【漸減】地の利を生かそう
1553年11月下旬
上野国厩橋の町東方15町(1500m)
上泉秀胤
(お堅い参謀だが最近頭が少し柔らかくなってきた)
殿が本隊に合流する。
「殿~~~~~。よ”ぐぞごぶじで~~~!」
後藤殿が殿に抱き着き、その鍾馗髭で殿の顔をゴシゴシと擦っている。
皆が笑顔だ。
ただ一人、東雲殿が不愉快そうだが、妬いているのだろうか。
(作者注:妬いているのは確かだが、その立派な髭に妬いているのである!!)
「もうよしてよ~~イタイイタイ。だいじょぶだよ、伊勢ちゃんと親衛隊の子たちがついているから早々やられたりしないよん。で、たねちゃんお疲れ様~大変だったでしょ」
某は、自分の不甲斐なさと後悔を語ろうとしたが、
「それ後ね。これからの話をしよう! 甲一号作戦は失敗! 甲二号作戦始めるね。それでは解散……。おっと、信号係さんに手旗信号忘れないように言ってね~」
二号作戦は機動漸減作戦だ。
今回は最初から手旗信号を使う。先ほどのような無様なことのないように、信号は徹底して確実に命令を伝えねばならない。
「じゃあ、みなさ~ん、できるだけ多くの【武者】を倒しましょ~!」
各隊長はそれぞれの部隊へと戻っていった。
殿の周りには、
某と父、
政影殿と
信号係数名、
使い番数名。
周りは親衛隊50、
斬り込み隊100名が守備している。
松林に囲まれているが、部隊の配備最西端だ。
「後藤隊配置につきました!」
「東雲隊配置につきました!」
「是政隊配置につきました!」
「太田隊配置につきました!」
大胡勢の配備が完了する。
先ほどから厩橋城から大きな破壊音がしている。北条勢が「かたぱると」の狙いを厩橋城に定め、河原の丸石を投げ込んでいる。
そのため止む無く長野道安様の兵500は城を捨てた。
「お
「厩橋の町の東端、渡し場・河岸で徹底抗戦するとのこと」
「いあいあ。それまだ言っているの? ヤメレと伝えて。
無理せず氏康ちゃんに使者送って無血開城あんど町放棄。そうしないと乱取りされるよ。氏康ちゃんは厩橋の町が上げる収入が欲しいんだから、一時的に上げちゃえばいいのさっ! そう伝えてね。僕を信じてね、と」
使い番が返事をして立ち去る。
「あ。忘れていた。次の使い番さ~ん。付けたしね。城の煙硝は燃やしちゃって、必ずだよ。あ、やっぱ水かけるだけでいっか」
……どこまでを伝えればよくわからなかったようで、使い番は政影殿に確認していた。
「でわ~。作戦開始! 本隊前進せよ!!」
信号係が信号を送ったのを確認し、殿の斜め後ろに付き従う。反対側は父上だ。勿論殿は政影殿の背中の上。
ここは厩橋の町から東2里で大胡へ通ずる高速道。煉瓦を敷き詰めた幅2間のあまり起伏のない平坦な道だ。刈り入れの済んだ田と、葉を摘まれた桑畑が散在する平地を貫くように敷かれている。
桑畑は枝が
今では遥かに移動が楽になっている。
すぐ南には道に沿うように旧利根川、北4町に東西に延びる松林。松林の下生えは冬に向かい大分枯れ始めている。
その高速道上に本隊200は陣を張る。
およそ2町西には厩橋の町に入る渡し場だ。
北条の先陣が見えてきた。
およそ1000から1500。弓兵と大将を中心に、200程度の備えに分かれ、魚鱗に陣を組みつつ前進してくる。
こちらが政賢様の本陣と認識したらしい。道の上を南東に向かって接近してきた。次鋒がこちらの退路を断つためにそのまま東進していく。
殿の本陣以外は幟を立てない。
それにほぼ全員が合羽を纏っており、指揮する武者の兜はほとんど同じものを使っている。これがどの隊かの判別を困難にさせている。
殿はそのうち全員同じ装備をさせるというが……
ただし絶対に納得しない者が一人。
後藤殿だ。
意地でも着ないと言う。
殿も
「それはいいねぇ。いっぱい目立っちゃって。その代わりこれ着てね♪」
と、特注の甲冑を見せた。胴には薄いが鉄の板がついている。
「今度、ひだんけいしかく付けるね。どんな矢でも弾いちゃう~♪」
大分重くなるが後藤殿なら大丈夫だろうと。
一体、どういう身体をしているのだろうか?
「ほいじゃ、包囲される前に後退ね」
本陣は紡錘状に変化し、いまだ包囲されていない東へ向かって移動開始する。
高速道上を駆けるのだから非常に速く移動できるが、余裕を持っての移動だ。捕捉されない程度の速さで後退する。
遠矢が西の先鋒から撃たれ始める。
それを親衛隊が切り落としつつ後退。敵も罠と判り切っている本陣の行動に慎重についてくる。
敵先鋒が河岸を通り過ぎた直後、南の対岸から先鋒右翼に鉄砲の3連射がされた。
対岸に機動して隠れて布陣していた東雲隊からの100丁3連射が敵に降りかかった。
ただし一斉射撃とは言い難い散発した射撃だ。
東雲隊は鉄砲得手の狙撃手が多い。
全体射撃は是政隊ほどではないが、今回は最精鋭の斬首隊が配属されている。
これが狙い撃ちした独立射撃をしているのだ。見る見るうちに馬上の武将と徒武者が倒されていく。
北条先鋒は大幅に戦力を落としたであろう。
「お~け~お~け~。次は次鋒をやっちゃいましょ~♪」
長蛇の列にならないように調節をしながら東へと駆ける。しばらくすると左手北の林から、鬨の声が聞こえてきた。
あの大声は後藤殿。
後藤隊600が、地響きを立てる勢いで足踏みしている。
下には予め細かい砂が撒かれている。
元々砂が多くて耕地にできない土地で足踏みと同時に、格子に小さな杭を何本も付けたものを引き回す。
途端に砂埃が巻き起こる。
次鋒はその
たちまち砂埃に包まれた。
そこへ怒号を上げた後藤殿を先頭に、大胡の最精鋭600が側撃した。
土埃で目も開けられない状態で、風上から襲ってくる猛者共を前にしては、たとえ味方が数千いたとしてもこの突撃を防ぐこと、相当な戦上手でも出来まい。
急なこと故、指示などできぬ。
その間に後藤殿は敵陣中央を叩き潰すであろう。
たちまち次鋒1500は潰走した。
「じゃあ、そろそろお仁王ちゃんを
あ~楽しかった♪」
14000の兵を相手にした兵2200を率いる大将の言葉であろうか?
まったく、この殿はこの世を楽しんでいらっしゃる。
それでいてお味方の損害をほとんど出さない。
敵の兵は……
考えないでおこう。
🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸
地図ペタリ
https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816700429005969541
どの世界線でも此奴らが……
https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860661419768
西洋甲冑は弩弓のボルトの貫通を防ぐために避弾経始角を備え、弾性によって弾く造りになっているとか……
そのうちそんな感じになると思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます