【孤児2】平助

 1546年4月下旬

 華蔵寺公園訓練所

 平助

(剣の才能と男気があるリーダー格の青年。後に剣豪のような名前を付けられて遊ばれる)



「それまでっ!」


 疋田先生が稽古終了を告げる。


 皆、尻もちをついて、ぜえぜえ浅い息をしている。

 毎日の事だが、疋田先生のしごきはきつい。


 最後は4名の訓練生が束になって、掛かるのだが袋竹刀すべて空を切り、体のどこかしらに疋田先生の袋竹刀が叩き込まれる。


 だが、その疋田先生も、上泉様の前では赤子同然だそうだ。どれだけ上泉様は強いのだろう? 

 いつも見て見たいと思うが、まだ早いとの一言。


「明日から私は御用にて当分相手ができない。よってこれから伊勢守様の剣技を見せていただく。しっかり心に刻むように」


 おおっ! 

 と、皆、喜びの声を上げる。俺もうれしいが、それよりも明日から訓練ができない? だが御用とは?


「訓練はこれから伊勢守様より指針を示していただく。それを自分なりに考え実行に移すように」


 訓練についてはこれから楽しみだという事はわかった。しかし、明日から何があるのだろう?


「疋田先生。明日から何があるのでしょうか?」


 思い切って聞いてみた。


「……貴様らは大胡に絶対の忠誠を誓うものであるな?」


 はいっ!

 と、いつもの数倍の大きな声を皆発する。


「よし、こちらに近寄れ。実はな、これから出陣なのだ。松風様の初陣だ。周到な準備をせねばならぬ」


 !!!!

 松風様の初陣!


 我らの恩人、神にも近しいお方。

 その晴れの舞台。

 雄姿を見たい。

 お守りしたい。

 その一手となりたい。


「某。必ずや殿のお役に立ちます。お傍に!」


 某も某も、と声は続く。

 だが、


「控えよ! 私に向かい4人がかりで一筋も太刀を入れられん奴らを連れてはいけぬ」


 皆、何も言い返せない。

 でもそれは先生が強すぎるせいで……


「先生! 命に代えてでも殿をお守りいたす所存。ですからこの身はどうなっても構いませぬ。連れていってくださいますよう、殿に!」


 皆口々に粘るが先生は相手にせず、身なりを整えていた。

 するとそこへ遠くから、大きい、そして底抜けに明るい声が聞こえてきた。

 

 殿だ。

 聞き間違えることなどあり得ない


「やっほ~。みんな、げんき~~?

 上泉大大大先生を連れてきたよ~。

 皆で剣を教えてもらお~よ~。ワクワク!」


 ここにいる訓練生は皆、賢祥様に助けられ、ここ大胡の龍造寺や公園で過ごす者たちだ。


 いつかはこの身で恩返しをと思っている者しかここにはいない。


 武術は疋田先生、読み書きは賢祥様のご子息賢慮様が、算術はたまに瀬川様が見てくださっている。


 そのうち戦の事についても先生を用意してくださるとのこと。


 殿の後ろから、気配を絶つような歩き方で付いてくる上泉様。これから武技を見せていただけるという。


「まずは今からやることができる人は、無条件で召し抱えちゃうからよ~く見ていてね~」


 おお、と、歓声を上げる皆。そんなに簡単ではないことはわかるが、何をするのだろう? 


 すると殿の後ろから付いてきていた弓兵が5名。上泉様から5間の所に並び、構えている。驚く暇もなく、殿の声が聞こえる。


「じゃ、いっつしょーたぁーいむ! がんがんいきましょ~」


 長弓の連射が上泉様に飛ぶ。

 どれも正確に狙いがつけられている。


 危険だ! 危ない!


 しかし! 

 当たらない? 


 5本中1本程度は太刀で払い落すが、見切っているようだ! 


 3連射が終わった。

 訓練生が固まっている姿へ向けて、殿が声を掛けてくださる。


「これからね。

 結構危険な戦に出るかもしれないんだ~。だからね、みんなには死んでほしくないの。まだ自分の事自分で守れないでしょ?

 今回の出陣、最後の切り札伊勢ちゃんの率いる部隊なんだ。今みたいに矢を防ぎながら突進するの。

 できれば……」


 殿の次の言葉が俺たち訓練生の心を掴む。


「あと5年、いや3年?で、できるようになってよ。そして僕の切り札になってほしいんだ。そのくらいになればそう簡単には死ななくなると思うよん、多分。

 だよね伊勢ちゃん♪」


 上泉様は頷く。


「待ってるよ。

 親衛隊ガーズ(注)諸君! 

 戦場で会おう!!」



 俺たちは、この日、本当に自分の血潮を捧げることを誓った。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 この世界線の日本ってどんな世界なんだ??

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/ep


 注)英語でガーズというとナポレオンの近衛兵を指す場合が多い。オールドガーズ(古参近衛兵)は最後まで付き従った。「1814年4月20日、フォンテーヌブローへのお別れ」という絵画が有名です。



 ランペルールというゲームが好きでした。





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