【索敵】軽騎兵も重要

 1548年8月30日卯の刻(午前6時)

 上野国赤石砦南東約20町

 甘楽昌弘(軽騎兵索敵隊員)



 粕川を渡り物見(最近は索敵と言い始めたが)を開始して既に30町は進んだか。


 所々に散在する雑木林のほかは半分が荒れ地のまま放置され、あと半分には蕎麦が植えられている。


 今年7月初め、やっと育ち始めた稲が我が方の軍勢の手によって青田刈りされたため、生育の早い蕎麦を植えてなんとかしようとしたことが見て取れる。


 農家の3男坊の俺にとっては、忍び難いものがあるがこれも戦のせいだ。どちらが悪いというものはない。

 それよりも自分が生き残ることが一番大事だ。


 その点、大胡の殿さまはよい。殆ど戦死者を出さずに初陣を終えた。

 あのような戦場真っただ中に突入し、また殿しんがりなどをしながらも、一握りの戦傷者しか出さぬとは。


 この大胡に仕官して幸運だった。


 自分が強者つわものでないことは知っている。だから「殿自らの」面接で「何が得意??」と聞かれて、はたと言い淀んでしまった。


 しかし殿の時間を取らせるのは悪いと思い、ままよ、とばかりに「体が小さくはしっこい事です!」と威勢よく言った。


 すると殿は「おおお。僕と一緒だね、体がちっさいとこだけ~。じゃ採用~♪」と。


 何が何だかわからなかったが、すごく体格の良い馬を与えられ物見を仰せつかった。


 なぜであろうかと、物見頭に尋ねたところ「そりゃ体が小さければ馬で早く逃げられる。矢に当たる的も小さくなるからな。それで殿は召し抱えたんじゃろう」

 と。

 そんなものだろうかと、納得した。



 その後2騎で1組の物見が編成された。


 殿曰く、「つーまんせるで、にだんさくてき~」だそうだ。二段索敵を2騎一組で行うことになり、猛訓練が始まった。

 結構な頻度で殿はお見えになり、訓練を見て真剣そうな面持ちで、ウンウンうなり何かを物見頭に指示していた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 そして今、初めての実戦。

 先行する相方あいかたは俺よりも重装の大胡胴と兜をかぶり、1町前を先行している。俺が追いつくまで立ち止まり、四方に眼を配らせる。俺が5間ほどまで近づいたら、俺が止まり今度は相方が先行していく。


 まるで尺取虫のような移動だ。


 これにより先行している物見が倒されても俺だけは帰って報告できる望みが大きくなる。


 1町先で立ち止まった相方に追いつこうと、馬の脇腹を蹴ったその時、相方の馬が棹立ちになった。


 相方は落馬。

 周りに敵兵が群がる。


 やはりここも敵の進軍路になっていたか。


 俺は雑木林の陰に隠れていたらしく、まだ見つかっていない。馬をつないで敵の全貌が見えるところまで這いずって前進する。

 このために後方の俺の装束は深緑色の合羽。その下はなめし皮の胴着のみ。あとは簡易な鉢金だけだ。


 いた。

 10……200……約300から400。

 長柄・弓兵は無し、というところか。

 これで急いで本陣まで帰れば、俺の仕事は終わりだ。


 相方は……


 あとで骨を拾えれば御の字だ。次回は俺が先行する役目になるやもしれんが、それは物見の宿命。

 そう思い、急ぎ馬を繋いだところまで帰った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「左手粕川左岸、敵北上中。

 数350程度。

 長柄・弓兵は無し。

 旗印は垪和はが左衛門太夫旗下、網代成昌!」


「でかしたね~。甘楽のまーくん。これ受け取ってね」


 殿のお声が掛かる。俺のような者も名前を一々覚えているのか。

 それに小粒金の入った袋が2つ。

 大きいものと小さいもの。


「ああ、それね。ちっさいのがまーくんの。

 おおきいのは……多分帰ってこれなかった富岡左近殿の物。田舎のご家族に送り届けてもらえる? 手紙添えるので後ででいいからね。

 それが今度のまーくんの仕事。よろしく」


 と、殿は言い、くるっと向こうを向いてしまった。すかさず隣に控えていた側近の方が殿の肩に手を掛ける……


 もしや……泣いているのか? 

 大将が泣いてはいかぬ。と、普通なら呆れるであろう。

 だがそれを見ても俺は、そのような気持ちは一切沸いてこなかった。


 これが大胡の殿なのだ、これが俺らの殿さまだ。



 地図ペタリ

 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816700428659664590


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 索敵大事、超大事。

 MI作戦は嫌いです。

 

 日本海軍頑張れな世界線

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860633769159

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