【手旗】初期故障はデフォです

 1553年11月下旬

 上野国厩橋城北東5町(500m)

 上泉秀胤

(大胡の参謀。ちょっと自信がない若者)



 殿からの指示が無い。

 前方1町もない中州で巨大な何かが固定され始めた。何か途方もないことが起こる予感がする。


 既にここからでは竹束の山と矢盾により遮られ鉄砲による銃撃が出来ない。殿の予見した通り、竹束の防盾ぼうじゅんは銃撃では貫通不可能だ。100発以上当てて竹を弾けさせ破壊するしかない。


 あそこに並べられている矢盾は大胡でも使用されているが、所々を鉄で覆ったものだろう。重く鈍重で普通には持ち運べないが、支え棒などを使用して少しずつ前進させれば移動できる。


 その矢盾は既に中洲のこちら側の水際まで移動して来ていた。


 厩橋城からの銃撃が始まった。

 2町の距離があるので、斜め上からの射撃でも威力があるとは思えない。それでも、牽制のための射撃をするということは、相当な危険が迫っているということだ。


 後退の準備をさせるべきか?


 しかし信号は依然出されていない。重大な局面で某が決断せねばならなくなった。


 若輩者には荷が重い。胸がドキドキして、頭が働かない。目の前が真っ白になりそうだ。


 もう一度城の櫓を見る。

 殿の姿は見当たらない。


 殿ならばどうするだろう?


 そうか……

 殿はいつもこのような極限の状況で決断をなされていたのか。川越でも松山でも那波・館林でも。


 某はその決断を実施部隊に伝達をしていただけだ。それなのに皆、一端いっぱしの参謀になった、良い面構えの武将になったと褒めてくれた。


 今、某の顔はどのような色をしているだろうか?

 これを見ている皆はどう思うだろうか。


 いけない。

 殿になった気持ちで考えるのだ。


「ここは一時的な防衛線で~す。てきと~に敵に損害を与えればそれでおけ~♪ すぐに後退して次の作戦に移るのが吉。損害を抑えて最終決戦をしましょ~よ~」


 要約すれば、殿はこのようなことを仰っておられた。つまりこのような状況では後退の準備はしておくべきだ。


「使い番。各隊に連絡。後退準備。

 命令があり次第、すぐに第2線陣地まで後退できるように準備せよ」


 自分の決断がどのような結果をもたらすかは分からない。無駄に後退したことで、折角の地形的有利を捨ててしまうのかもしれない。

 だがもし、逆にあの巨大な兵器(!)がお味方に大損害を与えるような攻撃をして来たら?


 その時は殿の目論見を大幅に逸脱する。


 ……これでいいはずだ。

 直感を信じよう。


 迷った際には直感を信じて拙速でも行動しないといけないと、何かの戦術書に書いてあった。


「各隊。後退準備が出来ました!」


 また城の櫓を見る。


 !!??


 殿の姿の代わりに信号係が旗を振っているのが見えた。信号用の旗を持っていかなかったのか、何かの白い布で急遽作ったらしい。両方とも白いが左右がわかる距離だ。読むことはできる。


「きんきゅう。

 すぐにてったいせよ。

 だいにせんまでこうたい」


 やはり!

 次の信号からすると、殿はこちらへ向かっているらしい。


った……」


 指令を伝達しようとした某の口が固まった。


 5つの巨大な竹の腕が、こちらへ何かを放り投げてきた! 

 お味方第2部隊(是政隊)が配置されている自然堤防のあたりに5つとも落ちる。


 どど~~~~ん!!!!!!

 ボワッ!!


 爆発と共に火の手が上がる。

 当たり所が悪かったのか、数名の兵が吹き飛ばされ、または火だるまになる。2つは外れたが油が入っていたのか、周りに飛び散り火炎を撒き散らす。これを2回3回と食らえば士気旺盛な大胡勢でもたちまち壊乱する!


 ここはもう防御線としては機能しない。

 すぐさま撤退だ。


「撤退! 第2線まで後退。すぐに陣形を整えよ。負傷者は可能な限り連れていけ!」


 使い番が走る。

 まごまごしている暇はない。


 矢盾などは放棄だ。

 身軽に行動せねば。


 全部隊が予定よりも早く、そして撤退時に収容・破壊するはずの物資をそのままで後退していく。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 このチートがあまりいいのが思いつかず……

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860661291087

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る