。どこにいくんですか?」
「いいところに連れて行ってあげるよ」
三人でバスに乗って出発した。
目的地は、海だった。
「わあ。海ですね。綺麗」
「未来では俺は、仕事が忙しくて玲をなかなか遊びに連れて行ってやれないんだろ?」
「はい。お父さんは、なかなか遊びに連れて行ってくれませんでした。おまけに初恋サービスを使ってないとバスにも乗れなかったですからどこにも連れて行ってもらった覚えがありません」
「すまなかったな。寂しい思いをさせて」
「ええ。ですが、そのおかげで勉強が捗りました。だから私は知識を沢山手に入れる事ができたんです」
「ほんと玲は凄いよ」
「私、天才ですから」
「誰に似たのかな」
「当然、私よね」
横からひなが言う。
「はい。私はお母さん似の美人だと言われます」
「ほんと。二人はそっくりだ。でも鼻筋は俺に少し似てるかな」
「そうですね。鼻はお父さんに似たのかもしれません」
「これから先、どんな未来が待っているのか楽しみだな」
「きっと楽しい未来ですよ」
「そうだといいけどな」
「大丈夫。私が保証するわ」
「ありがとう。ひな」
「ねえ、早く泳ぎに行きましょうよ!」
玲が急かす。
「わかったよ」
「玲、準備運動はしなくちゃだめよ」
「分かってますよ。もう、お母さんって本当に慎重なんですから」
「玲ちゃん、転んで怪我したら大変だからね」
「大丈夫だってば」
そして、俺たちは砂浜を駆け出した。
「きゃっ!」
玲の足がもつれた。
危ない。
俺は咄嵯に手を伸ばし、玲を抱き寄せた。
間一髪のところで玲は、転ばずに済んだ。
「ふぅー。気をつけろよ」
俺は、安堵のため息をつく。
「ごめんなさい。つい夢中になって……」
「まあ、海に初めて来たんだから仕方ないさ」
「うん……」
すると、俺の袖をひっぱる感覚があった。
「ん?」
振り返ると、ひなが頬を膨らませていた。
「どうした?」
「別になんでもない」
「いや、明らかに怒ってるじゃないか」
「そんなことない。それより、私の事もちゃんと守ってよね」
「もちろんだよ。ひなも玲も何があっても俺が守る」
「ならいい」
ひなは、満足そうに笑みを浮かべた。
「なんだか二人とも仲良すぎじゃないですか?」
「そ、それは……ね」
ひなが顔を赤くして照れている。
「ええっと……ほら!ひなも玲も準備運動しないとな」
「そうですね」
皆で準備運動をする。
「じゃあ、私は先に海に入ってるから」
「ああ、溺れないように気をつけるんだぞ」
「大丈夫です。私は泳げますから」
そう言って、玲は海に走って行った。
「あっ、玲。……全く」
「追いかけなくていいの?優斗」
「まあ、あの調子なら大丈夫だろう」
「そっか」
それからしばらくして、俺達も海に入った。
「うわぁ!冷たい」
ひなは、海水でびしょ濡れになった。
「こら、あまり遠くに行くなよ」
「わかってるって」
玲は、はしゃいでいた。
ひなは、水をかけてきた。
「やったな」
俺も反撃する。
「えい!」
「うおっ!?」
「どうだ優斗。参ったか?」
「まだまだこれからだ」
俺は、思いっきり水をぶっかけた。
「きゃあ!」
「はっはっは。どうだ!」
「優斗、覚悟しろ!」
「ちょっ……。待てって。ひな!」
ひなは、俺に向かって突撃してきた。
俺は、慌てて避けようとしたが、間に合わず、ひなに抱きしめられながら海の中に沈んだ。
「ぷはっ!!やったなー」
俺は、仕返しとばかりに、もう一度潜って、ひなに抱きついた。
「きゃー!!」
「へっ。ざまあみろ」
俺は、笑い声をあげた。
「もー。酷いよ優斗!」
「悪いな。だがこれでおあいこだ」
「お父さんとお母さんがイチャついてますね。これは面白いです」
「ちょっと、玲ちゃん。写真撮らないでよ」
「はいはい。分かりました」
そう言いながらも写真を撮り続ける玲であった。
そして、しばらく遊んでいると、ひながバテてしまった。
「だらしないですね。お母さん。もう少し体力をつけた方がいいんじゃないですか?」
