【崩壊】首取ったよ。ついでに城も

 1548年8月30日未の刻(午後1時30分)

 上野国赤石砦南部正面

 後藤透徹(単なる猪武者だったりします)



 このままじゃいかんわい。

 どうすればいいんじゃ?


「旦那。方陣です」


 官兵衛が後ろから言ってよこす。

 そうじゃった。

 態勢が悪くなったら四角い陣を作れと狐の奴と、信州者に教わったんじゃい。


「野郎ども! 

 方陣じゃ! 

 周りに槍衾!! 

 急げ~~~ぃ!!」


 まだ皆足はしっかりしている。

 いける。

 方陣で休める者は内に入って休む。

 3間半の長柄の石突を足で踏み、槍衾を作る。


 右の新手からもう弓が飛んでくる。

 700もいるか。

 こちらはもう200を切りそうじゃ。敵の海に飲まれるか、その前に針山になって倒れるか?


「旦那! 砦の馬出しに動きあり! 来ますっ! 鉄人隊です!!」


 やっと殿が切り札を切ったか!

 頼んだぞ、流れ者ども!!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同日同刻

 南門馬出し

 佐竹義厚

(おっかなびっくりやっている割には敵にすごく恐れられています)



「あっちゃん。出番だね~。ガンガン行っちゃいましょ~♪  fight fight!!」


 殿さんが飛び上がってはしゃいでいる。

 この戦、どう見ても危ないのになぁ。


 そんなに楽しいかい? おいらはもう、びくびくもんじゃ。


「じゃあ、出番だから皆。盃一気飲み~。あ~グビッとな」


 皆、手に持った盃の焼酎を飲みほした。かっ、と、腹が熱くなる。

 この隊は一直線に進むだけ。後はもう知らん。だから半刻持てばいい、と、殿さんは言うておる。

 「最初の突入の衝撃が大事」とのこと。


「じゃあ、あの新手を真っ二つにしちゃいましょ~。よろしく~♪」


 おいらたちは、馬出しを出て隊列を組む。

 鋒矢の陣の変形版と言っちょった。

 三角の陣形だな。


「それじゃ。いくんべぇ! ときの声は、突入直前な」


 そして静々と前進を開始する。

 大盾で足元が見えんので、できるだけももを上げて歩く。


 歩きにくいのぅ。

 じゃが安全なのはうれしいぞい。


 敵が気付いて陣が少し変形したようじゃが関係ない。

 ただ突き進むだけじゃい!




 地図です

 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816927861987584040


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同日同刻

 赤石砦南西2町(200m)

 戸田頼母(やっと復讐できそうになったんだけどねぇ)



 あいつだ!

 あの大盾をかざして突っ込んでくる部隊。


 長柄では抗しえない。弓で牽制し、左右から囲むしかない。少し遠いが弓で牽制する。うまくいけばこれだけで大損害を与えられるだろう。


「弓兵! 火矢を射かけよ!!」


 弓兵があらかじめ油壷に浸していた火矢に火をつけ、1町先の大盾の備えに向けて放つ。


 当たれば燃えるはず。


 手前に落ちた。

 まだ遠いか。

 では征矢そやだ。


征矢そやで2射!」


 足に当たれば脱落する。

 あれだけ重そうな甲冑を着ているのだ。

 足に矢が当たりかすり傷でもまずは前には進めぬ。


 敵備えに400の矢が雨の様に降り注ぐ。


 しかし!

 ことごとくはじき返された……だと!?


 思えば以前と色が違う。

 全身真っ黒だ。

 体躯も大きいものが増えている。

 人数も増えている。

 200はいるか。


 もしや、あの甲冑は鉄で覆われているのか??

 すると火矢も利かぬ!


 もう左右から囲むしかないが……

 先行している右翼は、既に敵主力と干戈を交え始めた。


 中央の儂の備え250と増強された垪和殿の兵250で支え、遅れている左翼を左から包囲、横槍をつける。


 これだけで間に合うか??

 無理だ。

 あいつらは松山で5倍の我が方を混乱無力化させている。


 既に以前戦った兵が委縮し始めた。


 その時、前方の奴らから鬨の声が。


「うおおおおおおおお」


「首要らん奴はそのままで居れぇ~~~! 待っておれよぉ~~~!!!!」


 いかぬ。

 兵が1人逃げた。

 1人2人と増えていく。

 恐慌が伝染する。

 もう立て直しは無理じゃろう。


 儂も逃げるため馬首を回した。




 戦力比

 赤石砦南西正面戦力比

 200vs700

 戦闘後

 200vs300


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同日同刻

 赤石砦東部正面

 大胡是政

(今回は釣り名人です)



 敵後備え500が釣れた。もうこちらは戦闘はできぬ。腕がぶるぶると震えている。長柄はもう振るえない。


 やっと走っているが、古参で5年・新兵でも1年もの間、殿曰く「まらそん」の訓練をしてきた。

 走るだけならまだいける。


 途中まで敵本陣を目指し駆けたが後備えがこちらに振り向けられ、1町余りまで近づいた時を狙い、進路を南東に変え駆け出した。


 敵は矢が少ないのか、射てこない。

 これは助かる。殿の作戦がまんまと当たったらしい。


「最初に矢を全部使わせること~」


 そして機動で敵を混乱させる。

 今や、敵の本陣は800も残っていないのではないか?


