誰か悪の軍団だと言ってくれ!
構部季士
第一章 デッド オア ドリーム
第1話 ”悪”が、芽吹く
――いじめられる人は絶対に悪くないよ。絶対に。
幼い頃、同級生の少女は僕にそう言った。
その時の僕は全てを失い、全てを憎み、全ての善意に悪意を抱いていた。
色々あった僕は世にいういじめられっ子だったが、そこに不満はなく当然とすら考えている節があった。誰も助けてくれないことこそが、僕にとって許しですらあるのかも、と。
――いじめられる人間にも理由がある。
なんて言う連中の発言を僕は思考停止のまま受け入れていた。彼らのその一言は、僕にいじめを肯定させていた。善意と悪意の境界が破壊された僕には曖昧になっていた。
だがしかし、ただ嵐の中に立たされていただけの僕に彼女は手を差し伸べて、いじめられる君は悪くないのだと言ってくれた。
やはり幼かった僕は、そんな彼女に凍り付いていた感情を爆発させて正直な気持ちを吐露したのだ。もしかしたら、いくつか汚い言葉をぶつけて罵声を浴びせてなじったかもしれない。
第三者から見た僕の発言は支離滅裂で、ただの狂った子供だったかもしれない。それでも、彼女は受け止めて微笑んでいた。
「――私は、そうは思わないよ」
この一言で僕は息を吹き返した、いや、目を覚ましたのだった。
小さく広大な世界には、多数から少数を救う、さらに極少数が居るのだと。
※
僕はロボットの出てくる特撮作品やアニメが大好きだ。
どれだけ弱いキャラクターもロボットという乗り物兼武器を操縦することにより最強のキャラクターに変身できるのだ。それに、カッコいい。
ここまでは共感する人も多いだろう。でも、僕はロボットアニメに夢中になりながら、自分でも認めるぐらい歪んだ感情移入をしていた。
――悪の軍団側が好きだ。
征服、侵略、破壊などなどの数多の悪事を行う悪の軍団はクリエイターの数だけ、物語の数だけ存在している。
僕にだって当然の倫理観はある。悪の軍団が好きだからと街中で破壊活動する気もテロ組織に入りたい願望もない。だって、現実の彼らには悪の矜持は無いからだ。
じゃあ、何故フィクションである創作物の彼らの姿を見ているとこの身を引き裂かれるような気持ちになってくるのか。
彼らは世の中の悪が滅んでほしいという願いを受けて、滅亡を余儀なくされているんだ。そんな彼らを不憫には思わないのか?
悪の軍団はただ悪でしかない。悪という嫌悪される生き方で敗北を強制されてきた。
大衆は悪の敗北に喜び、悪に微笑む者は誰も居ない。例え存在したとしても、舞台装置の役割しか持たない。どれだけ名作と言われても、悪の軍団が敗北すると判明した時点で僕は一気に興味を失った。だって、つまらないじゃないか。
それには理由がある。僕は小学生の頃、いじめを受けていた。今となっては何が発端となっていじめられたのかも思い出せないが、忌まわしい記憶を思い出せないということは、それだけ嫌な出来事が過去になりつつあるということだろう。
話は脱線したが、僕はいじめの経験から、何故いじめは起きるのかという考えに至った。
まだ何か大きな悪事をしてしまい、それが非難されるならまだ理解できる。それは、外見、家族、趣味、持病、些細なすれ違い、などなど……どこからでもいじめというものは発生する。
一時期は思い悩んだものだ、どうすればあんなくだらないものが一掃できるのかと。いや、できないんだ。とすぐに結論は出た。
いじめっ子を吊し上げ、偽善で糾弾しても、さらなるいじめを生む。そもそも、いじめっ子だって最初からいじめっ子だった訳じゃない。首謀者なりに理由もあるんじゃないか、そんな彼らをいじめ返しても終わりはこない。
台風のように自然発生的に邪悪は生まれる。そうかこの世に救いはないのかと絶望しかけた僕は、環境音楽のように垂れ流していたテレビに目が留まった。そして、僕は救いを求めた。
テレビの中、人種も姿も別々の存在達が一つの組織を作り、同じ目的の為に行動している。そこには弱者も強者もない、ただ一つ”悪”という理念の下で理想を叶えようと躍起になっている。――それが、みんなご存知の悪の軍団というやつだ。
彼らこそ差別意識を超越した生物の理想形ではないのだろうか。彼らがフィクションだと気づいた時には、クラスメイトに給食を黒板消しまみれにされた時ぐらい落胆したものだ。
話を戻すが、彼らは悪の軍団という制服を強引に着させられているのだ。
外見で善悪は語れない、ヒトは見た目じゃないなんてありきたりな言葉は使いたくはないが、きっとそういうことなのだろう。
正義の味方という制服を着た連中も悪の軍団という制服を着た彼らも、きっと見た目じゃない。そして、ただの悪じゃない”悪の軍団”としての彼らには信念があった。
だから、もし、もし……だ。
本当に創作物ではない悪の軍団が目の前に現れたなら、僕はきっと僕じゃなくなる。
年数を重ねるだけ重ねた感情が暴走してしまうに違いない。
それが、自分の命を失うような結果になったとしても、だ。
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