【得失】しっかりしてよ御爺様

 1553年11月下旬

 厩橋の町南方5町

 長野道安

(謹厳実直だけが取り柄の政賢のお爺様)



 政賢からの使い番が伝えてきた、

「無条件開城・町引き渡し」

 を躊躇ちゅうちょしつつも受け入れ、北条方へ使者を送り南方へ退避した。


 壊されていく自分の城を見て憤懣ふんまんやるかたない。しかし、またすぐに取り返す。


 北対岸で先ほど鉄砲の連射音を聞き、砂埃の中での戦いを目にした。政賢が上手くやったようだ。


 これ程の戦上手は見たことも聞いたこともない。

 そのうち日ノ本中が

「張子房か諸葛孔明か?」

 と騒ぎ出すであろう。


 この後、政忠の討ち取られた、あの渡し場で決戦をする。その時まで儂は自分の城を南から睨みを利かせ、少しでも多くの北条の兵を拘束することだ。


 そして勝利の暁には……


「殿! 血まみれの使い番が。大胡の使い番のようです!」


「通せ」


「政賢様からの重要な伝言! グフッ……。お城の煙硝はすべて水を掛けて使えなくしてほしいとのこと、ウウ。くれぐれも……」


 ばたり、と倒れる。


 敵の物見にでも襲われたか。旧利根を必死で渡り、辿り着いたのであろう。体中の血が抜けたような青い顔をしている。


「すぐ介抱してやれ」


 しかし遅かった。

 すでに煙硝は敵の手に渡ったであろう。


 抜かったわ。


 まだ火薬の扱いに慣れていないなどとそのような言い訳、戦には通用せぬ。これは急いで政賢に知らせねば。儂は使い番を3人向かわせることとした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日

 厩橋城二の丸

 北条氏康

(大分お疲れの御様子な相模の獅子)



 側仕えを下がらせ、床にごろりと横になる。

 床几に座るのも辛い。横になったまま口に含んだ綿を出す。多分、益々頬がこけているであろう。


 しかし!


 最大の難所であった堅城厩橋城を手に入れた。もっと喜ばしいのは、火薬を大量に手に入れたことだ。これで飛砲カタパルトの威力が数倍となろう。


 あとは大胡城を吹き飛ばす。いや、その前にまだ川があるか。その渡河にも使えるであろう。


 まだ儂にも運が残っている。

 大胡を潰せば一息つける。儂はどうなるかしれぬが、3年は死を秘せば内政も落ち着き、長綱叔父に支えられあの頼りない氏政もやっていけるだろう。


 儂の近くにただ一人立っている「影武者」にだれも寄せ付けないように指示し、少しばかり眠りについた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日午の刻(午前11時)

 氏康の影武者

(臆病な田舎侍)



 氏康様が死んだようにお眠りになっている。

 寝る前に寝具を用意し、お使いになる様に申し上げると幽鬼のように寝具に横になった。この刻間まで横になったまま動かない。


 心配になった俺は側仕えに声をかけ、侍医を呼んだ。まだ確と息がある。もう少し休ませるほうが良いとのこと。今日一日、休ませると大道寺殿が決断し、明日に向けての準備を差配し始めた。


「その方はこれから殿の影として本陣に居よ。儂も殿として扱う。そのむね、確と心得よ」


 相模の地侍の一人だった俺が北条100万石のお殿様!?

 勤まるもんじゃあねぇ。


 しかしこれまで2年間、ずっと傍に仕えてきた。仕草、癖、言葉使いをじっくりと真似る時間はあった。


 だが心根は真似できる訳がない。

 戦の本陣でじっと座っているなど出来るのか?

 なんとか引っ込んでいられないか?


 明日は決戦場まで進軍するという。

 馬も乗るらしい。

 見破られないでいられるか心配だが。もし見破られても俺のせいじゃねえぞ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 大胡勢 備え戦力


 機動部隊

 総員2550


 後藤一番隊600

 是政二番隊600

 東雲三番隊300

 太田四番隊600

 佐竹鉄人隊200

 親衛隊100

 斬り込み隊100

 物見軽騎兵50


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 ゲーム理論って結構勉強しました

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860661449881


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