幕間:SS祭り~^^

SS2:KAC参加作品【『殿。やはりこの名前。何か意味があるんでしょうか?』】

 サブタイトル

『岩櫃山の名前まで変えられてしまいました。ついでに武蔵が上野で英雄しているし』


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1988年3月22日:河原湯温泉お別れ祭り


【岩櫃館:特別コース】


「こちらの本館貴賓室は河原湯温泉からの絶景が堪能できます。

 夕餉には戦国時代の大胡料理のフルコース、鮎の塩焼きや上州牛のしゃぶしゃぶを始めとした山の幸が堪能でき……。


 また夜には今夜限りの特設大画面に映し出される時代劇、あの有名な白沢映画【宮代武蔵】の上演が予定されております。


 ご存じの方も多いかと思いますが、ここから右手に見える武蔵山は以前、岩櫃山という名前で岩櫃城が建っておりました。


 しかし第1次対大胡包囲戦争の際、鳥居峠・万座峠から吾妻へ攻め込んできた上杉勢3000を僅か200の兵で防いだ事に因んで武蔵山と名付けられました。


 その時の戦いを後世……」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1559年5月上旬

 上野国吾妻岩櫃城

 宮代武蔵



 殿の親衛隊を離れて再びこの吾妻城の城代を任された。

 殿のお傍で警護に当たりたかった。殿も既に300万石に迫る大大名となった。

 三好と肩を並べる程になったはいいが敵も多い。


 今は四境戦争だ。

 東西南北を敵に囲まれている。


 仕方ない。


 北毛(北群馬)に越後勢が攻め込んでくること必定となった。

 こちらへ3000は来るらしい。鉄砲は100以下と素ッ破からの知らせ。

 それだけはありがたい。

 しかし敵の軍勢15000以上が沼田に来ることを想定し矢沢様は主力を沼田へ振り向けた。


 こちらは200しかいない。

 鉄砲と火薬はふんだんに揃えていただけただけでも良しとせねば。


 岩櫃城は吾妻渓谷から連なる狭い谷を一望できる。

 南の三の丸から吾妻川までは20町(約200m)。

 高低差を考えれば鉄砲にて敵に大損害を与えられる距離だ。

 上杉勢はこの岩櫃城を通らねば大胡まではいけぬ。


 幸いこの岩櫃城は断崖絶壁の上にある。

 登り口は南の一カ所のみ。


 それも三の丸に当たる狭い平坦な場所に出られるまでの細い道は、石や丸太を投げつけるにはもってこいの南面にある。


 勿論弓矢や鉄砲も当て放題。


 問題は鉄砲の射角が急斜面過ぎて俯角ふかくをとれないために風雨に弱い。

 そこだけが不安だ。


「おう、武蔵たけぞう。そろそろだんべか?」


 俺と同じく孤児で同期で親衛隊になった穀蔵院一政が隣に立って西を見つめて言った。


 此奴は最近大胡に来た前田利大様に腕を見込まれて養子となった槍の名手だ。

 この中隊の第1小隊長でもある。


「ああ。明日には来るだろうな。だが……」

「明日は雨だろう。土地のもんが言っとった」


 鉄砲は使いにくい。小雨程度で終わってくれればいいが。


「きっと小雨じゃ。この時期土砂降りは無かろう。鉄砲があればそうそう攻めてはこんだろう」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日


「誰が小雨と言ったんだぁ。大降りじゃねえか」


 三の丸の防壁守備している第1小隊の指揮を執りつつ、穀蔵院が顔を硝煙で真っ黒にしながら俺に愚痴を言ってきた。


「いやぁ。願望だよ。

 兎に角きちまったもんは仕方ねぇ。敵もこの坂道で足場が悪い。差し引き無しだ」


 鉄砲除けの常套手段である竹束を持っての登坂には雨でぬかるみ始めた坂道はきついであろう。

 それでも少しずつ近づいてきている。


 そろそろ白兵戦か。


 後藤様に言わせれば「野獣の時間」。

 伊勢守様は「静寂の輝き」。

 東雲様は「んなもん知るか。ただ敵をどう騙すかだろうが」とのこと。


 あの方々らしい。

 俺にとっては戦とは「何の時間」なんだ?