「はぁはぁ……。だって……。というか、玲はどうしてそんなに体力あるのよ」
「私、天才ですから。勉強だけじゃないんですよ」
「運動神経はお父さん似かな」
俺は誇らしげに言った。
「そうですね。お母さんは運動神経ゼロですから」
「ひなは、俺達の良い所を受け継いだ自慢の娘だな」
「本当の事でも改めて言われると照れてしまいますね」
「あははは」
「はははは」
三人で笑い合って楽しい時間を過ごした。
「さて、そろそろ帰るか」
「そうだね」
「そうですね」
「楽しかったけど疲れたわ」
「また来ましょうね」
「ああ、絶対に来るよ」
「お母さん、次はもっと遊びたいです」
「うん。今度は愛美とかも連れて来てもいいわね」
「愛美おばちゃんとも遊びたいです」
「玲は愛美も知ってるの?」
「はい。愛美おばちゃんは美容師で、私の髪を切ってくれてるんです」
「へえ。そうなの。愛美が美容師ね。あの子らしいわね」
「確かにな」
俺達は、バスに乗り込んだ。
家に帰る途中、玲が寝てしまった。
「ふぅー。今日はいっぱい遊んだものね」
「ああ、玲はよく頑張ったと思うよ」
「ありがとう。優斗」
「ん?何がだ?」
「未来での思い出を先に作ってくれて。なんだか得した気分だわ」
「あはは。俺もだよ」
それから、その日は解散となった。
俺が、ソファーでくつろいでテレビを見ていると、母さんが話しかけてきた。
「ねえ、優斗」
「どうしたんだ?」
「この前のデートは上手くいったのかしら」
「まあ、それなりには……」
「そう。良かったじゃない」
「なんで急にこんな事を聞こうと思ったんだ?」
「別に深い意味はないわよ。ただ気になっただけだから」
「そういうもんなのか?」
「ええ、そうよ」
「ふーん。まあ、いいや。じゃあ俺部屋に戻るわ」
「わかったわ」
俺は自分の部屋に戻ろうとした時、電話がかかってきた。
『プルルルル』
「もしもし。どちら様でしょうか」
「俺だ」
「父さんか。どうしたんだ?仕事忙しいんだろ?」
「いや、特に用事があるわけでもないんだがな」
「そうか。まあ、いいんだけどな」
「それで、どうなんだ?」
「どうって?」
「未来のお前の嫁さんと子供とのデートだ」
「ああ、楽しかったぞ。海に行ってきた。最高だったよ」
「ふっ。そうか。未来からお前に会いにきたというのを初めて聞いた時は驚いたが、まあでもこれも一つの思い出だな。人生何があるか分からん」
「そうだな」
「優斗。これからも家族を大切にしていけよ」
「わかってるよ。じゃあそろそろ切るな」
「ああ、お休み」
「お休み」
俺は、通話終了ボタンを押した。
そして、部屋のベッドに横になって呟いた。
「本当に色々あったな……。でも、これが俺達の幸せなんだよな。きっと」
俺は、目を閉じた。
次の日の朝、俺は玲に連絡する為にメッセージを送った。
しかし全く返事は返ってこなかった。
「あれ?おかしいな……。いつもならすぐに返ってくるはずなのに……」
俺は不思議に思いながら学校へ向かった。
そして、教室に入ると、玲は学校に来ていた。
「あっ、おはようございます」
「おはよー。玲、メッセージ送ったんだぞ」
「気づきませんでした」
「そうか」
「優斗さん。今日は大事な話があるんです。学校終わりにひなちゃんを呼んで一緒に話を聞いてくれませんか?」
「ん?ああ、わかった」
俺はひなに連絡した。玲が大事な話があるから会おうと。
そして放課後になり、玲とひなと三人で会う事にあった。
場所は公園だった。
「ここは、お父さんとお母さんがよくデートしてる公園なんですよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあここでいいですね、最後のお別れをするには」
「最後って?」
「どういうこと?玲ちゃん」
「そのままの意味です。私の目的は達成しました。もう未来へ帰ろうと思うんです」
