SS6:ガンジスの八咫烏:後編その3
航空攻撃が終わる。
しかし遂に恐るべき事態が始まってしまった。
インド共産軍に50門程しか配備されていないはずの150mm以上の重砲がインパール方面ではなくこちらへ配備されたという通信連絡。
その直後、遠方で重砲の発砲音が聞こえ、直ぐに300m先に着弾した。
そして次第に迫る試射の着弾地点。
あれが市南部のインド国民軍陣地に到達すれば効力射が来る。
爆撃と違い何十発も連続する砲撃。
防ぐ手立ては今のところない。
「来るぞ! 退避」
「隊長。まだ試合の勝敗が決まっていないのでもう少し粘りますぜ」
大男の網走が異議を唱える。
「私も同感です。受けて立ちましょう」
小柄な鈴木もやる気満々だ。
「やれやれ。生きて帰りたいだけなんだがな。俺は。
仕方ない。
審判をしてやるか」
まさか。
砲弾を打ち落とす気なのか?
両者の目は真剣だ。
互いに視線を交わしてから射撃姿勢を取る。
試合用の支柱とスタビライザーを取り付け始める。
そしてなんと照準スコープを外してしまう!
「秘儀。赤射眼!」
網走総本家に伝わる特殊技能。
レーザーポインタ以上の精度で敵の存在を把握。
自動的に敵を追尾する業であるという。
「奥義。天羽々矢!」
神武神話に登場する矢の名称を冠したこの奥儀。
いわゆる誘導ミサイルだ。
発射すれば必ず当たる。
これらの業を見た者は殆どいないので、虚偽・誇張の類と一般には認識されている。
しかしこの2人。
敵の砲撃の元にいて虚偽を言い放つはずもなく。
「効力射来るぞ。たのんだ」
ズガン!
ズガン!
ズガン!
ズガン!!
6発が装弾されているマガジンラックが空になるまで2人は撃ち続ける。
全弾命中。
幸い、敵の重砲は8門らしい。
それでも多いが。
素早くマガジンを再装填。
その間に濡れ雑巾で銃身を冷却する。
次々と打ち落とされ、空中で爆発する砲弾。
敵は何が起きているか、全く理解できていないであろう。
しかし。
このような事がいつまでも続けられる筈もない。
既に2人の頬に汗が滴り、顔色は青ざめて来た。
精神統一が崩れかけている。
何時かは外すのは確実。
その時がこの防衛拠点の壊滅であろう。
ゴウォーーーーン!
ヴォーーーーン!!
ギューーーーン!!!
ギューーーーーン!!!!
突如、上空を北方の敵陣へ向かう味方の戦闘爆撃機。
4機編隊だ。
ハードポイントには無数の棒が吊るされていた。
疋田たちの前方数キロに布陣していた重砲陣地に火箭が向かう。
ロケット弾だ!
75mmの小型ロケット弾を各機16発装備し、重砲陣地を制圧射撃していく。
各所で重砲弾が誘爆。
大爆発に発展する。
「花火のようだな。
お前たちが日本国軍の精鋭に返り咲いた祝砲をこの地の神々が喜んでいるのかもしれないな」
共産政権の元、徹底的に排除されてきた神々の復権のために使わされた神軍とも呼ばれるのかもしれない。
しかし疋田にはそんなことはどうでもいい。
ただ生きて帰れれば、息子と二人で再び笑い合える生活に戻れれば何でもしよう。
それぞれの思いの交錯する廃墟で国民軍の兵士たちの歓喜の声を聞きながら、妻からもらった懐中時計をポケットから出し、蓋を開けて親子3人の写真を見つめる。
時にD-DAY、12:24。
まだまだ戦争は始まったばかりであった。
第2部へ続く……かもしれない。
お読みいただきありがとうございます。
もし続きが読みたい!という方がございましたら★などをつけてくださいませ。。
多いようでしたら第2部を書こうかと思います。
第2部は海戦です。
第3部が「遠すぎた橋」的な何か。
多分、これ以上の掲載は場違いなので、単独の作品となると思います。
「それを所望致す!」
という奇特な方がおりましたら、♡マークを押してくださいませ~♪
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