美しい国

@imishiraku

第1話

 平日の午前は暇だ。スーパーマーケットにやって来る客は少ない。喧騒も熱気もなく、店内は寒々としている。夕方の客の一割でもいいから、いま来てくれたらいいのに。

 退屈な気分で、新海千紘はレジに立っていた。隣のレジでは、パートの主婦が欠伸をして、口に手を当てている。

 平凡な日常。それに変化を付けたくて、今日はお気に入りのパンプスを履いて来た。デニムのパンツはいつもの履き古し。

 パンツなら、客の眼に入るかもしれない。しかし、レジ係のパンプスなんて誰も気付かない。そんなことは承知している。ありきたりな日を、すこしだけ特別な日に替えるのに、他人の関心は必要ない。

「あの……」

 声を掛けられ、カウンターに身を乗り出す。老女だった。レジカウンターの外れで、背中を丸めている。眉根を寄せ、困惑気に眼を細める。両手に風邪薬をひとつずつ。

「はい」

 首を伸ばして、用件を促す。

「どっちが効くのかね」

 孫を相手にするような口調で言い、両手を突き出す。千紘は、薬品コーナーに眼を向けた。登録販売者の資格を持つ者がいる筈だ。けれども、日用品の棚が視界を遮っている。

 老女に向き直って、少し躊躇う。曲がった背中は、少し歩くのもつらそうだ。薬品コーナーに戻って、登録販売者に訊くように言ったら、どんな顔をするだろう。不親切だと思われるだろうか。けれども、千紘に回答できるわけがない。客の代わりに訊きに行くこともできない。たとえ暇でも、レジを離れられないから。

 老女は一心に千紘を見つめている。その顔はアドバイスを期待している。困った、と思いながら、老女の手を見る。握られた箱を見つめる。力になれそうな気がして、掌を広げた。途端に、老女の顔が和らぐ。カウンターに沿って、ペンギンのような足取りで歩いて来た。

 力になれそうな気がした? なれるわけがない。どうするのか。どんな説明をするのか。不親切だと思われるのが厭で、却って迷惑をかけることになる。そう思っている内に、老女が眼の前まで来た。ふたつの箱を受け取る。

 何とかできるなんて、どうして思ってしまったのか。側面の文字に眼を凝らす。すると、言葉が口をついた。

「こちらには、イブプロフェンが配合されていますね。非ステロイド性抗炎症薬です。シクロオキシゲナーゼ活性を可逆的に阻害して、プロスタグランジン生成を抑えることで、解熱鎮痛作用を得ています。シクロオキシゲナーゼは胃壁の防護作用に関与していますから、これを阻害すると、胃腸障害を発生するリスクがあります。でも、イブプロフェンはすべての非ステロイド性抗炎症薬の中で、最も胃腸障害が少ない医薬だと言えます。

 もうひとつのほうは、解熱鎮痛剤としてアセトアミノフェンが配合されています。アセトアミノフェンも、シクロオキシゲナーゼ活性を阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制します。しかし、その効果は弱く、解熱鎮痛の効果には、ほかの作用機序が関与しているものと考えられます。アセトアミノフェンの代謝物であるN‐アシルフェノールアミンが鎮痛作用に関与しているという研究報告があります。こちらの薬で胃腸障害を発生することはほとんどありません。しかし、肝障害を発生するリスクはあります。なので、アルコールとの同時接種は禁忌となります。抗炎症作用はありません」

 箱から眼を上げると、老女は眼を瞬いている。それを見て、千紘はハッとする。自分で驚いて、箱に眼を凝らす。そこに説明書きがあるわけではない。なのに、すらすらと説明が口をついた。一体、何を話したのだ。

