【忍城・9】子狐、捕まる
1559年4月下旬
武蔵国忍城北方15町(1.5km)
甘粕景持
(柿崎景家と二枚看板の猛将だそうです。知恵もある)
流石は
普通なれば左翼1000という少数。罠だと恐れ襲わぬものを、湿地の様子を聞き通路となる平地が多い故に包囲しに来ると見切った。
そして儂の後備えに精強な兵を預けて、左翼後背に突出してきた敵を強襲する策を立てた。
惜しむらくは敵の中央突破を許し左翼が壊乱した。
これには中軍左翼が手当に向かっている。儂は兵1000を持って湿地へ逃げ込もうとしている約1000の騎馬を仕留める。
北で降ったらしい雨により既に荒川と利根川は増水し、その水が周囲の湿地を泥土に変えている。
もう騎馬では戦えぬ。
鉄砲も実力を発揮できぬ。
泥土上では連射は難しいと聞く。
となれば長柄を持っている我らが有利。
敵も手槍程度は持っていよう。だが大胡の竜騎兵と申したか、その甲冑は軽装だ。
木っ端みじんにしてくれる!
「物見、帰って参りました!」
「通せ!」
見つからぬよう背中の旗印を付けていない物見が膝をつき、息を整える間もなく報告する。
「前方3町で左右二股に通行可能な進路あり。敵は下馬してその双方に分かれ撤退中!」
右は西に逃れる道を発見したか。
南は……
多分荒川の飛び込み忍城を目指すか。
どちらを優先する?
儂ならば西に多数の残兵を向かわせ被害を減らす。
では
西の方が多いか?
「道に残っていた馬蹄の数は?」
「はっ! 西が断然多く!」
優秀な奴じゃ。
大声で褒める。
御本城さまの命は
『損害少なく劇的な勝利を』とのこと。
普通なれば無茶な命令であるがこの儂に託された。
光栄じゃ。
儂にならばできると。
損害が少なく劇的。
さすれば
「荒川で溺死させる!」
これならば大胡に屈辱を与えられ、流言の種になろう。
「荒川に追い詰められた大胡兵が多数討ち取られて遠く江戸湾まで流れていった」
と。
南へ向かった兵は半数といまい。精々300というところか。
最初の鉄砲を撃たせてしまえば怖くはない。
突撃で仕留められる。
西へは徒となった中軍の騎馬武者を向かわせる。
その後詰として200は要るであろう。
こちらから200手配。
残り800で南へ逃げた敵を全滅させる。
決まりだ。
「皆の者。南へ向かう! 大胡の兵どもの血で荒川を染めてやれ! 今後大胡の絹織物は赤色しか出来ぬであろうな!」
皆の鬨の声が静まると遠くの川の音が大きく聞こえ始めた気がした。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
その3町南
吾妻幸信
「第1分隊。両脇に大剣
第1小隊に指示を出していく。いよいよ
既に第4中隊300は南へ逃がした。第1中隊の残り3小隊も罠を張った後西へ逃がした。
逃がした部隊の資材は置いて行かせた。殊に大切なのは予備の長銃身の鉄砲。
これが狙撃に使える。
ここに残る第1小隊には全員に配れた。
残り数丁は逃がした兵の中で一番の狙撃手に持たせた。
網走だ。
奴なら10人以上倒せるだろう。
もしもの時の足止めが出来る。
あとは殿が名付けた大剣がどれだけ実践で使えるかだ。
殿、この命、預けたぜ。
もっとも入隊した時から預けっぱなしだがな。
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