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「最後まで、ドルフはその飼育員に、手を振り続けました。水面から立ち上がり、覚えたばかりの別れの挨拶を、いつまでも、いつまでも、繰り返すのでした」

 ぼうっとしていた。体の芯からやってくるような寒さが、僕を震わせる。半分だけ開いた窓から、冷たい風が吹き付ける。ついさっきまで雨が降っていたと思ったのに、いつの間にか止んでいる。

 立ち上がり、窓を閉める。そうだ、カップラーメンを作っていたんだ。タイマーをかけるのを忘れていた。何分経ったろうか、と思いながら、服を着る。けれど、どうしてだろう、不思議な感覚だ。時間も測っていなかったのに、なぜだか、ちょうどぴったり三分経ったような、確信めいた感覚がある。いつもカップラーメンばかり食べているせいで、そんな馬鹿馬鹿しい能力が身に付いたのかもしれない。

「感動的なシーンでしたね。回答者の皆さん、いかがでしたか?」

 カップの蓋を開ける。熱い湯気が立ち上る。

「一度、飼育員が溺れかけたじゃないですか。そこに颯爽と現れたドルフの姿が、もう、何というか、思い出しただけで……」

 溺れかけた……。思い出しただけで? よく見ていなかったが、何の番組だろう。僕は箸を割り、カップに突っ込む。熱いスープの香りを、思い切り吸い込む。

「イルカが人を助けるって、ほんとだったんですね」


 温かなラーメンの匂いが、冷えた肺を満たす。

 半分だけ蓋の開いたカップに向かって、僕は胃の中身を、思い切りぶちまけた。

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インスタント 細井真蔓 @hosoi_muzzle

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