「あの……つまり?」

 老女はおずおずと訊く。その声はしゃがれていた。千紘は、自分でもわけが判らない。けれども確信を持っていた。

「咽喉の痛みが強いのなら、こちらがお勧めです。イブプロフェンの抗炎症作用で、症状が和らぐと思います」

 そう言いながら、最初の箱を差し出す。相手は表情を緩める。

「ありがとう。それじゃ、それ、お願いね」

「畏まりました」

 PОSに通して、金額を告げる。代金を受け取り、箱にテープを貼って渡した。

 老女がレジを離れた途端、隣で身体を乗り出す気配。見ると、パートの主婦がカウンターに片手を衝いている。もう一方の手で、千紘の肩を叩くような仕種をする。

 パート同士で特別気を遣う必要はない。だが、歳は彼女のほうがずっと上だ。中年女の機嫌を損ねて餌食にされるのは厭だから、普段から下手に出ている。

「何でしょうか」

「ちょっと、あんた、凄いじゃない」

「いえ、そんな……」

「何? 勉強してるの」

「はあ、まあ……」

 曖昧に応える。しかし、勉強なんてしていない。どうして知らない単語がすらすらと口をついたのか。しかも、確信を持って一方を勧めた。一番驚いているのは、千紘自身だ。

「資格取るの? まだ、若いものね」

 主婦は千紘の戸惑いに気づいていない。質問攻めにするつもりでいる。

「ツーハン?」

 一瞬、戸惑うが、脳裡でカタカナが漢字に変換される。通販か。通信教育かと、訊きたいらしい。

「まあ、そんなところです」

「へえ、大したものね」

 言葉と裏腹に、関心する様子がない。むしろ、その眼には軽侮が浮かぶ。カウンターから身体を起こし、横目で千紘を睨んだ。

「無駄だと思うけどね。パートが偉ぶってると社員に恨まれるだけよ」

「肝に銘じます」

 胸が疼いた。ずうっと昔。遠い過去、同じことを言われたような気がした。


 いつもと変わらない午前が過ぎて行った。

 中年の主婦に、先に昼休憩に入ってもらった。千紘が休憩に入ったのは、二時過ぎだった。

 事務室の中から話声が聞こえた。ドアを開けると、声が止み、六つの瞳が千紘を振り向く。三人とも、主婦のパートだ。テーブルを囲んで、家から持って来た弁当を開いている。彼女たちは、ドアを開けたのが千紘だと判ると、それぞれの弁当に戻って行った。

 千紘は彼女たちに会釈して、ロッカーに向かう。自宅から弁当を持って来ているのだ。昨夜の余りものを詰めただけだが。初めて出勤した日は、男子社員がしているように惣菜コーナーで弁当を買った。すると、

「いいわね。独り身は。弁当を詰めなくて済むんなら、そうしたい」

 主婦のパートが、聞えよがしに言うのが耳に入った。自分ひとりのためにわざわざ弁当を作るほうが面倒だ。でも、それで白い眼を向けられずに済むのなら、面倒を厭がってる場合じゃない。

 トートバッグは、ロッカーの中で、中折れしていた。中から弁当を取り出す。朝、タッパーをランチクロスで包んだときには、温もりがあった。ロッカーの中で、すっかり冷たくなってしまった。

 弁当を持って、三人の主婦から少し離れて座った。先ほどまで話していたのに、千紘が混じった途端に押し黙ってしまった。歳の離れた千紘を、余所者だと思って警戒しているのかもしれない。黙々と箸を動かしている。誰も観ていないのに、テレビが点けっ放しになっている。その音が無機質だ。

