襲撃の話1
「ルルイエ師。お出掛けかい?」
立ち上がった私に、ザイは此方も見ずに声を掛けた。勘のいい彼の事だ。不穏な気配を感じ取ったのだろう。
「ええ。ちょっと部隊の子たちも借りていくわね」
笑顔で告げると、軽く息を吐いて漸く私に目線を向ける。
「いいけどね…あまり面倒な事はごめんだよ」
「あら。貴方に言わせたら何もかもが面倒でしょうに」
まあ気を付けるわ、と適当に返して今度こそ宰務室を後にした。
折角だから、まずは……そうだ。出向させている部下の
「驚いた。ちゃあんと先生してるのねぇ」
生徒からの評判はまずまずだ。「堅いけど」「恐いけど」と某か付くにせよ、多くが「いい先生だ」と評していた。
「あぁ、居た居た。──『動くな』」
「 っ、」
指先で弾くように呪術を送る。狙い通り左腿にヒットして、華のように呪紋が広がった。
「何故…」
何故此処に居るのか、何故突然攻撃されたのか。呪縛の理由から答えてあげよう。
「ふふ。頑張っているから、それはご褒美よ」
2時間程度は動けまい。
訝しげな彼の頬に指を這わす。
「これから『合同演習』なの。良かったわね、貴方はどちらの味方もしなくて済む」
「!!」
焦りの色を垣間見て気分が良くなる。ああ。『非常時訓練』の方が良かっただろうか。そんな気もする。まあ何でも良い。後でザイが巧いこと纏めてくれるだろう。
従順な彼は私を呼び止める事も人を呼ぶ事もせず、ただその場に膝を着いた。
それでは始めよう。
まずは私が、塔を覆う防御結界を打ち払う。キレイに解除したっていいが、手始めの宣戦布告だ。派手に行こう。
最大出力で攻性術を展開、目標は塔その全て。絶大な威力を以てして全ての防御術式を一撃の下に剥ぎ取ってやる。
轟音が響き渡る。警戒又は臨戦態勢を取った講師たちがすぐに表に現れた。
「ふふふ。戦時下でもないのに良い反応ね」
連れてきた部下たちに魔術で合図を送る。
一斉攻勢開始。目標は、塔の陥落だ!
「母上!」
声と同時に、攻撃が届く。風の攻性術。威力は上々。でも定義がまだまだ甘い。届く前に相殺する。強い風が巻き起こり、私のフードを攫って行った。
「相変わらず小生意気ねぇ。これが久々の再会の挨拶かしら?」
次は此方の番だ。組み上げられていく電磁の術式を見せつける。さあ、どう動く。発動前にどうにか出来なければ範囲内の生物の命はないぞ。
「母上こそ、相変わらずお若い! その本気の殺気、心までお若いとみえる!」
文句を言いつつも高速で術式の無効化を図っているようだが、ああ残念。これは間に合いそうにない。
「!」
発動間際、場に投げつけられたのは一粒の宝石。
「あらまぁ小癪」
術式を飲み込み切れず、宝石は粉々に砕けて散った。
「横から失礼。ですが此処は学び舎。その危険な親子喧嘩はどうぞ他所でやって頂きたい」
苦い顔で入ってきたこの講師は見覚えがある。石を使った術を得意としていた――ああそうだ、確かファズといった筈だ。当時から封術を使っていたが、ここまで成長したか。
「ごめんなさいねぇ。でもダメよ? 私たち、塔の力を監査に来たの。ほら、貴方達の実力、教えてくれる?」
そこかしこで戦闘が起こり始めている。一応こちらも演習という態で連れて来ている。一部血の気の多い者もいるが、無駄な殺傷は控えるだろう。そう、つまり、魔術師以外には手を出さないだろうという意味だ。
ルエイエは厳しい顔を崩さない。
「馬鹿な。塔はもう戦力を育てる場所ではない。監査など」
「でも、ねぇルエイエちゃん。貴方好き勝手やっているけど、塔は国の物なの。役立たずなら、要らないのよ?」
今回は本当に私的な思い付きでしかないのだが。口八丁は御手の物だ。
「それにしても」
エントランスゾーンで派手にやった甲斐あって、講師や上級学生が多く駆け付けている。
「ゾロゾロ出てきちゃったわねぇ。攻城戦の心算だったのだけど」
これは単純な殲滅戦になるだろうか。自隊の練度を上げるというのも嘘ではない目的のひとつではあったが、期待できないかも知れない。飛竜隊まで連れてきたのに。
「空の護りは大丈夫かしら…」
見上げると、塔から放たれた数条の光矢。
「ご心配なく」
それは過たず飛竜を射抜き落雷の如き音を幾度と響かせた。
「塔の護りは盤石ですので」
「……」
視力を強化する。大きな弓を構えた人影が次矢を装填している。あの青の長髪は…
「そうね。あの子が居たわね」
魔弓の主候補だった弓使い。当時の塔でも指折りの攻性術士だった。
反対側の空では別の一団が燃え落ちた。あの広範囲を燃やし尽くす炎術はすぐに判る。
「スナフくんはあそこね!ふふっ」
すぐに魔術で連絡を送る。本当は近くで見守りたいが、エントランスの制圧は少しくらいは手間取りそうだ。
「さあルエイエちゃんとその他大勢。遊びましょうか。皆で来てくれて大丈夫よ」
楽しい宴の始まりだ。
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