【智円】やっぱ外交僧必要だよね

 時は遡る

 1548年5月上旬

 上野国新田にった金山城かなやまじょう(現太田市)

 由良(横瀬)成繁(野望高い系の戦国大名)



「成繁様におかれては、晴れて新田郡の太守になられましたこと、御目出とうござりまする。我が主、大胡松風丸に成り代わり、ご挨拶に伺いました」


 目の前の坊主が仰々しく言いおった。


 前に置かれている種子島がその手土産だという。

 儂が1丁持っており、好んで射撃などをしていることを知っているらしい。先月、横瀬の奴らを追い出し、由良を名乗ってから最初に使者を送って寄こしたのも感心じゃ。


「大胡と言えば、先代をどこぞの武将に討たれたと聞く。その恨みなどはお忘れなのかの?」


 それは儂じゃ。


 大胡に横槍を入れて拘束してやった。

 しかしあの備えは堅かったの。

 上泉と言ったか。


「是。どこぞの遠国とつくにの出来事であったか忘れたと申しておりました」


 14の小僧が考えた言い回しではないわい。

 この坊主、外交僧に使えるの。

 面の皮が厚いわ。


「智円と申したか? して、此度の用向きは何かな」


「然れば、赤石城跡に砦を作りたく、ご了解をいただきたしと申しておりました」


「?この種子島1丁にて、城一つと交換とは物知らずな主従じゃの」


 まさかそうではあるまい。さて、何を持ち出してくるか。


「由良様の領地は新田にったを手中に収めておりまするな。そして利根川の本条から下流は、行田まで支配しておられまする。そこで働く河船衆も」


「それが如何した?」


「そこを通る大胡の荷が、どの程度の数であるかはご存じでありましょうや?」


 大層な銭が流れているのは知っておるが、手を出せばこちらが利根川を使えなくなるわ。商人も河船衆も敵に回したら、えらいことになる。


「殿はそこを通る舟1艘に付き、500文を献上する用意がござる」


 関を作ってよいという事か。

 1艘500文とは、少ないと取るか多いと取るか。つい最近までは毎日10艘は行き来して居ったから、毎日5貫文、月で150貫じゃ。


 これは旨すぎるの。なにか裏が……


 ああ、那波か。

 今、桃ノ木川が那波によって川止めされておると聞く。

 これへの対抗か。

 それで赤石を取ることで……攻めるか。


 大胡は苦しいの。だからこのような旨い話を持ってきたか。


「それはあまりにも条件が良すぎるのではないか?」


「是。しかし殿のおっしゃられることには、これにて由良殿は同盟を結んでくださると」


 何を言うておる。

 それほど同盟とは簡単なものではないわい。双方が利益を、殊に攻守を共にすることになる。敵が同一でなければならぬ。


 儂に完全に北条と敵対せよと申すか、

 痴れ者が。


 何の得がある。


「大胡がここ6年の間に大きな発展を遂げたのはご存じでございましょう。軍備も現在1100まで増やし申した。今後さらに増やし申す。十分に攻守同盟が結べる大きさ。あとは利で結びつく事。由良様の新田にったは今後何をお望みか? 

 単なる生き残りであるとは思えませぬ」


 また大きく出たな。

 現在4万石を超えていると。そしてこれからもっと増える。

 つまり那波を食うか。さすれば同盟することで、西上野から東上野に懸けての一大勢力になると。


 まあ、悪くないの。

 由良の8万石と合わせ15万石以上。

 兵3500は堅い。防ぐ戦いならば8000は出せるか。


 うまく戦えば利根川が自然の防壁となり、北条に手を出せぬようになると。

 西下野の佐野と結べば揚々負けぬわ。


「……それで、大胡は今後、どこへ向かうかの? 平井の御仁をどうなさる?」


「それは由良様のご返答次第」


 なかなか、尻尾は出さぬか。

 まあ良いわ。

 大胡の生死を握った状態で同盟するのも悪くはない。


 儂は返答の為、口を開いた。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 智円は裏設定でボケていますが、まともな(相当)実力を持つ外交僧です。



 此奴が教科書に載ったら臍で茶を沸かしてやる!

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860633539872


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