【公園】研究学園町

 1553年10月上旬

 上野国華蔵寺公園

 原虎胤

(初代鬼美濃。その戦働き、鬼の様)



 この寺は本当に寺なのか? 

 はたまた城塞か?


 2重の堀と塀が張り巡らされている。城の二ノ丸に当たる部分が広く、各宗派の道場修練・説教場となっている。


 学問所もある。

 他にも周りの集落には、寺子屋と呼ばれる子供向けの学問所や僧房、その他いろいろな施設が集まっている。


 それぞれの規模は小さいものの、各種多様な施設が集まっている様は日ノ本広しと言えども中々お目に掛かれないものであろうか。


「ようこそおいで下さった。この施設はいかが見られたかな?」


 儂の前に座っている齢20手前の若き国衆、いやもう15万石を超えているそうじゃから立派な大名じゃな。その大胡政賢殿が儂に声を掛けてきた。


「はっ。誠に……珍しい様にて呆然といたしました」


「それだけではないであろうに。率直に申してほしい」


 政賢殿は、儂の見立てが知りたいようじゃな。

 儂を見定める気か。


 されば、


「相当な銭を使うておると見ました。大胡は豊かであると同時に懐が深い」


「その心は?」


「15万石では利きますまい。他に金の成る木があろうかと」


 ホウ、と政賢殿が顎をひねる。

 どうやら当たりじゃな。


「ところで晴信殿は、日蓮宗がお好きとのこと。其処許そこもとを追い出すほどなのかな。大功のある武将であると聞いておったが」


「某の信ずる法然様の教え。どの衆生もすべて同じ。助け合って生きていかねばならぬもの。敵を助けた某を、晴信様は良しとはされませなんだ」


 政賢殿はじっと、儂の顔を見ている。


 しばらくそうしてから、おもむろに相好を崩し、言った。


「じゃあ、うちにおいで~。うちはね、そんな人ばっかだよ~。僕も含めてみんな敵を助けちゃって苦労してるんだぁ~♪」


 急に態度が変わった政賢殿は、座ったまま飛び上がり儂の目の前に着地した。

 そして儂の手を取り、こう言った。


「この上野から始まって、日ノ本全体を極楽浄土にしたいのが僕のもくひょ~。だからね、それに反対する人を減らしていく。例えば大名、武将その他諸々には居なくなってもらう。けど殆どの百姓ひゃくせいには仏の様に手を差し伸べる! 

 これが大胡! 

 大胡政賢ですっ!!」


 これがこの方の魅力なのであろう。


 上田の豪族・真田が武田でなく大胡に臣従し、その伝手で憎しみに染まった強硬な佐久の衆を引き抜いたおかげで、易々と砥石城が落ちた。


 山本殿の話では、その真田の情報を元に北信濃の国衆を次々と寝返らせることに成功したという。


 山本殿は真田がそれを漏らした理由を儂だけに教えてくれた。それが今、政賢殿が仰ったこととそっくり同じじゃった。


 「日ノ本の全ての民が平和で豊かな暮らしを送れる」

 そんな時代を作っていく。


 これを高々1万石程度の国衆だった頃から目標に掲げていたという。そしてその階段を己が手で着々と作り上げ、昇って行こうとしている。


 信虎様とも晴信様とも違う

 ……いや全く別じゃ。


 多分、今川北条斎藤とも違う。みな自分の領国を増やすために富を蓄えている。


 この大胡はどうなのか?

 少し見てみとうなった。


 その時を見計らったかのように政賢殿は立ち上がり、手に取っていた儂の腕を引っ張り、こう言った。


「では、これから極楽浄土とは行かないまでも、住民が生き生きと明るく住まっている様を一緒に見学しに行こ~♪  楽しいよ。うひひ」


 突拍子もない、半ば道化のような仕草に隠された意図。


 人誑ひとたらしの業。


 その19にはとても見えぬ小さき体から周囲を巻き込む温かな何かを振り撒き、それが儂に絡みついてくるような感じを覚えたが、悪い気持ちにはならなんだ。


 己が人生の在り様。

 法然様の指し示す人生をここでならば歩んでいけるのでは、と儂は感じていた。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 公園って、遊園地の事ではなく

「公の園=場所」イメージ的にはアカデメイアです

 リアルの遊園地とは違います笑

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860636946661

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