★★同盟しちゃうゾ?★★
【義龍】あの病気じゃないよ
1555年12月中旬
美濃国稲葉山城
永田生菊(大胡出身の医学フェチ)
「その方は名医と名高い甲斐の永田徳本の一番弟子と聞く。大胡左中弁殿も自らを猛毒から救い出したと太鼓判を押す名医とか。
儂の病をどう診る?」
上座に坐する、身の丈6尺5寸はあろうかという上背の武将が私に問いかける。
殿が一色(斎藤)義龍様との会談に同席する事を望まれた。しかし不可思議な事に(殿の事だからそれが普通であるが)、先にこう診察結果を言ってね、と言われた。
わざと誤診をせよと言うわけではないと言われてホッとしたが、やはり会わずにいてもその武将の病の様態をご存じであるとか、神のごとき慧眼であること、益々確信した。
この方は「知っている」のだ。
この世のこれから起こるであろう事、この世の不思議を。
でなければあのような顕微鏡でしか見つけられない細菌などを知っている筈はない。
「どうした。医者。この皮膚。
これはうつるのか?
奥も、死んだ長子も
同じように皴皴じゃ」
これか。
殿が仰られていた病態は。確かに
だが、
「恐れながら、お伺いいたします。手足に痺れなどは御座いますでしょうか? また、腰の痛みや物が見えにくいなどは御座いませぬか?」
殿の言われた質問をした。
「うむ。痺れはないが、よく腰や背中が痛くなる。これは秘密じゃが、目も最近見えにくい」
やはり、殿の言われたとおりだ。
「これは、癩病ではござりませぬ。従って周りのものにはうつりませぬ。尤も癩病も殆どうつることは御座いませぬ故」
「だが、奥は同じような様態じゃ。何故わが子と奥、そして儂のみこのような……」
威を張る体躯の立派な武将でも、やはり家族の事となると悲観に暮れるのであろう。
「それは申し上げにくいのですが、一色様の家族に代々伝わる病にて、偶に発現する物でござりまする。故に、無事に成長する者もおりまするが、体躯が大きな者、背が高く手足が長い者に多く見受けられる病でございまする」
「なんと! 我が子々孫々に仇名す病であると? ではなぜ、あの親父が病ではない??」
悔しそうに、本当に悔しそうに声を出す。人前で言うような弱気な言葉。でもそれだけ愕然としたのであろう。
「ではこれは治せぬのか? どうなのじゃ?? これからもこの痛みや見えにくい事が続くのか?」
「はい。ですが、それを遅らせる事。もしくはこれから起こるであろう重大な症状を予防することはできまする」
一色様は、身を乗り出すようにこちらを見ている。
「このままですと、心の臓が破裂いたします。殊に激しく体を動かす時が危険です。胸が苦しい思いをして死に至りまする。目に関しては残念ながら……」
暫しの間茫然としていた一色様であったが、怒り出すと思っていたが以外にも気が抜けたように萎え果てていく様が哀れを誘う。
「儂はあの親父に辛く当たられていた。それを見返そうと無理をした。そのせいかと思うていたが、生まれつきであったか……
奥の事も死んだ子も呪われていたのか? 正にあの糞親父の言う通りであるというのか? ……このままでは終われぬ。国を奪ってやることには変わらぬ。既に奴の命運は尽きた。家臣らも見放している。
大胡殿」
一色様は殿へ顔を向け、頭を下げた。
「左中弁殿。
同盟の件、よろしくお願いし申す。織田と5年間の期限を切った同盟。その間に墨俣に城を建て、濃尾の境、堅固な防壁を作り、竜興にこの美濃を渡そう。浅井との仲もさらに厚くするために新たなる姻戚関係を作ろう。嫡男の鬼夜叉丸殿に我が娘を……」
私は外交の事は全く分からないが、殿の思惑通りに事が運んだらしい。
その一助になれたのは喜ばしい事。
しかし。
私はこのまま甲斐にいてもよいのであろうか?
もっともっと、殿にお教え願いたいことが出来てしまった。帰ったら義父に相談してみよう。
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