 あの方々にはとても及ばないが、俺たち孤児たちをここまで育て上げてくれた大胡の為、これからの日ノ本の為、皆が幸せに暮らせる【国家】というものを造るためならば石にかじりついてでも何でもやってやる!


 ◇ ◇ ◇ ◇


「来たぜ。大将! 

 彼奴ら、大筒まで持ちだしやがった。

 よく火縄が使えるなぁ」


 上杉も馬鹿ではない。

 大胡から供与された武器を使いこなしている。

 門が破壊された。

 さあ出番だ。

 

 地図です。

 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816927861246562411



 来た。

 もう飛び道具は来ない。


 破壊された門から入ってくる兵を睨みつけて名乗りを上げる。

 大胡では「名乗りを挙げちゃダメよん」と殿のお達し。


 だが俺と後藤様だけと言って許されている。


 殿は「それいいかも。どんどんやっちゃって、ふふふ」と、

 いつもの様に笑って許された。


 宮代武蔵と聞くたびに腹を抱えて笑っていらっしゃる。

 何が面白くてこのような名前を付けたのか。


 いつもの殿の不可思議さが少し不満に思える時もある。



「おいっ! 

 越後の田舎侍!

 大胡左中弁政賢の親衛隊副隊長!

 そしてこの岩櫃城城代、

 宮川村の武蔵が相手だ!


 首がいらん者はそこに並べろ。

 畑の肥やしにしてやる」


 敵は手槍のみか。

 十文字槍はいない。雑魚だな。


 5人程三の丸に入っていた。

 ここの虎口は2間の幅。

 2人が精いっぱいだ。


 二人で同時に突いてくる。

 俺は左に僅かに移動して躱す。


 馬鹿が。

 その程度の突き、蚊が飛んでいる程の早さだ。


 蚊や蠅を箸でつまむ訓練をした者にとってはどうということは無い。


 左手に持った小刀で槍を軽く右脇に向けてからするりと近づく。

 そして無造作に右手の太刀の真ん中程の刃をスッと首に擦りつける。簡単に頸部の動脈を切断する。


 その血しぶきを避けつつ、左の小力で槍を跳ね上げ右の雑兵に近づく。

 慌てて槍を向けようとするが「遅い」。


 太刀に脂が巻かないように切っ先を喉に突き刺す。


 先鋒を務めていた剛の者は先に弩弓で倒しておいたのか? 


 雑魚ばかりだ。


 次の10名程を倒してから、後ろの穀蔵院に声を掛け交代してもらう。


 もう刀に脂が巻いて来た。

 切れ味が悪い。



「足元が悪くなっている。気を付けろ」


 ここは細石さざれいしを敷いてあるから雨が降っていても足場は悪くない。

 だがあまり大太刀周りをすると、やはり下の地肌が出る。

 俺は浅い足運びだが彼奴らが石を蹴散らしてくれやがる。


 米倉の軒先で刃の手入れをする。甲冑にも当たっていないし骨も断っていない筈。

 刃こぼれはしていない。


 もしこの程度で刃こぼれをさせていたら伊勢守様は黙っていようが疋田先生の地獄の練習が……。


 ああ、あの頃が懐かしい。


 だが今はあの頃の練習場での訓練ではない。


 殺し合いだ。


 あの方達のような働きをせねば。



 ピカッ!!!!

 ごろごろごろ


 上州名物、雷が来たか。


 時折稲光が雨で薄暗くなっている三の丸を一瞬照らす。


 そろそろ、本降りか。

 時刻は未の刻(午後3時)を回った。かれこれ2刻は戦っている。ここの守備に当たっている第1中隊は第2に替えた。


 まだまだ戦える。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ウガァアッ」

「ウググ」

 しゅぱぁー

 バザリ


 味方の倒されている音か?

