★★最終局面だゾ★★
【業政】やっと虎になった!
1556年1月9日巳の刻(午前10時)
武蔵国品川湊御殿山山頂
長野業政
(暴走老人はコワイワー)
500は侵入してきたか。
東はこの御殿山で防ぐしか手は残っておらぬ。南は政輝の小僧に任せるしかあるまい。
大手門は……
たまに石礫が降ってきておる。
まだ飛砲が潰せぬか。
よじ登る敵を振り落とすので手いっぱいと見える。
大手門は死守せねばな。あそこを開け放たれればこの戦は落とすことになる。多くの虜囚が出よう。
東の攻め手の大将か?
吠えながら登ってくる。あれが原殿から聞いていた槍弾正・保科正俊だな。
「そこの
挑発などに乗るような青さは残っておらんわ。
「何をぬかす。この小童。もう腰が引けておるぞ。このような緩き坂でくたびれるとは何たるひ弱さ。首を上げられる前に甲斐の山に帰るが良い」
あ奴、簡単に挑発に乗っておる。幾ら槍の手練れでも体力の調節など出来ぬな、あれでは。
この周りには大胡の者が16名しかおらぬ。だが箕輪の精兵から選りすぐって連れてきた強者よ。そう簡単にはこの山は落ちぬぞ。
「まずは弩弓にて前列の敵を薙ぎ払う。その後長弓にて山の斜面を狙撃。儂の援護をせい」
その援護の下、あの吠えている猿に向かう。
……首を獲られるまでに、どれだけ大暴れできるかの。
ここが死に場所と決めた。
鬼神の如く暴れ狂ってやるわ!
そのまま冥途にて、悪鬼退治でもするか!!
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻同場所
保科正俊
(自棄になった老人に歯向かおうとする勇者)
斜面を転げ落ちる勢いがやっと弱まった。膝をつき、槍に身を預けるようにして立ち上がる。
敵の白髭の武将(長野業政か?)の槍から逃れるためにわざと態勢を崩して、坂を転がり落ちることで難を逃れた。
あ奴、槍の手練れじゃ。
儂よりもやりおる。
ここは安全策で包囲して周りから矢の雨を降らし、馬周りを討ち減らす。
じゃがあいつら、平気で飛んでくる矢を斬り伏せている。その後ろで長弓を射てくる者が、こちらへ損害を与え続けている。
どうする?
突入した400名の内半数は壁に沿って南へ向かい、搦め手門を開くように指示をした。
ここには200名。
大手門を目指すつもりじゃったが、ここであいつの首を獲れば敵の士気はぐんと落ちるじゃろう。
決めた。
やはりここは奴を討ち取る。
「馬周り6名は儂に続け。なんとしてでもあの爺の皴首、貰う! 続けっ!!」
矢の援護で、再び頂上へ登る。
皴首が目の前にいる。
「また来たか。小僧! 余程その首、儂に差し出したいと見える。かかってこい!」
高さの優位がある敵のどこを攻めればよい?
やはり足だな。
足腰が耄碌して居れば振り回した槍を当てれば転がると思うのじゃが、果たしてどうか。大体、当てるのも困難なほど儂の上半身を狙って突いてくる。
周りからの援護で気を逸らせるしかないが、これだけ接近していると矢は使えぬ。その分敵の馬周りも全て槍で応戦している。
皆手強い!
儂の馬廻りが槍で突かれて息絶えるか、けがを負い転げ落ちていく。後ろから続々と味方の新手が登ってくるが、あの敵に槍を突けられる猛者などいない。
敵の弱いところを衝くために指揮をしようにも、目の前の業政から目を離せば儂がやられる。
引くか。いや引けば此奴の餌食だ。今回こそ殺られる。
「ほれほれ。その程度か、槍弾正。もう投げ槍になっているか? これからは投げ槍弾正と名乗れ。ああ、無理か。ここで首を獲られるものにこれからもないの」
無視じゃ。
それより……投げ槍か。
これだ。
「最前列にいる者! 敵目掛けて槍を投げよ! その後後退。次の者が突入せよ!!」
一か八かだ。
多くの槍が外れるであろう。
じゃがこちらは数で10倍以上。敵武者の体勢を崩すだけでも良い。次から次へと繰り出せば必ず道は開ける!
やったぞ。敵の数、あと3名。近距離からの槍だ。逃げる事能わぬ。
あとはこの白髭爺を始末する。
「おりゃあ~! あとは貴様だけじゃ。包囲されて屍をさらすがいい。取り囲めぃ! 」
周りから一斉に槍を突きだす。しかし……槍一閃でその多くを振り払った。
だがな、もう隙だらけじゃ。
儂が止めを刺す。
2歩踏み込み、槍の間合いに入り渾身の突きを入れる。
なんと、此奴。
槍を捨てて太刀で儂の槍の柄を切り落とした!
そしてすっと近づいてきて大上段から儂の肩に斬りつける!!
己の血飛沫が舞う中で、髭爺の体に数本の槍が突き刺さるのを見た。
これが最後に見る風景か……
よいのぅ……
保科正俊。御殿山頂上にて戦死。
享年45歳
長野業政。御殿山にて戦死。
享年65歳
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻大手門矢倉
真田政綱
御殿山から勝鬨が上がった。業政様が討ち取られた? 搦め手門は潰走するのか? どうする??
「進言します。搦め手に指示を送り降伏させましょう。その後大手門は総予備を含め、この櫓付近に集結。最後まで死守して時間を稼ぎます」
副官の冬木梨花が俺に近寄り提案する。
「北側の守備兵は、こちらへ向かわせるのか?」
「はい。伝令を出し、できうる限りこちらへ向かわせます。しかしこちらへどの程度の数が集まるかどうか。多くの者が御殿山周辺に突撃する可能性があります」
業政殿の弔い合戦か。
この守備隊の多くが長野家からの抽出だ。命令違反も考えられる。
何か良い方法はないか。こちらへ向かわせるよい状況。こちらを守る必然性が。
「政綱様! 敵本陣に動きあり! 北へ向きを変えつつあります。
もしや……お味方の北からの攻撃? 助かった!!」
振り向いて北を見ると、そこには大胡の兵が整然と列をなし、銃撃をしつつ敵陣へ迫る光景が遠望できた。中心で騎乗する指揮官を望遠鏡で覗いてみる。
やはり来てくれた、大胡の狐。
東雲尚政。
俺の師匠だ!!
🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸
やはり郷土の英雄でしょう!
https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860667650160
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