「そんな……」
「それで優斗さん。ひなちゃん。他にも愛美おばちゃん達、関わった人全員が私と出会った事の記憶が消えます」
「えっ……」
「私はまだこの時代には、存在してはいけない存在ですから」
「そんな」
「でも私は覚えてます。お母さんとお父さんと一緒に海に行った事。愛美おばちゃん達と遊んだこと。どれも最高の宝物です」
「玲……」
「だから優斗さん。私の事は忘れてください。それが一番いい選択だと思うのです」
「嫌だよ……せっかく仲良くなったのに」
「ごめんなさい。お父さん、お母さん」
「玲、俺からも頼みたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
「はい。なんですか?」
「俺と母さんは絶対にお前の事を忘れない。例えどんな事があろうとも」
「ありがとうございます。お父さん、お母さん」
「玲ちゃん。お願い行かないで!」
「無理ですよ。この時代にいる限りは」
「玲……」
「玲ちゃん……」
「では私はそろそろ行きますね。お父さん、お母さん。未来でまた会いましょう」
すると突然強い風が吹いて砂埃が立ち、玲の姿が見えなくなった。
「玲!どこだ!?」
「玲ちゃん!」
もう玲の姿は見えなくなった。
それからは、皆に聞いても誰も玲の事を覚えている人はいなかった。
愛美ちゃんも雅弘も、他のクラスメイトも。
大谷さんを覚えている人もいなかった。
本当に皆、忘れてしまったんだ。
そして俺も少しずつ、とても大切な人であったはずの誰かの事を思い出せなくなっていった。
それから数日が経った。
「おはよう、ひな」
「おはよう、優斗」
二人でバスに乗り込み、通学する。
今日も良い天気だ。俺にはとても可愛い彼女がいる。
この彼女を大切にしよう。その事だけは、ずっと心の中にある。
「学校終わったらデートしよう、ひな」
「そうね」
「公園で良いか?」
「ええ、いいわ」
それから十年が経っていた。
俺は二十六歳になっていた。
「お待たせ、優斗」
「おまたせ、ひな」
「今日はひなにとても大切な話がある」
「何?改まって」
「ひな……。俺と結婚しよう」
「……はい。よろしくお願いします」
俺はひなにプロポーズをしていた。
そして更に一年が経ち、ひなが妊娠していることが分かった。
お腹の中の子供は、女の子のようだ。
「名前、どうしようか」
「名前か……。そうだな……」
「玲」
「玲」
二人で同時に同じ名前を口に出していた。
「なあ、ひな。俺さ、思い出したんだ」
「私も」
二人して笑った。
「この子は将来、天才になって、私達をびっくりさせてくれる」
「ああ、そうだ」
「でも玲には、自分が気付くまで黙っていような」
「そうね。玲の成長を二人で見守っていきましょう」
「俺とひなの大切な宝物だからな」
「うん」
忘れていた。でも思い出せた。
俺とひなは、お腹の中にいる玲に、再び結んでもらったんだ。
「お疲れ様、玲」
「おつかれ、玲」
二人は今、幸せだろうか? これからもずっと幸せであってほしい。
二人が結ばれなかったら、私が生まれてこないからな。
玲はきっとお腹の中で、そんな事を考えているのだろう。
俺達は、三人とも幸せになったよ。
だから安心してくれ、玲。
俺達が必ずお前を守るから。
「元気にしてたか?玲」
俺は、ひなのお腹をさすって声をかける。
そうするとひなのお腹が、動いた気がした。
「動いた。元気だって言ってるぞ」
「ほんとね」
それからひなは、無事に玲を出産した。
「ほーら、ママですよ~」
「パパもいるからな」
「玲、早く大きくなって顔を見せてちょうだい」
玲は、ゆっくりと目を開けてこちらを見た。
「うぅ……」
「生まれたばかりなのにもう喋ってる!」
「かわいい……」
「でもこれから生意気な玲になっていくんだよ」
「ふふ。でも可愛い子」
「玲、パパだよ」
「あう……」
玲は俺を見て手を伸ばした。
「玲は俺の事が好きみたいだ」