 しかし千紘は、その音に縋るように耳を傾ける。そうすることで、黙々とした主婦たちの重い空気から逃れられるような気がした。

「ウラル共和国に渡ったシリア難民の高齢者が次々に死亡している問題で、国連難民高等弁務官事務所は、原因調査の必要性を強く訴えています」

 顔を上げると、МCがコメンテーターに意見を求めている。

「シリア難民の高齢者ばかり、死亡しているということですが、どう思います?」

「シリアからウラルは遠いですからね。気力も体力も衰えたということではないでしょうか」

「なるほど」

 頷いて、女性アナウンサーを見る。

「そもそも、シリア難民の中に、高齢者というのは、どのくらいの人数がいるんですか」

 女性アナウンサーが手元の資料に眼を落とす。

「シリア難民の年齢別割合を見ると、17歳以下が48%、18歳から59歳までが49%、60歳以上は3%です」

「3%……。少ないですね」

「ウラル共和国のシリア難民は六千人です。その3%ですから、百八十人になります。その内、38人が数日の間に亡くなりました」

「なるほど」

 МCが頷く。すかさず、コメンテーターが口を挟む。

「ウラルに行くまでは、気を張り詰めていたんでしょう。緊張の糸が切れたんだと思います。高齢者の突然死は、決して珍しいことではありません」

 МCが頷いて、女性アナウンサーを見る。

「どんな風に亡くなっているんですか」

「人によって様々です。強い胸の痛みを訴える人、ろれつが回らない人、言葉を理解できなくなる人、物が二重に見えたり、片方の視力が失われる人、呼吸困難になって血の混じった痰を吐く人。そういった症状が続いた後、意識不明になり、死に至っているようです」

 千紘の胸にさざ波が立っていた。

 シリア難民。ウラル共和国。どちらも、千紘の日常に無関係な遠い国だ。それにも拘わらず、何かしなければならないような切迫した気持ちになる。

 МCがカメラを見つめて言う。

「シリア難民の件では、これまで、若年者の未就学の問題が頻繁に議論されてきました。その陰で、老人の問題が見過ごされてきた結果でしょう」

 そんな単純なことではない。人類の命運に関わる重大事件だ。頭の中で、誰かが叫び声を上げている。そんな気がした。


 いつものように慌ただしい夕方がやってきた。レジに行列ができる。ひとりの清算をしている間に、ふたり並ぶ。

 商品を取ってPОSに通す。合計金額を告げて、金を受け取る。釣銭とレシートを渡す。最後に、紋切り型で謝辞を言う。

「ありがとうございました」

 感情を込めるゆとりはない。まるで、つい口に出してしまう言葉、そう、口癖を呟くかのように礼を言う。一連の作業。その繰り返しを、ロボットになった気分で連綿と続ける。

 世間の家庭で夕食の準備が整うころ、行列は途絶える。一日の疲れがどっとあふれ出すときだ。立ち尽くして、足が痛い。忙しいPОS打ちで、肘も首筋も痛い。

 千紘は、重い身体を引き摺るようにして、事務室に戻った。タイムカードをレコーダーに入れ、三角頭巾を外す。エプロンを脱いでいると、店長が入ってきた。

「新海さん」

 険しい顔で千紘に近づく。

「はい」

 いつもと違う雰囲気に、少し緊張して身構える。男の上司と言い合う情景が脳裡に浮かぶ。過去の経験? そんな筈はない。テレビドラマか映画の一シーンだろう。

「薬の説明をしたって聞きました。本当ですか」

 告げ口されたらしい。

「本当です」

「どうしてそんなこと」

「お客様がお困りのご様子でしたので」

「だからって、あなた、登録販売者でも何でもないでしょ。薬の知識があるんですか。不確かな知識でいい加減な説明をされたら、却ってお客様にご迷惑をかけることになります」

 店長の言う通りだ。けれども、包装箱に記された成分を見たら、薬効の説明ができると思ってしまった。全く不可解なことに、聞き覚えのない単語まで口にしていた。

「二度としないでください。いいですね」

 店長は念を押して、売り場に戻って行った。

 裏口から外に出る。辺りはすっかり暗くなっていた。店長の叱責で気が滅入り、その分、疲れが増した。家に帰って、自分のために夕食を作るのを億劫に思う。かと言って、食品売り場で総菜を買う気にはなれない。口さがないパートが残っているかもしれない。