 もう約束の刻限だ。

 南に目を向けると、そこには黒煙が上がっていた。

 やったな、狐殿。

 だがそれももう無意味なのか?


 あとは……



 東部正面戦力比

 500vs500

 敵500、遊兵化。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同日同刻

 垪和勢本陣

 垪和左衛門太夫(あと一息なんだけど戦機を……)



 くぅ。

 もうまともに戦える戦力は儂の本陣700しか残っておらぬ。


 しかし、敵の戦力ももう枯渇している。目の前で、敵主力残存兵力200が左翼の一部300と死闘を繰り広げている。

 ここをたたけば、やはり仕舞じゃ。


 前進の法螺貝を鳴らそうとした。

 総掛かりじゃ。


 その時!


「殿~~~~後ろに騎馬多数ぅ!!!!」



 どががががが~~~ん!!

 ずがああああん!!!!



 後ろで落雷の様な大きさの音が何度もした。


 振り返ると……


 200以上の騎馬が、我が本陣の廻りを包囲するように駆け抜けていった。時折、何かをこちらに放り投げる。


 それが爆発している!


「おぬしらの退路はたった!!

 もう負けじゃい。

 おらおらおら、

 逃げ惑え~~~~!!!!」


 敵の武将らしき者が太刀を振り回し、大声で威嚇してくる。何かが爆発したさらに後方には、多くの黒煙が上がっていた。


 既に小荷駄が襲われている!!

 こいつらの仕業か!?


 完全に包囲される前に引き鐘を鳴らす。


 もう儂らの伊豆衆に未来はない。

 それでもなるべく多くの者を逃がさねば……


 北から大声が聞こえてくる。



「垪和の首、見えた~~~! 覚悟せいっ!!」


 少しでも時間を稼ぐため、儂は北に向かい巨躯の武者へ向けて槍を取った。

 ・

 ・

 ・




「垪和左衛門太夫の首! この後藤透徹が討ち取った~~~~!!!!」




 南部正面戦力比

 200vs900

 戦闘後

 450vs0


 ◇ ◇ ◇ ◇


 同日申の刻(15時)

 赤石砦南方1里・那波城

 那波宗俊(哀れな末路をたどるか?)



 敗残兵しか周りにいない。

 鎧は討ち捨てられ、手ぶらで逃げている。それでも300名以上が逃げられたか?

 また苦しくとも再起の可能性はある。なんとしてでもこの雪辱は、晴らしてやる!


 待っていろ、松風!!



 目の前に那波城が見えてきた。

 ここで態勢を整える。ここに残した兵100もいれば敵は、そう易々と落とせぬ。

 そのうち北条の後詰が来る。

 赤石砦が落とせずとも、ここが落ちなければまだ抵抗できる。


 その時、北方から大音声が聞こえた。


 なんだ?

 雷のような音じゃが?

 振り返ると無数の黒煙が上がっている。


 それよりも早く城に入ることが……

 そう思い城に目を向けると、今まで城壁に翻っていた那波の幟が倒され、代わりに大胡の波に千鳥の旗が掲げられた。


「そこなるは、もしや那波宗俊殿ではござらぬか? ようこそ我が城へ!」


 物見櫓に立つ、福々しい顔の男がこちらへ向けて、侮蔑の言葉を掛けてくる。

 その隣には城代の新田昌淳。あ奴が寝返ったか??


「もうあきらめなされ。あなたと大胡の殿では、あまりにも力が違い申す」


 後ろから声がする。

 振り返ると、血潮でどす黒く染められた手槍を地面に差し、こちらを涼やかに見る武士。


 殆ど返り血を浴びてないその姿に見覚えがある。

 上泉か?


「大胡の殿の所にご案内いたす。縄は掛けぬ故」


 ううう。

 無念じゃ


「いらぬわっ!」


 儂は脇差を抜いた。



 那波宗俊。

 自刃。享年39。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 異世界線上でも戦争の理論は変わらないでしょうね

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860634352977



 美味しい所を持って行く真田のゆっきー。剣聖と後藤のおっさんはいいように使われてこの人が東雲隊と一緒に先回りしていた。

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