【発射】大躍進の号砲です!

 1547年9月上旬

 上野国華蔵寺西工業集落

 冬木元頼

(この人の家系は財閥になっちゃうのかぁ。やっぱ努力と運次第だね)



 初めての煙硝が運び込まれる。

 殿が入城してより5年。最初に始めたのが、厠の増設であった。牛馬の糞尿も大事だが、まずは人尿だとか。殿は青い顔をしながら厠の製作を指揮していた。


 以前、厠で怖い思いをしたせいであると苦笑いして、


 「でもこれ一番大事~」

 と必死で作業を指示していた。


 大事なのは尿だと言い、それを溜める桶を大量に作った。あとはヨモギの葉と蚕糞の回収。蚕は沢山飼っているので問題ない。


 これを専用の「公衆便所」の軒下に、穴を掘り層になるように埋めていくのだ。夏には掘り返しかき混ぜる。その繰り返しでようやっと今年初めての煙硝ができた。


 それに間に合わせるようにと、皆が汗を搔き掻き種子島を作り上げた。種子島そのものは既に2丁、堺から取り寄せてあった。


 問題はどのように大量生産をするかであった。


 昨年末、初めての高炉が稼働し、銑鉄を鋳型に流し込んで鉄材が作れるようになった。反射炉も稼働したので、様々な形の良質な鉄製品も作れる。


 しかし、そこからが難問であった。用意した轆轤式の旋盤がうまく作動しない。


 銃身に使う空洞の鉄棒の内部をなだらかにするためのやすりの歯がすぐにすり減ってしまうのだ。


 この改良に半年かかった。

 とある職人が「油を付ける」ことを思いつかなければ、もっと時間がかかっていただろう。


 とにかく、間に合った完成品は元の種子島とはかけ離れた形をしていた。


 まずは銃身の下にある木製の部品が小さい。これは銃身の強度が増していることで為しえた。


 また、そこに収めるカルカ(弾込めに使う棒)を、木製から青銅製に変えたことにより強度が増し、以前の種子島が勢いよく火薬を詰めるとカルカが折れて使用不能になるという事もなくなった。


 最大の違いは銃床である。

 種子島はその保持に右手にて銃尾を顎に押し付け固定していたが、これは肩で固定できるので狙いが付けやすくなった。


 更に狙いを付ける照星と照門。

 この凹凸の目印に合わせれば簡単に狙える。


 まだまだ細かいところは粗削りで完成とはいいがたい。


 特にまだ真っ直ぐ飛ぶ物が半分にも満たない。これから改良せねばならぬ。


 これらの事は大半が殿の仰せに従い工作したものであるが、至る所に職人たちの工夫がなされていた。それを見て大喜びの殿を見て我々も顔を綻ばせ、皆で一体感を感じたものだ。



 さて、これから目の前で、選ばれた撃ち手が構えて発射の時を待っている。


 殿の号令だ。


「あ~ゆ~れでぃ~?? 

 ふぁいえる!!!!」


 遂に5年間の苦労が、轟音とともに発射された。




 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸



 きっとこうなるんじゃあないかの世界線。この人頑張ってるし。

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860633204992


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