 虎口が突破されたらしい。石段を前面に矢盾を押し立てた雑兵が前進してきた。


 まさか分隊10名がやられたと? 


 雑兵が50人掛かりでも返り討ちにする新陰流の猛者が揃っているんだぞ?


 矢盾の向こうに長身の武者が居る。


 兜は被っていない。

 男前だな。


 そして返り血を浴びていない。


 強敵だ。

 此奴が第1分隊を殺ったのか?



 背に長大な太刀を差している。


 太刀を背にするとは何たる無謀。いや、あれは単なる替えの太刀。


 手にしている得物は……長巻か? 


 こんな手練れがあのような素人向けの……。


 気を付けねば。



「そこの男前。

 うちの部下が世話になったようだな。ここは俺が接待せねばな」


「無駄口の多い奴だな」


 無造作な言葉が返ってくる。

 奴はお師匠たちと同じにおいがするする。


 求道者だ。

 上杉の家臣ではあるまい。

 まあいい。



 他の敵は第2小隊に任せる。

 俺は細石に足跡を付けない程度のすり足で近寄る。


 長巻の間合いを測る。

 長巻は槍ほどではないが長い。


 1間(約2m)はあろう。

 主に斬撃用。


 あの狭い虎口でどう使ったのか?


 長巻を持っている右手の方向へ廻る。


 その場から動かないか。

 5間四方あるこの場の中央に居座り味方の兵を二の丸へ向かわせるか。


 俺は公方様の御前にて披露した時の対人の型を捨て、

 両刀を自然に前へ向けた。



 カッ!!!!!!!


 稲妻がすぐ近くに落ちた。


 その一瞬。

 敵が動いた。


 長巻を一瞬で左へ向けこちらへ刃を返して、小振りに首筋を狙ってきた。


 咄嗟に左手の小刀で払う。

 体が勝手に動き長巻の懐に入る。



 これで仕舞だ。右手の太刀で首を落とす。


 焦りがあった?

 少し大振りになった。

 強敵だと思ったからか?


 その一瞬で十分だったらしい。


 奴は長巻を捨て、腰を落とし肩と腰へ両腕を一瞬で移動させる。


 そして。


 両の手に小刀を手にしていた。


 その切っ先が既にその間合いに入っていた俺の首筋と脇腹へ延びてきた!


 背中の太刀は両の端に小刀を仕込んでいたのか!



 身体が勝手に動いた。

 首を狙った小刀をのけぞって躱し、脇腹の小刀は左手で逸らす。


 その後は立て続けの斬撃。

 太刀の出番がない。

 近すぎる。


 此奴も二刀流だったか。

 ぬかった。


 だが。


 面白え。


 俺の他には二刀流は使い手がいない。乱戦用に編み出したが、やはり個人での戦いもしたかったんだ。



 よう。

「相棒」

 一緒に楽しもうぜ。


 死の舞を踊ろうぜ。



 稲妻の光がこんなに美しいと思ったことはねえ。周りの死闘の音も聞こえねえ。


 ああ、これが殿の仰っていた「ぞおん」という奴か。



 どんどん動きが速くなる。

 此奴も同じだ。

 ずっとこうしていたい。


 だが、奴の速さが急に間延びして来た。


 何があった?

 右の太刀が頭を軽く打撃する。

 それで決まった。


 するりと小刀の間合いに入って左で右脇を払う。

 足を払い転がし太刀で首を刺した。



 納得がいかない。

 何故だ?


 近くで顔を見た。

 楽しそうな顔だった。

 しかし血の涙を流す程嬉しかったのか?



 ……そうか。

 細石の破片か。


 周りでは銃撃音もしている。

 二の丸からの第1小隊による射撃で破片が目に入ったのか。


 ここは戦場だ。

 道場ではない。

 改めて思い知った。


 どのような猛者でも何があるかわからない。

 そのギリギリを楽しむ。


 俺にとっての戦は

「至高」の時だ。


 そう思った瞬間であった。




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