 外食して帰ろうと決めた。始めのうちこそ、女がひとりで定食屋に入るのは気がひけた。けれども、ひとりで食事をする女が結構多いことが判って、いまではすっかり心安くなっている。ひとりで居酒屋のチェーン店に入ることだってある。

 馴染みにしている定食屋に入った。夜だというのに、客が多い。席は粗方埋まっている。どうやら、一緒に食事をする人が家で待っていないのは、自分だけではない。そう思うと、自然と頬が綻ぶ。見知らぬ他人に親近感を抱く。

 店の中央に大きな丸いテーブルがある。それを囲む人たちに混じった。直ぐにホール係が注文を取りにきた。真鱈と野菜の黒酢あんかけの写真が、メニューに大きく載っていたので、それにした。

 茶をすすりながら、待つ。周りを見回すと、ふたり、三人で連れだって座る者もいれば、ひとりの者もいる。グループ席からひそひそ声が漏れて来るだけで、店内は静かに落ち着いている。壁に掲げたテレビの音がよく通る。

「誠和創薬が新薬の開発を断念しました」

 テレビに眼を向けると、キャスターが鹿爪らしい顔をしている。

「誠和創薬が断念したのは、コレステロールの数値を下げるとされる抗体医薬で、抗PCSK9抗体と呼ばれるものです。誠和創薬は、中止の理由として、治験データに改竄があり、正確な解析を担保でなくなったためとしています」

 千紘はキャスターの顔を見つめた。

 不安が過るのは、何故だろう。周りの人の様子を、そっと窺う。テレビを観ている人は僅かだ。それらの人は、表情を変えることなく、画面を見上げている。暇つぶしにしているだけのようだ。治験の中止と聞いても、平然としている。

 ほかの人たちは、テレビを観ようともしない。当然だ。大抵の人は、抗PCSK9抗体がどういうものなのか知らない。人は、日常に影響を及ぼすのかどうか判らないものに、関心を持つことはない。

 だが千紘は、コレステロール値を下げる医薬が莫大な利益を生み出すことを知っている。現在の主流はスタチン系。これはコレステロールを合成する酵素の働きを阻害する低分子化合物だ。製薬会社の中には、会社の全利益の七割以上をこの薬剤に負うところもある。それほど、脂質異常症の医薬品は売れる。抗PCSK9抗体はそのひとつだ。

 抗体医薬は、低分子化合物の医薬と比較して、薬効が得やすく、予想外の副作用が生じにくい。また、抗体は元々血液中に存在する分子なので、安全性が高い。抗PCSK9抗体の製造販売が承認されれば、スタチンに代わって、コレステロール降下剤の主役となるのは間違いない。誠和創薬が開発に成功していたら、莫大な利益を得られた筈だ。

「誠和創薬に対しては、スイスに本社をおくバーゼルファーマが敵対的TОBを仕掛けており、今回の治験の中止がどう影響するのか、注目されます」

 世界的規模のメガファーマが、ドル箱になる医薬品を目当てに、バイオベンチャーを買収してしまうことは珍しいことではない。バーゼルファーマは、抗PCSK9抗体を目当てに、誠和創薬の買収を目論んでいたのだろう。

 バーゼルファーマの規模になると、年間売り上げ高が三億ドル程度の小粒な医薬を創っているだけでは利益を生み出せない。かと言って、大きく稼いでくれる新薬を生み出すのは、極めて難しい。

 バーゼルファーマは、規模の大きさに任せて新規化合物の探索に労力と資金を注入してきた。抗体医薬が主流になり、そのやり方は、通用しなくなっている。一方で、自社で開発した医薬の特許が次々と切れている。バーゼルファーマが、抗PCSK9抗体を、是が非でも手に入れたいと思うのは当然だ。

「お待たせしました」

 店員が黒酢あんかけを持って来た。思案するのを止め、ハッとする。どこで、抗体医薬の知識を得たのだろう。


 帰宅しても、釈然としない思いが消えない。

 ソファに座って缶ビールのプルトップを引く。心地よい音がして、ホップの甘い香りが湧き立った。グラスの口に缶を傾けると、ドアチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう。訝りながら、テーブルに缶を立て、立ち上がった。