「あら、そうなの?じゃあ優斗は玲の彼氏決定ね」
「えっ?」
「玲は絶対、優斗の事を男としても好きだったわよ。玲が記憶を取り戻す十六歳になったら聞いてみよう」
「そうだな。それは興味がある。父親として娘に恋心を抱かれるのは、嫌な感じはしない。むしろ嬉しい事だ」
「案外嫌われて他に好きな男の子のがすでにできてたりしてね」
「それは許さん。絶対に認めない」
「あはは」
玲はどんな大人になるんだろう。
楽しみで仕方がない。
「ねえ、優斗」
「なんだ、ひな」
「私達の娘が、世界一可愛い」
「当たり前だろ。世界で誰よりも一番だ」
「玲は、将来モテまくりの美少女になるね」
「間違いないだろうな」
「私は玲が大きくなった時に困らないように、もっと頑張らなくちゃね」
「俺も負けていられないな」
玲が大きくなる頃には、俺達の愛娘の事を自慢しまくるんだ。
「優斗、大好きよ」
「俺の方が好きだ」
「私の方が好きだよ」
「いや、俺の方だ」
「私です」
「俺だ」
「あははは」
「はははは」
子育ては大変な事の連続だったけど、それから十六年の月日が流れた。
そしてついにその時がやってきた。
「お父さん。お母さん。私、思い出しました。私が未来から過去へ行っていた時の事を」
「そう。思い出したのね」
「そうか。思い出したか」
「はい。これで三人一緒に過ごせますね」
「ああ、そうだな」
「私……私は……うっ……ううっ……」
「どうした、玲」
「すみません。嬉しくてつい……」
「玲、本当にお前は良く頑張ってくれたよ。お前のおかげだ」
「はい……」
「これからも三人で一緒に過ごそうな」
「はい」
そして玲は、タイムマシーンを完成させた。
「お父さん。タイムマシーンが完成しました」
「できたのか?」
「はい。これで未来へ行って大谷さんに会う事もできます」
「そうか。大谷さんに。元気にしてるかな?」
「行きますか?」
「ああ、行こう」
俺は玲と一緒にタイムマシーンに乗り込み、大谷さんのいる未来へと向かった。
そして大谷さんと再会した。
「大谷さん」
「加藤君。それに博士も。どうでしたか?望む未来に変わりましたか?」
「はい。おかげさまで」
「そうですか。本当に良かったです。こちらでも加藤博士を狙うテロリストも確保したところなんですよ」
「良かった。未来の安全も守られたんだな」
「はい。これも加藤君と博士のおかげです」
「それじゃ、俺達は帰るよ」
「待ってください」
「ん?どうしたんだ?」
「加藤博士。初恋サービスですが、あれはもう二度と作らないで下さい」
「なぜですか?完成すれば人を救う事ができるものになると思うんですが」
「初恋サービスは、博士でも完全な完成に至らなかったものなんです」
「そうですか。でもそう言われると、それはそれで逆に燃えてきそうですが」
「もういいじゃないですか。元々は加藤君の記憶を消す為のものだったんですよね?」
「ええ。まあそうですけど」
「また別のテロリストが現れて、悪用しかねない技術です」
「あはは。そうですね。記憶を消すのは、正直もううんざりなんです。それに……」
「それに?」
「お父さんは記憶を消しても、結局はまた同じ人を好きになりました。運命の赤い糸には逆らえないんですよ」
「なんだか博士らしくないロマンチックな言葉ですね」
「そうですか?」
「ええ。なんだか前よりも女の子らしくなりましたね、博士」
「よく分かりませんが」
「お父さんとお母さんが愛情をいっぱい注いで育ててくれたからなんでしょうね」
「そっか。やっぱりそうなんだ」
玲はぽつりとつぶやいた。
「では、そろそろ私達は帰りますね」
「はい。では、さようなら」
「はい。さよなら」
「ありがとうございました」
「いえ。私こそ。お二人に会えて本当に幸せでした」
そして、俺達は、過去へと戻った。
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