【煙幕】正史と全く違う武将が出てきたんですが
1556年1月8日午の刻(午前12時)
武蔵国品川湊西方防壁
長野業政
(そろそろ引退を考え始めた老虎)
握り飯が旨い。防壁の上で早めの昼餉を取る。
上野では白米は贅沢品じゃ。戦場で食えるのは幸せじゃな。握り飯は熱いものよりも冷えた方が旨くなる。なぜかは知らぬがこの際好都合じゃ。人手が足りぬから朝炊いた時握った物じゃ。
仕方がないの。湊の民を逃がさねばならぬ。よって後方支援が間に合わぬ。
殿が戦を変えてしまわれた。戦は何よりも後方支援。これに尽きる。
継戦能力が勝敗を決める世になって来た。火器などの飛び道具の大量使用により膨大な補給品が必要になった。此度はそれが痛切に実感できた。
「よく覚えておけ。これからの戦。槍太刀弓矢はおろか、鉄砲大筒が戦を左右する時代ではない。敵の継戦能力を削り、味方のそれを維持することで勝敗が決まる。
今頃、其方の父上が敵の継戦能力を削り尽しているだろうて」
隣で握り飯を頬張っている若武者に声を掛ける。
真田政輝(正史では昌輝)。幸綱殿の次男坊じゃ。
儂の下で戦を学ばせてほしいと、初陣もまだの若者を押し付けられた。信頼されているという事は悪い気はせぬが、此奴、悉く異論をはさんできおる。
頭の回転は速いらしいし、肝も据わっている。
じゃが素直ではない。
此度も何度となく、
「危険じゃからついてくるな」
と命令したにもかかわらず、
「居ても立ってもいられませんでした」
とぬかして密かに付いてきおった。
真田家は大丈夫か?
長男次男がこの決死の戦場にて討ち死にでもしたら……
追い返そうとした矢先の武田襲来。
品川の民を避難させる時には、護衛をさせるべく命令をしたがこれまた無視。流石にぶん殴って小屋へ閉じ込めたが、既に戦況は1人でも戦力が欲しい程にまでなっておる。
「命令無視は厳罰。今度やったら銃殺に処す」
との条件で儂の側に立たせた。
「はい。戦う前から勝敗はほぼ決しています。そう殿も東雲様も親父様も仰っております。補給線が脆弱な方が負けます。つまりこの品川は……」
「死地じゃな」
後詰がなければ落城必死。城でもない砦に少し毛の生えた程度の防塞で、精強な武田の攻撃を受けるとなると厳しい。
武田は鉄砲の威力を削りに来た。
流石は城攻めの武田よ。
次は何をしてくる?
「業政様。敵は次に煙幕でも張ってくるのではないかと思いますが。俺ならそうします」
ほう。やはり頭は廻るの。
武勇に長けた兄と対になって戦えば、強力な備えが出来よう。兄には頭が上がらぬようじゃから、ちょうどよい。
「お前なら煙幕の対策は如何いたす」
政輝は腕を組み少し考えた後、ニヤリと笑い口角を上げた。悪戯を思いついたガキの顔じゃな。
「本当は撒き菱が良いと思うのですが、大胡ではご法度。しかし防壁があると面白いことが出来ます。
それは……」
東側防壁はこの策が行われた。
◇ ◇ ◇ ◇
同日未の刻(午後1時)
真田政輝
(全く正史とは性格が違う人です)
おおお、来た来た~。
武田の足軽は精強って言っているけど、これをどう受けるかな? 城攻めの経験も多いと言うが、こんなの見たことも聞いたこともないだろう。
武田の足軽が1間半(3m)の高さの防壁に、いくつもの梯子を掛けた。防壁の上には凸凹の狭間と、螺旋状の有刺鉄線が付けられている。兵が移動できるぎりぎりの通路が防壁の上を通っている。
これだけ作るのに半年しか掛からないなんて大胡の力は凄いな。この技術力が今後の戦を左右する事、段々と知れ渡るんだろうな。
「よしっ! 皆、竹の棒を繰り出せ!」
合図とともに大胡の兵が、即席の釣り竿のようなものを各所で垂らす。
竹の棒の先には針金。その先には印地打ち用の石が括り付けられている。
「それ。振り回せ~」
俺の合図でそれを左右に揺らす。たちまち梯子を上ってきていた敵兵が、腕で針金をよけようとして落ちていく。
地面に立っている兵も避けようとして、今まで下を向いて
「
弓や落下物を防ごうとしていた顔を上げた。
「じゃあ、ばら撒いてみようか!」
今度は手桶で用意しておいた浜の砂を撒いていく。下で石を避けようとあたふたして顔を上げてしまった兵の目に、しこたま砂が入っていく。
煙で何が起こっているかわからない敵兵が、次から次へと防壁の側に寄ってくるので、これにも印地打ちのために用意した紐と棒で遠心力を使い遠くへ砂をばら撒く。
多くの敵兵の目つぶしが出来た。目を洗い流す程の水は持っていないだろ?
当分戦力にならないな、あいつら。
どがががーーーーん!!
なんだなんだ?
壁に物が当たった音だ。
兵がざわつく。
業政様が大声で落ち着かせる。流石上野に黄斑あり、と言われる武将。直ぐに治まった。
既に1発上を飛び越していたらしい。
西か?
大筒を敵にとられたか。じゃ、法華宗徒の裏切りか?
総予備で迎え撃たねば。業政様が素早く指示を出す。だが予備の兵は真面な指揮官がいないんじゃねえか?
それじゃ俺が。
「業政様。俺が行きます」
そう言い残し、防壁から飛び降りる。あ、命令無視は銃殺だっけ?
ま、いっか。
このままじゃ銃殺される前に品川が落ちちまう。業政様の制止は聞こえないから命令無視にはならないだろ。御殿山の裾野を通り街並みというには狭い通路を走りぬけ、総予備の居る場所まで駆ける。
「指揮官は何処だ!? 業政様の命で指揮を継承する!」
嘘だよ。
だが指揮官はホッとした面持ちで継承を了承、引継ぎの文言を復唱する。
あれだな、無事に生きていたら銃殺もんだよ。でも今はこれが最善手の筈。この指揮官は単なる黒鍬衆の小頭だ。
戦力としては最低。これを敵に叩きつけるのは犬死だ。
「総予備隊! 傾注!! これより20人5組で横隊となり前進。敵へ並足で向かう。
横列の間隔は1間。
各自鉄砲の準備。
命令と共に1列目発射。
発射後はそこで弾込め。
その後……」
華蔵寺の授業で色々な先生にこの戦法が通用するか聞いてみたが、頭をかしげるばかりだった。
ただ一人。
東雲様だけが
「今度、やって見よう」と、
仰ってくれた。
まさか、こんなに早く自分で試すことが出来るとは!
周りから見ると自分は今、大はしゃぎしているガキの様に見えるんだろうな。
ま、いっか。
◇◇◇◇
作られた世界線
https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860666840107
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