★★初陣しちゃうゾ★★
【評定】酒配り?楽でいいじゃん
1546年4月下旬
上野国大胡城大広間
長野政影
(祐筆というか秘書役の方が正確だと思う役職)
本日はここ、殿の御前に大胡家の主要な家臣が集まった。戦評定なので、士分に取り立てられたばかりの者もいる。
城代を務めるようになった
家老の大胡道定殿
上泉城城主、上泉信綱殿
一の備えを率いる後藤透徹殿。
二の備え、大胡是政殿。
三の備え、東雲尚政殿。
荷駄隊、佐竹義厚殿。
勘定方、瀬川正親殿。
参謀見習と名付けられた側近、元服したばかりの上泉秀胤殿。そして既に今年で21になった某。
左肩は殿の治療のお蔭で完治、危ぶまれた筋の断裂はなかった。それ以来5年の間、信綱殿に師事し、殿に一筋の傷も負わせないようにと剣を練っている。
活人剣を身につけよ、と信綱殿。
「まったく困ったものですな、関東管領殿には。いつも無体な命を発せられる」
「今まで、出陣を下令されなかった事を幸いと思えばならぬのでは?」
「誠に。金山崩れの後、この大胡に遠慮したと考えておこうぞ」
それはないと思う。口には出せないが、今まではお松様のわだかまりがあったのであろう。本人にはなくとも、安中と小幡は遠慮するだろう。
そして此度はそれもできない、もしくはそろそろいいだろうと見切ったのか。
既に殿も齢12。
あの事件から12年もたっている。
「管領殿の下令として、小幡殿より【焼酎を】馳走いたせ、とな!?
馬鹿にしておる!!」
(注:馳走=参戦と当時は一般的に使われます)
相変わらず沸点の低い後藤殿。だがその意見には某も賛同したい。
この頃、全国で評判となっている焼酎。しかし非常に高い価格設定となっている。
僧房酒や練り酒などの清酒に比べても2倍以上する。
製法は大胡の門外不出だ。それを長対陣の慰みに持参せよとの下令。もののふに単なる荷駄の仕事で出陣せよと。
しかも殿にとっては初陣だ。
顔に泥が塗られようとしている。
「いいんじゃぁないの~?
この際だから持てるだけ持っていっちゃいましょ~。
しーえむだよん」
また販即というつもりなのであろうか。いつもながら殿は外聞とか名誉・誇りというものが一切見受けられない。
「ただ……」
一同、耳を澄ます。
「此度の対陣。まずいね~。
もう1年近くになるでしょ? 河越城囲んで。
農繁期を何度か過ごしたんでしょ?
武将をローテ……じゃない、順繰りに替えていると思うけど、もう士気がさいて~じゃないの? 足軽はお百姓さんなんだから、田畑が心配で心配でしょうがないんじゃない? かわいそうに、シクシク」
それは言えていることだ。また無駄な長対陣をするものだ。
しかも北条は拠点の江戸城との距離も近い。どうやら江戸以南で雌伏しているらしい。古河公方足利晴氏殿を出陣させることに成功し大軍で川越城を囲んでいるが、外交で有利になったとみて油断している様が目に浮かぶ。
さらに晴氏殿・扇ケ谷上杉朝定殿・山内上杉憲政殿、頭が3つあれば合戦も息を合わせてというわけにもいくまい。
「だから、この戦。負けるね。そんで大胡家としては~」
皆、固唾をのむ……
「逃げる!!」
は?
「いやいやいや。それはできますまい。さすがに関東管領の下令を無視……」
「そうじゃなくてね~、多分合戦になるよ。それも負け戦」
皆、思考停止している。
果たしてそうなるか。
さすればどうすれば?
逃げるとは?
皆、殿の顔を見、その言葉を待っている。
「僕は初陣になるとしても、まだおこちゃまだし~。元服もしてないからね。それに名誉や誇りで死ぬよりも皆の笑顔が見たい。だからみんなが絶対死なない策を練りま~す」
「それはあまりにも武人らしくない!!」
勿論、後藤殿がキレる。
「じゃあ、初陣の12のそれに元服もまだ、さらに酒配りの小僧に先陣や最前線とかあり得る? まあ長対陣だし北条が攻めてくるとしても、どこから来るか分からないよね。だから最悪の時に活躍してね。お仁王様、頼りにしているよ~♪」
この程度の声掛けで大人しくなる後藤殿である。
顔を赤くして照れている。頼られるのが好きである。
沸点だけでなく融点も甘い。
「でね。
最悪への備えとして、往路でできるだけ戦場を想定して参謀旅行しちゃおうかなって思うんです。目指せ、ぷろいせん陸軍!」
参謀旅行?
🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸
楽な戦場など、ないっ!
チートの集大成
https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860631633841
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