【消耗】か、火薬がああああ
1556年1月上旬午の刻(午前11時)
武蔵国品川湊北西大手門城壁右矢倉上
真田政綱
(大胡品川駐屯兵団隊長)
「最前列中央の飛砲に着弾! 破壊を確認。左の飛砲に目標を移します」
俺の立っている場所の1間右で先ほどから火を噴いている3欣砲(12ポンド砲・コルベット艦の主砲程度)が、前方に並べ終わった武田方の飛砲1基を破壊した。
当てるまで5射かかった。
高々1町半(150m)程度の距離だが、まだまだ訓練の時間が少ないため、このくらいの距離になると丸弾では当てるのは厳しい。
那波の防御戦では10間(20m)程度まで引き付けての直接照準射撃であったから、それほどの訓練は要らなかった。しかも葡萄弾だったので外す心配はなかった。
問題なのは鉄砲と違って大筒は火薬消費量が100倍以上違う。大量に硝石を作っている大胡ですら、その消費についていけなくなっているのだ。なにせもう大筒だけでも200門以上保有しているのだ。訓練など真面にできよう筈がないさ。鉄砲隊も最近では十分な訓練が出来なくなりつつある。
先の領土拡張に伴い兵数も3倍以上に増えたから鉄砲の数もそれに合わせて多くなった。大体、それに合わせて増産できる大胡がすごすぎると冬木様が自慢していた。
とにかくだ。
今、大量の火薬を消費して飛砲を潰しているが、あの8基もある目標をつぶす頃には大筒用の火薬が無くなる。
「政綱様。防壁の狭間の状況、よくありません。敵の弩弓に狭間を狙われ次々と鉄砲上手が討ち取られております。このままでは夜になるまでに3割の射手を失う可能性が出てまいりました」
防壁を見回って戻ってきた副官の冬木梨花が様子を搔い摘んで報告した。実に的を得ている報告だな。数字まで出してくるから楽だ。
「狭間を塞ぐ工夫が間に合わなかったのが痛いな。今からでは間に合わんかな?」
今、武田方の最前線は防壁5間まで仕寄ってきている。鉄砲の当たり所によっては鉄張りの矢盾を射貫けるが、何か仕掛けがされたようで先ほどから殆ど射貫けなくなってきている。
それに対して、こちらの被害は増える一方だ。
つい1週間前、ここに配属されてきた箕輪の兵が
「この狭間は大きすぎる。少し狭くするために防盾を作るべき」
と進言してきた。
箕輪城では、そのような仕掛けが為されているという。
早速作ってみたが製作が間に合わなかった。数をそろえるまでに至っていない。
「職人を避難させておりますので量産は叶いません。ですが長持ちを分解した板材で下半分を塞ぐように勝手ながら指示をしてまいりました」
なんと手際の良い女子じゃ。
得難い副官だな。
部隊を率いたらどうじゃと、戯れで聞いたことがあるが
「まだまだ女子が指揮官では頼りなしと見る兵が多く、士気が上がりませぬ」
と言う。
よく分析していやがる。
自分の事も客観的に見ることが出来るのは凄いことだと親父が言っていた。
「とにかく火薬が無くなる前に、あの飛砲を全滅させることだけを考えねば、石の雨が降り続ける」
◇ ◇ ◇ ◇
「そのことなのですが、それが武田の罠なのではと考えました。戦闘の目標は防壁の破壊ではなく兵員の殺傷なのでは?
飛砲は囮。ここの地形からすればそれほど多くの石を集められるとは思えません。このまま飛砲潰しを続ければ、その間に更なる矢盾が防壁前に並べられてしまいます。そしてその後に……」
その後は言われなくともわかる。
梯子を懸けられるか鉤縄でよじ登られ、内部に侵入した敵兵が大手門を開けて本隊が突入してくる。
それはなんとしても避けねば!
「進言いたします。左右の直線的な防壁の下段狭間に配置されている射手の半数を後退。できる限り側撃できるこの櫓に集中。斜め上からの交互射撃にて、現在接近してきた矢盾に隠れている敵兵を殲滅するべきかと」
それがいいだろうな。
というかそれしかないだろう。
この平城とも言えない平地の砦ですらない拠点。もっと側撃が出来る狭間が欲しかった。それがあれば、これほど苦戦をしなくて済んだものを。
手間はかかったが、その後北大手門正面の武田方矢盾は殲滅できた。
「申し上げます! 東部戦線に異常ありっ!」
今度は搦め手か。大人しかったあっちも攻撃を開始したか?
「凄まじい数の竹束がこちらへ向かってまいります!」
「いくつだ!」
「それが……兎に角、凄まじゅう! 数えられませぬ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
同刻
搦め手門
長野業政
(白髭の大胡副将。急に品川防衛の長になってしまった)
大手門は真田の若武者に功を譲ったが、こっちが本命じゃったか。隙間がない程の竹束が仕寄ってくる。
2町まで寄ってきてからこちらへ配備されている3門の大筒が火を噴いているが、1発で一束倒す程度しかできぬ。物量で押しつぶす手に出たか。
鉄砲で射撃して弾けさせるにしても、その後ろに矢盾が準備してある可能性が大きい。大手門と違い飛砲がこちらにはないから兵の半数は防壁の上に上げているが、2間もない高さでは高さの優位は殆どない。
もっと側撃が出来る角度が欲しい。
「業政様。予備兵200を率いて参りました。これにて側撃を」
大手門から来た冬木梨花が、道定殿と連れ立って矢倉に登ってきた。道定殿は弾薬補給などの補給一切を差配していたが、いても立ってもいられなくなったのだろう。
「業政殿。これはまずいですな。弾薬の出し惜しみはできぬ状況かと。用意は出来ておりまするぞ」
心強い。
もう準備は出来ているか。
それでは全力で竹束と矢盾を吹き飛ばし、敵方の意図と共に士気を吹き飛ばしてやろうぞ!
◇◇◇◇
結局は化学的窒素固定法がないと火器の大量使用は……
https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860666341737
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