 ドアガードを掛けてドアを開ける。見覚えのない男。白髪の角刈り。隙間から覗き込む、その目付きが鋭い。

「何でしょうか」

 細く声を絞り出す。相手は満面に笑みを浮かべた。それが胡散臭く見えるのは、眼が笑っていないから。

「警察です」

 男はドアの隙間にチョコレート色のパスケースを開いた。上半分に紺色の制服のバストショット。下半分には警察の記章。

「警察手帳?」

「ちょっと、お伺いしたいことがありまして」

「何でしょう」

「開けて貰えませんか」

 男は笑顔を崩さない。その胡散臭さに少し躊躇った。しかし、警察手帳は本物だろう。一旦ドアを閉めて、ドアガードを外した。

 それを待ち兼ねて、男が飛び込んで来た。その勢いにたじろいで、壁に背中をつけた。途を開ける形になり、千紘の鼻先を通り過ぎる。踵を擦り合わせて靴を脱ぎ、廊下に上がる。呆気にとられていると、別の男が入って来た。

 歳は三十そこそこだろうか。前髪を鼻の先に垂らした色白の男だ。妙に落ち着き払っている。表情が陰鬱で、不気味だ。こちらも靴を脱いで廊下に上がった。

「ちょっと、勝手に上がらないでください」

 ふたりとも、千紘の声を無視して、リビングに入って行く。慌てて追い駆ける。ふたりとも手袋をはめながら、周囲を見回している。

「パソコンは? ……ああ、そこか」

 角刈りの男が、壁際の机に眼を向ける。色白の男が机に行き、ノートパソコンのカバーを上げた。

「何してるんですか。勝手に触らないでください」

 足を踏み出す。角刈りの男に手首を掴まれた。

「おとなしくしていてください」

 色白の男は、パソコンの電源を入れ、ウインドウズを起動させている。起動に必要なパスワードを知っている。どうして? 薄気味悪く思っていると、ポケットからUSBメモリを取り出し、ポートに挿し込む。

「ちょっと、変なウイルス入れないでよ」

 ディスプレーを見ると、文字の羅列が端から端へと、次々に走破している。角刈りの男がぼそっと言う。

「治験薬のデータを改竄しましたね」

「え」

 虫が這うような、ぞわっとした感覚が全身に走った。定食屋で観たキャスターの顔が浮かぶ。

「私が改竄した?」

「ええ。そうです。ニュースをご覧になっていませんか。世間は既に知っていますよ。誠和創薬の件」

「私はそんなことしてない」

「残念ですが、あなたがどんなに反論しても、その声は誰の耳にも届きません」

 身体じゅう、虫が這い回る。ぞわぞわとした感じが止まない。不快感が波のように押し寄せる。

「改竄て……。私は、そもそも製薬会社の人間じゃないし……」

 角刈りの男が、千紘の顔を覗き込む。笑みを浮かべる。

「データの改竄が露見し、治験は中止になってしまいました。さぞかし、責任を感じているでしょうね。ええ、生きているのに耐えられないくらい、重い、重い責任です」

 男は上着のポケットに手を突っ込んだ。その手を広げると、アンプルがひとつ載っている。

「スキサメトニウムです。ご存知でしょ」

 知ってる? 確かに知っている。

 手術で麻酔として使用する筋弛緩剤だ。静脈注射されたら、全身の筋肉が弛緩する。呼吸筋も動かせなくなる。つまり呼吸停止して、死んでしまう。

 どうしてそんなことを知っている?

 千紘は逃げようとした。しかし、恐怖のあまり、身体が言うことを利かない。片足をほんの半歩ずらしただけで、それ以上、動くことができなかった。角刈りの厚い手が伸びる。その手が千紘の腕を掴んだ。

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