【猛犬】ふ、二人掛かりとは卑怯なり!!

 1551年9月中旬酉の刻(午後5時)

 北条綱成(危うし!北条の希望の星!)



 重い!


 一つ一つの打撃が岩の様じゃ。

 儂も並みの武将相手なら瞬時に吹き飛ばせる力はあるが、

 こいつは……


 細い木などその槍の一振りでへし折るくらいの力があるのか?? 身体も儂よりも一回りは太く厚い。


 いかぬ。


 槍を持つ儂の手が痺れだした。あの朱槍は中に鉄でも入っているのか?

 見ていられなくなったのか、供回りの者が槍を付けるも即座に槍で斬り伏せられた。


 槍の使い方もうまい。


 割って入った供回りは己が身体に敵の武者が持つ槍を突き立たせ、手放させようとしたがそれを悟ったらしい。


「殿! 後ろへ引きなされ!!

 ここは某らが!!

 大将は生き残らねば!!」


 薄闇の中で崩れゆく先鋒の姿が見える。目を逸らした隙に敵の朱槍が頭のあった所を薙ぎ払った。


 ここは退くか。

 退却の合図をしようとしたちょうどその時。左足の膝裏に鋭い痛みが走る。

 思わず足元に目を向けると、黒犬が牙をむいていた!?


 こいつも敵の犬か!?

 噂に聞く太田の犬かもしれぬ。


 石突きで追い払うも、その隙を相手が見逃すはずもない。


 ゴォン!


 という音とともに、儂の手から槍が吹き飛ばされた。


「殿、御免!」


 儂の体に体当たりをした側近が敵武者との間に入る。


 その隙に後退。

 玉縄衆に引けの合図を送る。


「逃げるか~? 

 地黄八幡! 首だけはおいてけぇ~い!!」


 側近の者は豪の者が揃っている。

 その者たちを犠牲にして後退する。


 が、左足がいう事を効かぬ。

 足を引きずりながら20間(40m)ほど後ろにいるはずの中備えへ向けて歩く。


「足が痛むのか?」


 にしから声を掛けられた。

 戦場いくさばらしくない落ち着いた声。


「槍も失くしたか? では拙者も太刀のみで試合おう」


 その人影は持っていた槍を横に置いた。


 何をする?


 その武者は6尺ある儂よりも上背は少なく体も瘦せ身だが、すごい威圧感だ。

 体が後ろへ押しやられそうだ。


 スッと近づいてくる。

 儂も愛用の大太刀を抜き放った。


「何奴!?」


「大胡政賢家臣。上泉伊勢守信綱。北条綱成どのの首、頂戴いたす」


 儂は抜いた3尺余りの大太刀を抜きざまに横に薙ぎ払う。


 太刀は右へと「飛んだ」??

 儂の右腕が柄を握ったまま!!


 目の前が赤く染まるが、もう首筋に敵の太刀が迫ってくる気配がする。

 左手でその刃を掴んで抗う。


 しかし敵の右手が切っ先を首へと押し込んでいった。




「地黄八幡、北条綱成が首! 上泉信綱が討ち取った!! 我が方の勝戦かちいくさじゃ!!!!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同日酉の刻(午後6時)

 上泉秀胤(あまりにも強すぎる父を持ったが故の参謀への転身でした)



 周りが墨を流したように徐々に闇へと変わっていく。

 その薄暗い戦場の中、父の大声が聞こえた。


 「地黄八幡の首! 討ち取った!!」


 何度も叫んでいる。


 あの静かな闘気を纏った普段の父からは感じられない咆哮!

 殿が来てから父は明るくなるとともに明らかに戦を己の道として極めて行く姿を見ていたが、ここまでの気迫、初めて体感する。


「やったね、伊勢ちゃん。たねちゃんのおとやんもやるねぇ~。やはり剣聖だぁ~♪ お仁王と2人でつーとっぷ!」


 それもすべては2名を、そこへたどり着かせる作戦を練った殿の頭があってこそだ。


「夜戦は、やらせんぞ~♪ たねちゃん、撤収よろしく~。仮陣地できてるかなぁ」


 佐竹殿が4刻かけて簡易ではあるが阻塞そさいを作っていた。主に地面に杭を3間程度の間を開けて打ち付け、その間を鉄の針金で結びつける。


 高さは腰の高さと1尺余りの高さ。長柄足軽はまず通れない。これを赤岩の渡し場の周り東西を中心に張りつめた。


 北は馬出しの様に、後藤殿と父の部隊が突出するために開いている。その中に矢盾を廻らして矢合わせに対応している。


 ここへ後藤隊・佐竹隊・上泉隊、600が入り守備する。夜戦でもまずは混乱せずに堅固に守れるはずだ。夜が明けるまでに、陣の外で起こることを予想してその後の対応を練ろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日巳の刻(午前10時)

 上野国新田金山城下(現太田市)

 矢沢綱頼(何が何やらわからないけれど、大胡Tueee!だという事が分かった人)



 由良勢・佐野勢・太田勢そしてわが大胡勢。

 この本隊のみがここに集結している。


 他の部隊は各地に散らばり、北条方の残敵を掃討している。


 川俣から上流には使える渡し舟はない。北条の兵はもう逃げ場がない。現在、城に入城せずに陣幕を張り、その中で4名の大将が2名の配下と共に座っている。



「婿殿! 良き働き、感謝いたす! 楓もよい武人のもとに嫁げて喜んでいよう!」


 由良殿が手を叩いて喜んでいる。

 佐野殿も目が優しい。


「勿体なきお言葉、かたじけなく。それにしても皆様方、機を見るに敏。撤退する北条勢の尻を、見事に蹴っ飛ばしてくださった。お蔭で生きておりまする。太田殿、感謝いたす」


 殿は太田殿に頭を下げる。


「何をおっしゃる。敵殿軍しんがりは大胡勢の種子島の横槍で潰走したようなもの。こちらこそ感謝いたす。それにしてもあの種子島の数、落雷がいくつも落ちたときのような衝撃がありまするな。あれは自分では喰らいたくはありませぬ」


 太田殿は剽軽な身振り手振りで、種子島を撃つ真似などをして殿をおだてている。


「由良の義父上も種子島が好きであるとのこと。太田殿もご興味がおありですかな? 使われまするか?」


「それはもう! あれは病みつきになりそうじゃ。じゃが目の玉が飛び出るくらい高いそうな。火薬もたくさんなければ訓練などできますまい。ましてや儂は今、宿無しじゃ。宝の持ち腐れになるのう」


 にこにこして太田殿を見ていた殿の目が光る。


「種子島の兵。

 欲しいですかな?」


「……欲しいですな」


 太田殿が犬歯を見せてにやりと笑う。

 獰猛な犬のようじゃな。


 先ほど見せてもろうた黒犬の飼い主だけある。後藤殿の隊の者から聞いた話では、その犬が綱成の足に噛みついていたという。


「上げると言ったらどうします?」


「欲しいですなぁ」


「大胡へ来ます? お犬ちゃん連れて。犬の放牧場も作っちゃうよ」


「!!行き申すっ!!!!」


 獰猛な犬が可愛く吠えた。

 それを聞いた殿が立ち上がり、右手の拳を握り叫んだ。


「えすあーる武将、↓おっもちかえりぃ↑~~~~♪」


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 やはり異なる世界線でもモフは需要があるのか?

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860636367901

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