【人材】三方良しの人助けという理屈で人材育成だ!

 1542年6月下旬

 上野国大胡城西1里半青柳大師龍蔵寺

 賢祥

(早速振り回されるお坊さん。年齢不詳)



「おしょさん、おひさ~」


 大胡氏の当主となられた松風丸さまが参拝なされた。

 参拝というほどではないので仰々しい用意はせずともよいとのことで、普段のままの仕様にてお迎えする。


 ……この松風丸様の軽々のしぐさにはこれがお似合いなのであろう。

 相も変わらず、武士らしくないお方だ。


「今日はね。お願いがあるんだよ~」


 あごの前で両手の指を組み、つぶらな瞳? で、こちらを見ている。

 益々、仕草が剽軽になってきている。


「なんですかな? 

 お願いというのは。拙僧にできることならば何なりと……」


 ささ、こちらへ。

 と、拙僧の庫裏にご案内した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「拙僧に旅に出よと?」


 松風様はいつも突飛なことを考え、行動に移される。此度は拙僧が巻き込まれるのであろうか?


「そそ。おしょさんは前、浮浪の民や童を守りたいと言ってたよね。この際、各地の恵まれない人たちに救いの手を差し出さない? 

 そのための浄財、たんまり用意したよ~」


 それは今でも御仏の救いの手を、この戦に明け暮れて非業の死・艱難辛苦に苛まれている、打ち捨てられて片隅に追いやられた人々に光を当てたい。


 そう、毎朝毎晩祈願している。

 それが伝教大師様の「一隅いちぐうを照らせ」というものだと思う。


 しかし、旅には銭も必要、さらには危険も伴う。

 私が彼岸に旅立ったら、この龍蔵寺は……


「そろそろおしょさんの、足利学校で学問修行している長男ちゃん帰ってくるんじゃない? 

 その長男ちゃんに留守番してもらって、その願いを実現しない? 

 安全はボディー、じゃなかった、一流の剣客を用意するから安心してね~」


 それは確かに長男の賢慮は、足利より来月にも帰参する。直ぐには全てを任せられないだろうが、補佐する者はいる。


 剣客というのは上泉殿の高弟かの? 

 それならば、安全この上ない。


「でね。頼みたいのは、浮浪児に浄財を使ってひと時の安楽を与えるもいいし、近くのお寺さんに銭をお預けしてもいいです。 

 その代わり浮浪児の中から、頑健な者・賢い者その他、より良い世界を作るためになりそうな……

 ぶっちゃけ大胡のためになりそうな子たちを、見つけて連れてきてよ~♪

 これぞ三方よし!」


 三方よし? 

 私の祈願が果たされ子供が救われる、そして大胡のためになる……か。

 それもよいじゃろうな。


「暫し、考えさせてくだされ」


「うん。おしょさんの好きなことやってね。たのしいよ~。生きているなら楽しく生きなくちゃね~。僕もね、沢山の子供が助かるのは嬉しいし楽しいよ」


 松風様は本当に周りの人を楽しくしてくださる。これからも人々をどんどん巻き込んでいくのだろう。私も巻き込まれるとするかの。


「あとね。学校作っちゃおうよね。

 子供は国の宝です!」


 益々、渦は大きくなっていくの。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1542年9月中旬

 上野国上泉城城下河原

 疋田豊五郎ひきたぶんごろう

(伊勢守の一番弟子。もっと剣を修行したいのだがままならぬ人……正史では8歳! 強引に23歳へと歳をとらされた可哀そうな人)



「ひいひい。

 苦しい。

 足が立たない。

 ドキが胸胸、ヨロが足足」


 河原の丸石に潰れた蛙の様にしがみついた松風様が、弱音を吐く。

 弱音を吐いていても、諧謔かいぎゃく(冗談)を交えてくる。


「まだまだ頑張れますな。では、もう一往復行きましょうぞ」


 師の信綱様が、にこにこしながら催促する。今までの信綱様にはない笑顔だった。

 松風様を大変気に入っている様子が見て取れる。


「ひええぇ。ご勘弁を~。やっぱり僕は剣、むりぽ」


 今、下肢の鍛錬をしている。

 河原の丸石やごろた石の上で、上半身を動かさないように移動する訓練だ。

 盃に水を満たし、こぼさないようにできるだけ速く移動する。速くといってもそろりそろりとしか動けないが。


 何をするにも土台ができておらないと足元から崩れる。家なども礎石がない場合は、ちょっとした風などでも、すぐに揺らいで吹き飛ばされる。新たに雇われた雑兵にも、この訓練をさせている。


「せめて、そろそろ袋竹刀を振り回したい~」


「その袋竹刀とは何ですかな?」


 某も初めて聞いた。


「あ! 

 今のなしね。

 わたたた……」


 松風様は右手で口を押えたためか、盃の水を盛大に零し、べちっ、と、またひしゃげるように倒れてしまった。


「う~ん、できれば伊勢ちゃんの手柄にと思ったんだけどまあいいや」


 聞こえない程度の微かなつぶやきが聞こえた。

 某の耳は常人よりも遥かに敏い。これは剣戟に特に役に立つ。師には程遠いが全方向の気配がよくわかる。


「木剣って当たると痛いどころじゃないよね。

 骨折れるかな~? 

 もしかしたら、もう剣を振るえなくなっちゃうじゃない。本末転倒だよ~。だからね、打たれてもあまりいたくないように、工夫したらいいんじゃない?

 例えば、皮で長い袋を作って、折れない程度に中に何か詰めれば怪我しないかも? 

 それなら思いっきり振れると思うなぁ」


 これは驚いた。

 痛いのは嫌だとか言っておられたが、それが工夫を生むのか。

 木剣で試合することが真剣で戦うことを再現できると信じていた。命も危ない状態で試合うことが大事であると。


 しかし、言われてみれば寸止めせずに思い切り振り下ろせることで、実際の剣戟と変わらなくなるやもしれぬ。

 まだ技の固まっていない者にとっては具合がよかろうて。


「ふむ。一度作ってみればわかるな」


 顎を弄りながら考えていた師が呟いた。


豊五郎ぶんごろう。作って見せよ。使いやすいものを頼むぞ」


 それは楽しそうじゃな。早速、町の木地師と相談して、作ってみよう。


 これで休憩できると、ホッとしている松風様。

 これではなかなか上達はできませぬな……


「そうそう。ぶんちゃんにお願いがあるんだけど」


「何でござろう?」


「袋の竹刀作ったら、旅に出て見ない??」


 はっ?


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 人材は集めるんじゃなくて育てるのさ!

 これが方針です!!


 出来上がった世界線

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860631400574

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